119:まだ絶望は終わらず
『なんで髪まで伸びてるの?』
レミリアがそう質問するとパチュリーはすぐに答える。
『私の力を使いすぎてるからね。人間を媒体に悪魔を召喚するっていう実験があったんだけど、それに面白い話があったの』
『面白い話?』
『そ、あくまで人間を媒体にしたんだから見た目はその人間っていうのは大体分かるわよね?』
『まぁ、そうなんじゃないのか?あくまで体は人間なんだろう?』
レミリアはパチュリーが何を言いたいのか分からず眉をひそめる。
それに気づいてはいるのだろうが、特に気にする様子はなくパチュリーは話を続ける。
『ここからが本題、その悪魔は能力を一定以上使うと姿が変わるらしいの。元の悪魔の姿にね』
『……変身とは違うのか?元の力を使うために元の姿に戻ったとか』
『違うわ。変身は任意で行うものだけどこのケースの場合無理矢理戻ってしまうの。どうしてだと思う?』
『……人間の体の方が持たないから、とか?』
『半分正解、半分不正解ね。答えは悪魔の力を使うために引っ張られるのよ。中身にね』
レミリアはよく分からない、といった表情をしていたのかパチュリーはもう少し補足が必要かしらね、と呟く。
『分かりやすく言えばさっきまで一条はレミィの力を使って吸血鬼化してたでしょ?見た目は変わらなかったけど中身は吸血鬼だったわ。つまるところ、自身の力ではなく中にある他の力を使うとそっちに引っ張られるのよ』
そう言ったまま悲しげな目で一条へと視線を移す。
『……まったく皆は勝手よね。ただの人間にここまで追い詰めて遂にはここまでの事を成し遂げるとこまで押し上げて……』
『ゴフッ!えっゲフゲフ!!グソ……まだだ……』
髪が異常に伸び、顔の右半分が文様に覆われている一条。
その姿は文様を除けばパチュリーの姿にそっくりとも見れただろう。
『太陽は落ち、月は昇る』
一条は詠唱を続ける。
その度に一条から膨大な魔力が溢れてくる。
『あるものは地、天、星、光、闇。星達は煌びやかに踊り狂う』
上空に巨大な魔法陣が描かれていく。
それを見ていたパチュリーは驚いた。
(……私の知らない魔法)
『闇の中では星がよく見える。光は星を覆い、地を覆う。それでも、人は夢を星に託す。闇の中で輝く星は人の願いを糧に燃えて、輝きを増していく』
魔法陣の上に違う魔法陣が描かれていく。
三重魔法陣へと進化を遂げたのだ。
しかし一条は口から血がとめどなく溢れてくる。
今にも死にそうなぐらい意識も途切れ途切れにまだ言葉を紡ぐ。
『地の者は……空を見上げる。願いを、蓄え燃え……続けた星、は、天から降り注、ぐ』
三重魔法陣はいつの間にか五重魔法陣へと変貌していた。
大気が今にも焼き切れんばかりに震えている。
それに、気づいて観測していた者達がいた。
『……おいおい五重魔法陣なんておとぎ話じゃねえのかよ……』
1人は、森の中で空を食い入るように見ていた魔理沙。
『……』
1人は、誰にも観測されない場所で異変に気付いた八雲。
『……急ぐぞサクヤ』
『ええ、分かってるわ』
2人は、霊華を探し回っていたサクヤ、幻想天狗。
その時、気づいた者達は皆、次に起こる現象を目の当たりにした。
それは、
『一群の煌めきは全てを呑む、五重星団』
空が割れた。
暗雲立ち込めてた雲は千切れるように真っ二つに裂け、そこからは夜空が見えた。
ちなみに今の時間帯は昼、夜空が見えるはずがないのである。
星が次々と夜空で輝き墜落してくる。
星は五重魔法陣を通って膨大な熱量を持って降り注いだ。
瞬間、音、光、熱が世界を支配した。
そう、例えるなら核を落とされた時と同じ光景が何度も目の前で繰り返されているような、星一つ一つが核以上の威力を持って。
霊華はその光景に驚きで口をあんぐりと開ける。
『悪いね。このまま俺と心中してもらうよ侵入者!』
もう1人の一条がそう言うと鎖がもっと強く霊華を締めつける。
『くそっ、これで終わりか』
そして、星は霊華を中心に何度も何度も降り注いだ。
全て吹き飛んだと思った。
だけど、破壊されたのは霊華を中心とした地面だけ。
他は何もなかったかのようにただの妖怪の山の景色だった。
『なんとか間に合ったな……』
そう言って札を数枚握りしめていたのは鬼の面を被った黒髪の女性。
八雲だった。
そして、爆発の中心地には一条はいなかった。
そこにいたのは、夢想天生を発動させていた傷一つない霊華だった。




