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幻想異変録  作者: 凍曇
2章 天狗の山
23/151

23:時間稼ぎ

『…さて、やることは分かっているね?諏訪子』

『当たり前じゃん!つまり私達のやることは…』

『『早苗が助けを呼んでくるまでの間私達が時間稼ぎする事!』』


 幻想天狗はため息をこぼすと何かを唱え始めた。


『のうまく さんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん』


 幻想天狗が唱え終わるのと同時に幻想天狗を押さえつけていた呪術が霧散する。


『さてさて、神様が相手となると流石に骨が折れるのぅ…』


 幻想天狗の顔にまた赤い紋様が浮かび上がる。


『さっきの不思議な術でまた穴あきにでもする気かしら?』

『残念ながら人間道は人にしか聞かんのよ。そこら辺はお主の隣にいる注連縄の神が知っておろう』

『神奈子?どういう事?』


 神奈子は冷や汗をかきながら答える。


『さっきのは…六道の一つだ…そして式神に使ったのは人間道の四苦八苦の一つ愛別離苦だ』

『…?どういう事かさっぱり分からないんだけど…』

『六道というのは生きとし生ける者が業を積み重ねた結果、輪廻転生する6種の世界の事を指している』


 幻想天狗はその次の言葉を引き継ぐ。


『つまりだ、我は6つの世界を使役している。世界には必ず理がある。お前たちに分かりやすく言えば物が腐ったり、地獄は罪人を裁く世界だったりとかそんな感じじゃのう』


『それじゃお前は…!』


 幻想天狗はニヤリと凄惨な笑みを浮かべる。

 やっと理解したかと言いたいみたいに。


『天狗とは元々、僧侶などの法力のあるものが死後どこにも行けず天魔の鬼になった者を指す名称でな。まぁ中には武芸者なども大天狗になったとあったらしいが…あんなのは大天狗ではない。尸解天狗より少し強いって程度じゃ』


 幻想天狗は錫杖を神奈子と諏訪子に向ける。

 凄惨な笑みを崩さずこちらに殺意をぶつけてくる。


『それでは第2幕の開始じゃ!!』


 一瞬にして諏訪子の前まで距離を詰める。

 錫杖で諏訪子めがけて突くが白い蛇が地面から出現し攻撃を阻む。

 錫杖が蛇に絡まれて一瞬幻想天狗の動きが止まってしまった。

 その一瞬の間に横から柱が飛び出てきて幻想天狗を吹き飛ばす。

 幻想天狗は吹き飛ばされた状態のまま思いっきり息を吸い込む。

 その吸い込んだ空気を口から火に変えて吐き出した。

 神奈子と諏訪子はそれぞれ跳躍し火炎を回避する。


『おいおい…マジか…口から火吹く奴は初めて見たぞ…』

『も、燃えるかと思った〜!』


 幻想天狗は黒い羽を出しており空中で静止している。


『うーむ…やっぱり強いのぅ…』

『へ…お前さんがそれを言うかい…』

(結構本気で攻撃したつもりなんだがな…あの天狗は意に介さず…か)

『よーし、それじゃあ少し天狗ぽっい術を見せてやろう!』


 そう言うと幻想天狗は両手を天に向かって伸ばした。

 その時一番早く反応したのは諏訪子だった。

 諏訪子が空を見上げている。

 神奈子も諏訪子の視線の先を追うと…。


『げっ…あれは流石にマズイぞ…!』


 二人の視線の先にあったのは黒雲だった。

 しかもただの黒雲ではないことは見た目からして分かる。

 あまりにも濃すぎるのだ。

 雲の質が。

 そして…多分これから落とされるであろう雷の威力が察せられる。

 

『雷は昔から災厄として人に崇められたが…さて、お主達はどうかのう?』

『全然天狗っぽくねぇぞ…畜生…!』

『天狗は災厄を起こす妖怪だからあながち間違ってはおらんさ』

『ちっ…!無茶苦茶すぎる奴だな…!』

『…どうする?神奈子』

『お手上げだ…』


 諏訪子が何とも言えない表情で神奈子を見つめている。

 やがて後ろ髪をポリポリかくと少し寂しそうな表情をする。


『ま、時間稼ぎは十分か…』

『後はきっと何とかしてくれるさ。私達が認めた子だろう?』

『うん、そうだね。神奈子の言う通りだ』


 さらに黒雲は大きくなりバチバチ音を立て始めた。


『最後の言葉はそれで良いかな?』

『…出来ればこのまま何もしてくれないでくれた方が嬉しいけど』

『そうか…残念じゃったな』

『そう…残念ね』


 幻想天狗は腕を下ろす。

 ピカッと一瞬光り、そして遅れて轟音が轟いた。

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