112:安堵は束の間
火の玉が椛めがけて何発も降り注ぐ。
椛は火の玉の間を縫うように走り直撃はしない。
挙げ句の果てには火の玉を切り裂き道を開いた。
『マジかよ……!』
一条は左手を背中にかざすと杖が3本宙を浮いて一条についてくる。
(背中の杖が勝手に動き始めた……?あの3本はおそらくそれぞれ能力が別のはずだ。注意しなければ)
『しっ!』
椛は一条懐に近づくと、切り刻もうと高速で刀を振るう。
だが一条はその刀の動きを全て読んでるかのような無駄のない動きで斬撃を回避する。
(……!?こいつ……!)
椛は片手から両手へと刀を掴み直し再度数度の斬撃を繰り出す
だが結果は同じだった。
全て回避された。
だが先程とは違い椛はとある違和感を覚える。
(こいつ……感覚や勘で躱しているのではないのか……?ここまでの無駄のない動きはもはや剣筋が読まれているかと思ったが……)
椛は剣を振るいながら千里眼で一条の表情を見つめる。
そこで気づいてしまった。
一条の目が時折こちら見据えていることに。
目線は剣に向けられていたことに。
(そうか!こいつは目で全て剣筋を追って回避しているのか!……となると視力強化などの魔法でも使っているのか……?)
『……これは』
『どうかしました?霊華様』
妖怪の山の麓の近くで霊華と身長210cmの大男が立っていた。
大男には身長とある一点を除けば普通の人に見えただろう。
だがある一点の特徴がそれを否定している。
その特徴とは角である。
左のこめかみから黒い角が耳の上を通りながら後頭部に向けて伸びているのだ。
黒目黒髪、服装は藍色の着物である。
名は、物怪 壊
鬼である。
『お前なぁ……。様をつけるのはやめろっていつも言ってるだろ』
『おや、これは失礼。つい癖で』
『癖で様をつけるのもどうかと思うぞ』
『そんなの私の知ったこっちゃありませんよ』
『そりゃそーだ』
それで、と壊は言いながら再度質問する。
『どうされたんですか?何もない雪原を見つめて。何かありましたか?』
『……お前は先に帰っておいてくれ』
『なんでまた。霊華様……じゃなくて、霊華さんは帰らないんですか?』
正直なところ確かに今すぐ帰りたい気持ちはある。
だがそれ以前に私にはさとり様から頼まれた案件もある。
護衛だ。
この人の強さを知っている上で頼んできたとは思うのだが護衛の意味がよく分からなかった。
だが、それでも頼まれたからにはやり遂げる。
『いや、ただ帰るんじゃなくてここの座標をさとりに伝えて欲しいんだ』
『座標?こんな何もない雪原の座標をですか?』
『んー、口で説明するのもめんどくさいから今から起きる事をそのままさとりに伝えといてくれ』
壊は言われた通りに取り敢えず霊華の行動を見守る。
霊華は深呼吸してから拳を握りしめる。
『博麗参の型・空鳥』
霊華が拳を突き出すとパァン!!と何かが弾ける音が聞こえた。
これは霊華の突き出した拳の音だ。
あまりの突きの早さに音が遅れて聞こえてきたのだ。
だが問題はそこではない。
なんと、突き出した拳を中心に空間にヒビが入っているのだ。
みるみるヒビは広がっていき、空間は崩れ去る。
すると目の前に突如山が出現したのだ。
もう目の前に雪原などはなく、見渡す限り一面の景色は雪山だった。
『これは……!』
『私の活動時間は後1時間ぐらいは残っている。それぐらいあればここを制圧することも多分可能だ』
『……なるほど。分かりました、お気をつけて』
『おう』
『はぁ……もういいだろう』
『……?』
憔悴しきった顔で椛は両手をあげる。
同様に憔悴しきっている一条は椛の行動に眉をひそめる。
椛は手の甲で汗をぬぐいながら話を続ける。
『ここまでやれば流石に力試しも十分だって話だよ』
『……ん?ということはもしかして知ってたんですか……?』
『直接話を聞いたわけじゃないんだけどね。幻想天狗様に命令されて侵入者を排除しろとしか』
一条は目をパチクリさせて、やがて息を長く吐く。
『はぁぁぁ……。そういうこと……』
安堵したのか一条はその場にどさりと尻餅をつく。
椛は苦笑しながら刀を鞘に収める。
ようやく終わったという安堵感から緊張が解かれた時だった。
突如ガラスが割れたような音が山に響き渡る。
『何の音だ!?』
『……これは、これは……!』
椛の表情が強張るのを見ると一条は舌打ちして立ち上がる。
一条はこれは想定外の出来事なのだと椛の顔を見て理解したのだ。
『くそっ……流石にマズイな……』
今回登場した鬼の大男、物怪壊は『終作』さんからいただいたオリキャラです!
ありがとうございます!




