108:戦の火蓋は切って落とされた
椛は顔をしかめて目の前の現場を睨みつけていた。
そこには侵入者を撃退に向かったはずの隊の面々達が苦しそうに呻きながら倒れていた。
(……全員足を怪我している。殺さず足を狙ったとなると……相手は大人数との戦い方を熟知しているな)
『……配置していた全隊を引き上げさせろ。Cポイントに移動し合流する』
近くの白狼天狗に命令すると椛は集合地点まで全速力で移動する。
命令を受けた白狼天狗は慌てて伝令機に文字を打ち込んでいく。
数十分で椛の命令通り全隊が合流を果たした。
『いいかお前ら。侵入者は幻想天狗様曰く手練れてだそうだ。分散したら敵の思うツボだ。これより侵入者を総動員して叩く』
椛の言葉に他の隊長が挙手し椛に問いかける。
『具体的にはどうすると?まさか全員が武器を持って殺到する訳にもいかないと思うのだが』
『そのまさかだ。長距離部隊と近距離部隊で別れてそのまますぐに攻撃する』
『……了解です』
まだ食い下がろうとしたが椛の眼力に圧倒され渋々頷く。
(……まぁ普通こんな事言われたらそういう反応するだろうな。ただ、最初の部隊のやられようからして戦闘したという痕跡がほとんどなかった。幻想天狗様の言う通り手練れなのは確かだ)
『攻撃の合図は長距離部隊の攻撃だ。神経を研ぎ澄ませておけ』
『……迷った』
『まぁ仕方ないわよ。こんな吹雪じゃ視界も悪いしこの山自体もデカイからね』
『結局敵らしきものは天狗が数人か……。このまま敵に放置されたら遭難して死にそうだ……』
『けどこれほどまでの吹雪なら太陽光は届かないだろう?』
『……そうですね。それだけが救いっちゃ救いですね』
一条はため息をつきながら疲れたのかその場に座り込む。
『使う分には構わないが程々にしておけよ。前に警告した通り一定以上越えるとどうなるか分からんからな』
『ですね。ま、これは最終兵器なんで俺としてもあまり使いたくないですが……ん?』
一条はいきなり起き上がるとあらぬ方向へ顔を向ける。
そして何かを見つめるように目を細めて見ている。
次に一条は周りを急いで見渡すと背中から一本の杖を取り出す。
『どうしたの?』
『ノーレッジさん。魔法を使います、準備してください』
『……敵襲ね』
『さっきと規模が違います。大隊規模の数ですよ』
一条が杖を握りしめてその場ですぐ動けるように構えていると、空から矢が大量に降り注いできた。
矢は空を埋めつくさんとばかりの数だ。
『なっ……!くそっ!』
一条は瞬時に行動を開始する。
それは前方に向けて全速力で走ることだ。
矢というものは相手に向かって放たれるもので上から放たれた場合その場で静止するのは死を意味する。
ではどう回避するか?
それはとにかく動く事である。
不規則な動きであればなお良い。
安全圏とは常に動く先にある。
故に踏みとどまってはならない、恐怖に駆られ足を竦ませてはならない、ただ走り続けるのだ。
『……ッ!第2波が来る!』
一条が叫ぶのと同時に再度恐ろしい質量の矢が降り注いできた。




