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幻想異変録  作者: 凍曇
9章 雪山にて
116/151

116:最後の最後まで悪足掻き

『一条……。くそっ、私は彼に任せっきりでいいのか……?』


 椛は刀を持つ手につい力を込めてしまう。

 一条がアイツの相手を一人でしていた。

 体に穴を開けてもなお食らいついていた。


(……一条だってかなり疲弊しているはずだ……。なのに無茶をしてまで私達の為に……)


 唇を噛む。

 自分が無力だと思い知らされた。

 一人の子供があんな化け物に戦っているというのに私はどうだ?

 太刀打ちが出来ず挙句には途中で一条に助けられて私はただ傍観しているだけだった。


 ふと顔を上げると一条が血まみれになりながらも霊華と戦っていた。

 戦況は最悪だ。

 一条の様子がおかしく狂ったように延々と霊華に突撃してはダメージを受けている。

 

 もう、見てはいられなかった。


『くそっ!私の命を引き換えにでも一矢報いてやる……!』






 一条は仰向けに倒れていた。

 目、口、鼻というありとあらゆる場所から血をドクドクと流しピクピクと痙攣していた。

 体には欠損部分もあり、肩口から左手と左足が削がれていた。


『はぁ……はぁ……。こいつ……自分の血を私に浴びせて火傷を負わせるとか……』


 霊華の右腕と右頬に火傷のような跡が出来ていた。


(自分の血を沸騰させてわざと攻撃を食らいつつ本命の吸血鬼の腕力で私を仕留めに来る……か。こいつ、崩壊期の後に生まれたイレギュラーの妖怪か……?)


 霊華は汗を拭いながら頭の中で時間を計算する。


(15分……という事は残り時間は35分。……ん、違うな45分か)


 霊華がチラリと下を見るともう一条は気絶したのか体は少しずつ再生しているがピクリとも動いていない。


『悪いな、私は皆の為に私の正義を捨てた。今の私は皆の為に人を殺す事も容認する』


 この言葉が聞こえてないのは承知で霊華は語る。

 

『勇敢な人間。お前を同じ人間として誇りに思う。勝つ為に全てを捨てて……ああ、くそっ、こんなこと言ってたら後悔が生まれるだけだろ……』


 霊華は細く息を吐き出すと一条の胸ぐらを掴み、持ち上げる。

 一条を上空は投げ飛ばす。

 

『さようならだ。名も知らぬ人』


 落ちてきた一条を捉えると霊華は拳を握り目の前に落ちてくるのを待つ。

 そして、一条は動く事もなく霊華の目の前へと落ちてくる。

 拳を振るう。


 その時だった。


『させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


 椛が一条と霊華の間に飛び込んできた。

 事は一瞬だった。


 間に飛び込んだ椛は右手で一条を自分の胸元に引き寄せ、体を捻り攻撃を回避しようとする。

 だが、間に合うわけもなく拳は椛の左肩に当たり、左腕が吹き飛んだ。


『う、ぐぅぅうアアアア!!!??』

『チッ!まだ邪魔者が……!』


 椛は、一条を抱き寄せたまま左肩から血を撒き散らしながら全力でその場から跳躍した。


(いたい、いたいいたいいたい痛い痛い!!!!)


 あまりの痛みに体全体が熱を持ったかのような感覚が椛を襲う。

 それと同時に思った。

 一条はこの痛みに耐えながら先程まであの化け物と戦っていた、それだけで感謝、後悔、疑問といった様々な感情がごちゃ混ぜになる。


『悪足掻きだな』

『ひっ!』


 空中に飛んでいたはずの椛の後ろに霊華がいた。


(やだ!嫌だ!……終わり?あ、死ぬ?ダメ、駄目?)


 椛が絶望で思考がめちゃくちゃになっていると、ふと声が聞こえた。


『……はん……グ、ドマ……ん……』


 一条だった。

 息も絶え絶えに何かを呟いていた。


 何を言っているのだろう、そう思って一瞬そちらの方に思考が集中してしまった。

 それがダメだった。


(あ、終わった)


 霊華の拳が今度こそ椛を捉え、打ち砕いた。


 はずだった。


『……消えた?』






『……生きてる?』


 椛は気づけば雪に埋もれてた。

 胸には身動きの取れない一条。


 椛が今いる場所は先程いた場所とは少し離れた場所だった。

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