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幻想異変録  作者: 凍曇
2章 天狗の山
22/151

22:策略と空からの侵入者

 幻想天狗がゆっくりと歩いて近づいて来る。

 そこには余裕がありそして有無を言わせぬ力強さがあった。


『さて、念のためにトドメの一撃を…』


 幻想天狗が錫杖を倒れている早苗に振り下ろし当たると思われた瞬間、幻想天狗の動きが止まる。


『…?』


 神奈子と諏訪子は訝しげな表情をして、幻想天狗の動向を見ている。

 彼女たちにも今何が起きてるのか理解が追いついていないのである。


『我とした事が…お主らも一枚噛んでいたという事か?』

『…?』


 何を言っているのか分からない。

 しかし幻想天狗はイラついた調子でこちらに質問を投げかけてくる。


『だからぁ…お主らがこの呪術をかけたと言っておるんじゃが?』

『呪術?』


 言われてからよく見ると幻想天狗の体に何か黒いものが巻きついており幻想天狗が身動き取れていない。

 ますます意味が分からなくなり神奈子と諏訪子が混乱していると幻想天狗がため息をつく。


『その顔じゃ何も知らんようじゃな。あの小娘…見かけによらず腹黒い奴じゃな』

『どういう事だ…?』

『なんじゃ、まだ気づかんのか』


 やれやれといった調子の表情で身動きが取れないまま口だけが動く。


『今、我の目の前で転がっているのは本人ではなく式神か何かの類じゃな。かなり高度な式神じゃのう』

『式神…?じゃあ早苗は…』

『さて、今頃どこにいるのやら…。しかしめんどくさい呪術じゃのうこれ…!』



『はぁ…!はぁ…!』


 早苗は山の中を走りながら逃走していた。

 早苗の脳裏には昨夜の文との会話が浮かんでいた。


『良いですか早苗さん。私の知り合いで信頼できる天狗達を何人かそちらに派遣します』

『はぁ…。けどまたどうしてです?』

『まだ何かは分からないんですがどうやら上で何か不穏な動きがありましてね…。何やらこの山のことについての資料を漁っているみたいなんですよ』

『何かこの山で気になることでもあるんですかね?』


 文は腕組みをしながらうーんと何かを悩んでいたようだが意を決したようにヒソヒソ声で教えてくれた。


『それがどうやらその天狗は元々この山に住んでいた天狗らしいんですよ』

『え…?』

『この話は後で詳しく話すとして重要なのはここからです』

『まず、この山に住む我々ではおそらくあの天狗には勝てないでしょう』

『…それは神奈子様達も含めての事でしょうか?』

『失礼な事を言いますがその通りでしょう。ですからもし何かあった場合は誰かに助けを求めてください。きっとそれが我々が勝つ方法です』



(神奈子様、諏訪子様ごめんなさい!けどきっと助けに行きますから待っていてください…!)


 早苗が森を出口まで走る。

 本来は空を飛びながら移動した方が速いのだが今誰かに見つかっては誰にも告げず逃走した意味がない。

 そして出口に到着し目の前には…。


『うそ…なんで…』


 早苗は絶句した。

 何故なら目の前にあるのは山の外側の景色ではなく結界があったからである。


『そんな…!これじゃ皆を助けに…!なんで結界が…!』


 早苗は目尻に涙を浮かべる。

 今もこうやって立ち往生してる間に皆が危険に晒されている。

 何も出来ない自分が悔しくて結界をドンドンと叩く。


『誰か!!助けてください!!…誰か、助けて…』


 早苗はぺたりと座り込み涙をポロポロと流す。

 さっき呪術が発動した感覚があった。

 つまりもう呪術は発動し、幻想天狗の足止めになっているだろう。

 しかしその呪術はもう解ける頃合いだ。

 つまりこのままでは誰も助からず山は支配されてしまう。


『ぐす…誰か…助けて…神奈子様…諏訪子様…』


 もう駄目だと早苗が諦めかけた時、空から誰かの声が聞こえてきた。


『きゃぁぁ!!落ちるー!死ぬー!』


 子供のような高い声の悲鳴だった。

 そしてその悲鳴は少しずつこちらに少しずつ近づいてくる。

 早苗は涙で濡れた顔をその声の方向へ向けると人影が上から降ってきた。

 それは長い黒髪でどこか見覚えのある服装をした女性だった。

 背中には白衣でくくりつけられた金色の髪をした女性が泡を吹いている。


『え…?誰…ですか?』


 早苗が思わず呟いてしまった言葉に黒髪の女性が反応し振り向く。


『あー驚かせてすまんな。ちょいと聞きたいことがあるんだけど守谷神社ってどこか分かる?』

『あ、あのどちら様ですか?』

『ん?私か?私の名前は…先生とでも呼んでくれ!』

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