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幻想異変録  作者: 凍曇
9章 雪山にて
117/151

117:手足をもがれようともまだ諦めない

『……すまない。君には助けられてばかりだな』

『いえ……』


 椛は一条の魔法により左肩の止血をしてもらっていた。

 かなりの血を流したせいなのだろう、椛の顔色はかなり悪い。

 だが一条の顔色はそれ以上に悪かった。


(まだ吸血鬼化は継続中か……。最大出力なのに意識を失わないという事は……もうそこまで力が残ってないって事か……)


『一条、話がある。中に来い』


 突如レミリアが一条の目の前に出現してそう言ってきた。

 そういえばいつのまにかレミリアとパチュリーが消えていたことに気づく。


(……それは今行かないとダメですか?)


『ダメだ。お前の言いたい事は分かるが取り敢えず来い。安心しろ、中での会話は現実時間では1秒にも満たない』


(分かりました。すぐ行きます)


 一条は心の中で会話しながらふと気づく。

 ノーレッジさんだけではなくレミリアさんも俺の心の中読めるのね。


 そう思いながら目を閉じて集中すると、突如浮遊感に襲われる。


『来たな』


 声が聞こえた。

 目を開けるとそれはいつか見た景色、ヴワル魔導図書館だった。

 一条は椅子に座っており、それに対になるよう椅子がもう一つ置いてあった。

 その椅子には小さな吸血鬼ことレミリア・スカーレットが座っていた。


『……それで、話とはなんでしょう』

『そうだな、回りくどいのは嫌いなので率直に聞こう。お前今どれくらい内臓が機能している?』

『…………それは』


 長く間を空け一条は口籠る。


『今ここにパチェはいない。席を外してもらっているからだ。パチェには少々酷な話だからな』

『何故その話を今する必要があるんですか……?』

『お前が今、自分自身を把握しきれてないからだ。私は今、お前自身(・・・・)だということを忘れてないか?』


 一条はその言葉に押し黙る。


『……どうしても今言わなきゃならない事ですか?』


 言葉のニュアンスを変え、再度レミリアに問う。

 それに対して違う答えをレミリアは提示してきた。


『その質問をするという時点で把握はしているようだな。なら構わん、この話はオマケみたいなものだ次の話が一番重要だ。いいか?』


 一条は頷く。


『力の使い方をお前に教える。数少ない私の記憶だからな。特にメリットとデメリットについてはちゃんと覚えていってくれ』

『分かりました』






『……一条?どうかしましたか?』

『ゴホッゴホッ!あ、いえ。ちょっと考え事をしてました』


 止血は終了し、一条は咳き込みながら首を振る。


(思ったより話が長かった……。というより今は吸血鬼化してて良かった。じゃなきゃ魔法使ってる時点で体爆発しそうだし)


『一条。この状態を説明してもらえますか?』


 椛は説明を求めた。

 それもそのはずだ。

 今、周りの景色は色素がなく白黒の世界に一条と椛はいた。


 椛の足元には真っ二つに割れたカードと光り輝くカードが落ちていた。


『タロットカードって知っています?』

『えーっと、名前だけなら崩壊期前に一度聞いたことあります。何やら異国の札とかなんとか』

『ま、それで合ってます。そのカードには色んな絵が描いてあるんですが、一つ一つに意味があるんです』

『ははぁ……将棋みたいな感じですね?』


 何故かドヤ顔で言ってきた椛に対して戸惑い気味に一条は頷く。


『そ、そうですね。そして俺が先ほど使ったカードは吊された男、世界です。吊された男は椛さんの身代わりになって壊れましたね』

『それじゃあ世界とかいうカードは何を?』

『今起きてる現象は世界がやっています』


 椛はなるほど、と思った。

 つまりあの化け物のような人間の拳が私に当たらず死ななかったのは一条のお陰であるという事、そして現在進行形で今も他のカードの能力を使って助けられているという事を椛は理解した。

 

 それと同時に消えかけていた自責の念が蘇ってきた。


(どこまでも助けられてるな……私は。早苗さんや文さんを失って、これ以上失いたくなくて強くなったのに……私はまた、助けられている……)


『椛さん』


 一条に呼ばれて考えが途切れる。


『はい、何でしょうか?』

『次で決着をつけましょう。もう使える手もほとんどありません。次で最後です』

『具体的には何を?……正直、私はアレに勝てる自信はない』

『時間を稼いで欲しいんです。5秒だけでも』


 5秒。

 聞くだけならとても短く感じるような数字だろう。

 だけれど今回、その5秒はかなり大きい。

 霊華相手には時間を稼ぐことすら難しい。

 それほどの強大な相手なのだ。


『……簡単に言ってくれますね。片手の私じゃ1秒も持つか分かりませんよ』

『……かもしれません。ですから今度は私の"影"を貸します』

『影?』

『そうです。今から作戦を伝えるのでそれから椛さんの判断をください。世界もあまり長くは持ちませんので少々言葉足らずになるかもしれませんが』

『分かりました。話してください』

『まず、最初にですが———』






 霊華は辺りを見回す。


(確実に当てた感触はあった。だがあの天狗は姿を消しただけで気配はまだ残ってる。……あの人間のせいか?)


『そろそろ壊は旧都に帰れた頃かな


 そういって霊華が一歩踏み出した時、後ろに突然気配が発生し、霊華は振り向く。

 そこには、どこから出現したのか片手で刀を持ち、横一閃に斬りつけようと行動する最中の椛がいた。


 そして、椛の白刃が霊華を捉える。

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