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幻想異変録  作者: 凍曇
9章 雪山にて
115/151

115:覚醒、変貌

 ああ、まただ。

 またこの感覚だ。

 体に力は入らず、少しずつ死が自分の体を蝕んでいく。

 抵抗は出来ず、痛みに耐えることも出来ないが声も出ない。

 なされるがままに死んでいく自分。


———だけど。


 まだ死にたくない。

 もう、あんな思いはしたくはない———






 一条の体はぐらりと傾く。

 そのまま地面に仰向けに倒れてしまった。


『……お前、人間だったのか……?』


 霊華は驚きと恐怖の入り混じった複雑な顔で倒れた一条を見下ろす。

 殺すとまではいかなくても多大なダメージは与えられるだろうと思い突き出した正拳、彼の体は非常に硬く、人間のそれとは思えなかった。

 だからこそ油断した。

 これくらいでは死なないだろうと、霊華は油断していたのだ。

 

『れ……みり、あ……』


 誰か大切な人の名だろうか、弱々しい声で目の前の男は何かを呟いている。

 その名前には久し振りに聞く懐かしさがあった。


(レミリア……?霊夢の友人と名乗っていたあの吸血鬼……)


 一条は口をパクパクさせて何かをまだ喋ろうとしている。

 せめて最後にその言葉だけでも聞き取ろうと無言で耳を傾ける。


『やく、そ……く』


 そう言うと一条の体に変化が起きた。

 突き破った腹の周りの皮膚が伸びて傷を塞ぎ始めたのだ。

 それどころではない、彼の右目が紅く染まっていき、濁りながらも煌々と輝いている。


 メキョ、ゴキゴキ、一条の体から嫌な音が響く。


『なっ……!』


 霊華は突然の出来事に瞬間的に様々な事を考えてしまう。


(再生!?しかもありえない速度で!……レミリアは吸血鬼だった、まさかこいつも……?)


 霊華はそこであることに気づいた。

 そう、今日は雪で日光が一切出ていないのだ。


(けど、分からない!本当に何なんだこいつ!!まるでこいつ1人を相手しているのに複数の敵と戦っている感じだ……!)


 一条はノーモーションで起き上がり霊華の腹へ殴りつけていた。

 大きな衝撃が霊華を襲う。

 

(まともに攻撃をくらってしまっ……!?)


 霊華は宙を舞っていた。

 体が痺れてうまく動かない。

 どうやら鳩尾を突かれたらしい。


『くはぁぁぁ……』


 一条は熱い吐息を漏らす。

 一条はその場で獣のように跳躍し、宙に浮いた霊華に膝蹴りを叩き込む。

 ズドン!と鈍い音が響き霊華は苦しげに呻く。


 霊華は着地がまともに出来ないまま地面に墜落していった。

 対して一条は着地する際に猫のように両手両足で着地した。


 痺れる体を無理矢理動かして霊華は起き上がる。


『まるで血に飢えた獣だな……』


 霊華は体をゆらりと揺らす。

 対して一条は無言のまま立ち上がり体からバキバキ、と何かが壊れていくような嫌な音を連続して響かせている。


『もはや手加減は無しだ。たとえお前が人であろうと、それは人から逸脱した力だ。だからこそ、ここで……』


 霊華の姿がブレる。

 霊華が脚に力を込めて猛スピードで駆ける一連の行動の無駄のなさが、霊華の体がブレているように見えたのだ。


『貴様を討つ!!!』


 1秒にも満たない僅かな時間で一条の懐まで移動して拳を振るう。

 それに対して一条は体を僅かに傾ける事で回避、それに合わせてカウンターのパンチを繰り出す。


 だが、霊華はまるで効いていないかのような平然とした態度で蹴り、手刀、拳、様々な攻撃を繰り出しては

 それをギリギリで一条は躱しながら何度もカウンターを繰り出す。

 その繰り返しであった。


(こいつ……!さっきとは比較にならないぐらい身体能力が上がっている……!それに……)


『はっ、理性をかなぐり捨ててまで私に勝とうとするか』

『ぐがぁ!!』


 一条は雄叫びを上げながらカウンターを繰り出す。

 だがその繰り返しにも終わりが来た。

 時間にして実に数十秒、その間に幾度の激しい攻撃を繰り出し返されたが、遂に霊華は一条の左腕を掴む。


『ようやく目が慣れてきた。お前の動きにはもう惑わされん』


 そう言いながらあっさりと一条の左腕を捥ぐ。

 一条の左肩からは鮮血が撒き散らされる。


『ガァぁぁぁ!!!!???ぬグゥア!!』


 一条は悲鳴をあげながらも残った右腕で拳を握り霊華を殴りつける。

 左腕を捥がれてもなお、攻撃したことには流石の霊華も予想外でガードをするのが遅れる。

 拳は霊華の腕へと当たり、霊華は横に吹き飛ばされる。


『グギャァァォ!!!』


 ダメージを受けていたのは一条の方だった。

 殴ったはずの拳は肉が裂け、血をダラダラと流している。


 そして霊華はダメージがないと言わんばかりに涼しい顔で地へと着陸する。


『私を殺したければ初手で決めるべきだったな。もはやお前が私に勝てる道理はない』


 そう言って霊華は拳を握りしめて一条に向かって走り出す。

 対する一条も傷1つない両腕(・・・・・・・)を地につけ四足歩行の獣のように霊華目掛けて跳躍した。

ふと思ったんですけど人間vs人間では?

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