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幻想異変録  作者: 凍曇
9章 雪山にて
120/151

120:集結

『いいか、ゆっくり呼吸をしろ。まずは落ち着くんだ』


 レミリアは一条にそう言い聞かせる。


『うぐっ……がっは、はぁはぁ……』


 一条は両手を地面について血を吐き出している。


『絶対に今吸血鬼化を解くなよ。お前の命は吸血鬼の能力でギリギリ繋がってる状態だ。苦しいかもしれないが耐えるんだ』


 レミリアの言葉に一条はコクリと頷く。

 もう一条は動けないだろう。

 魔法を使うだけならまだしも誰も到達出来なかった五重魔法に到達し、発動させたのだから反動はかなり大きかった。

 まず、体の8割の内臓は死滅してしまっている。

 レミリアの言った通り、吸血鬼の能力で少しずつだが死滅した細胞や内臓が再生しつつある。


(……それでも今一条が感じてる痛みは想像を絶するでしょうね。息をしてるのが不思議なくらいよ。本当に生きてて良かった……)


 パチュリーは一条が生きていた事にとても安堵していた。

 一条の戦いを誰よりも一番間近で見ていたパチュリーは毎回表には出さないがかなりの心労となっていた。

 一条は他人ばかりを優先させる傾向があり、自分にかなり無頓着なのだ。


(他人に優しく自分に厳しく、って型には当てはまらないのよねこの子……。そもそも自分を見ていないというか自分に厳しい優しい以前の問題ね)

 

 一条の影から椛が出てきた。


『ぶっは!肺が焼かれるかと思った……』

『……すみません。無茶、させて……』

『喋らないでください。貴方の方が私よりずっと重症なんです。むしろ謝るのはこちらです。無理をさせて申し訳ない……』


 椛は微笑み座り込む。


『一条のおかげで……』

『勝てたと?』


 夢想天生により霊気と化した霊華が椛の首に触れようと手を伸ばしていた。

 時間がゆっくりと流れる。


 椛は目を見開いてその場から反応出来ずにいた。

 一条は左手を伸ばして霊華に手を突き出す。

 だが、その手は空を切った。

 しかし、一条は霊華に向かって手を伸ばしたのではなく、椛の襟を掴むために手を伸ばしていた。


 一条は椛の襟を全力で引っ張り、代わりに一条が前のめりになる。

 霊華の手は一条の肩に食い込みあっさりと左半身を破壊する。


『いち……!』


 椛が名前を呼ぶ前に地面の影に飲み込まれる。

 レミリアとパチュリーはあまりにも一瞬の出来事に思考を停止してしまった。


『今度こそ終わりだ。人間』


 霊華は手を緩めず、すぐさま拳を突き出す。

 一条の瞳にもはや生気はなく、ただ霊華の拳を待つのみの状態だった。


 その時、

 瘴気を纏った巨大な骨しかない手が霊華を吹き飛ばした。

 ボッ!と空気を切り裂く音が遅れてやってくる。


『よくやった、そして心から謝罪をしよう。お主を巻き込んですまない』


 シャラン、と金属が擦れる音が響く。

 それに合わせて足音が二つ聞こえてきた。

 一条はその言葉だけは聞き取れたが何を言ってるかまでは理解出来なかった。

 もう、一条は考える事すらも出来なくなってるぐらい衰弱していたからだ。


 それでも、一条は無意識下で一つの行動を起こす。

 影だ。

 そこから、椛を出してあげた。


『一条!……ッ!!な、なんで貴方は私を庇ってここまで!!!』


 一条の元に急いで椛は駆け寄る。

 そのまま一条の近くで崩れ落ちる。

 椛も椛で限界だったのだ。

 それでも椛は涙を流しながら後悔の言葉を吐き出す。


『くそっ、まただ……。また私は誰も救えずに助けられている……。早苗さんも、文さんも……皆……私に力がないせいで……!くそ、くそ!!クソォォォォ!!!!』


 椛は声をあげて慟哭した。

 その時、そっと椛の頭に触れる手があった。

 幻想天狗だ。


『すまないな……。お主にはまた辛い思いをさせてしまった。片腕を失ってまで尽くしてくれて本当に感謝する』

『ううう……私は……私は……!』


 そして幻想天狗は立ち上がり顔をあげる。

 その顔は怒りに満ちていた。


『サクヤ』

『何よ』

『この子達を頼む』

『……貴方一人であんなのと戦うつもり?』


 サクヤは極めて冷静に幻想天狗と会話をする。

 その会話に割り込む声があった。


『そこの嬢ちゃんの言う通りだ。沙霧、お前一人でどうこうなる相手でもないだろう。少し頭を冷やせ。勝てる相手も勝てなくなるぞ』


 その声に幻想天狗は驚いたように声の主は顔を向ける。

 そして、掠れた声で呟いた。


『八雲……なのか?』

『ああ、久しぶりだな。後は私に任せて欲しい。そして、』


 そう言いながら鬼の面を被った女性、八雲が歩いてきた。

 言葉の続きを紡ぐ。


『こんな茶番を終わらせてやるさ。私の手で幕を下ろしてやる』

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