107:嵐の前の静けさ
『……なるほど。お主の言いたいことは分かった』
『この事は誰にも喋らないで場を進行して欲しいのよ』
『そうじゃの。確かにそろそろ頃合いじゃしもう奴らも動きが活発になる頃でもあるから何かの一手は欲しかった……』
サクヤは目の前の女性に問いかける。
『いつになったら終わるのかしらね』
『……さぁな。我にも分からん。あぁ、こんな時に八雲がいてくれればな』
『八雲?八雲ってあの八雲紫?』
『……いや、我の知り合いじゃよ。その紫とやらとは偶然の一致で名字が同じってだけだ』
『あらそ、ちなみに貴女の名前は教えてくれないかしら?幻想天狗だなんて変な名前じゃなくて本当の名前を』
幻想天狗と呼ばれた白髪の女性は億劫そうにため息をつく。
『忘れた。それに元々人に語るほどの名前なんぞ持ち合わせておらんよ』
『私は人を辞めた身ですけどね』
『変わらんよ。魂を悪魔に売ろうと、吸血鬼の血を引き継ごうとお主の心は人であろうとしておる。どれだけ怪物になろうとお主は人さ』
サクヤが何かを言おうとした瞬間、コンコンと音が響く。
『入ってよいぞ』
ガチャリとドアを開けられ天狗が入ってきた。
『幻想天狗様』
『椛か。どうした?』
『侵入者です。結界に気づかれたようです』
『……なるほど。よし、天狗総動員せよ』
幻想天狗の言葉に椛は言葉を詰まらせる。
『は、え……いや全員を動かす程でしょうか……?』
『我の張った結界に気づく時点でただ者ではないからの。それに……』
『それに……何でしょうか?』
『手練れじゃよ。かなりのな』
『……了解です』
失礼します、と言い残し椛は部屋を出る。
『いや、だからですね?飛ぶんですよ鉄の塊が。飛行機って言うんですけど』
『ふーん、にわかには信じられないよなぁ鉄の塊が普通飛ぶか?絶対重みで墜落するだろ』
『レミィは覚えてないと思うけどロケットっていう物凄い重量の物量飛ばして月まで行ったことあるわよ』
『マジ?……生前の私そんなの見てたのかぁ』
一条は雪山をザクッザクッと踏みしめながら談笑していた。
会話の相手はパチュリーとレミリアである。
幻想郷に来て以来、精神の中でしか2人と会話した事がないのだが、今は外の世界にいた時と同じ様に幽体のような体ではあるが一条の視界に顕現していた。
『てか本当に唐突ですよね。今の今まで姿見えなかったんで出れない理由が何かあるのかと思ったんですけど』
『んー、そうね。一度一条の体で動いてしまったせいなのかもね』
『……え?それ初耳なんですけど』
『貴方がひどく疲弊したせいで私が二重人格の1つとして機能に組み込まれたから出れなかったのよ』
一条は思い出す様に考えると、パチュリーの記憶も統合しているため少しずつ思い出してくる。
『……あー、そういう事か。結構迷惑かけちゃいましたね……』
『なんか私の記憶全部貴方に知られてるって変な気分ね。プライバシーの侵害だわ』
『しんみりムードで話してるのに茶化すの辞めてもらえます?』
『私がいつも風呂に入る時間は?』
『……朝の4時』
『きゃー!』
『もー!ノーレッジさんがそんなこと言うからでしょー!』
-輝針城・天守閣-
『……あいつ何一人で喋ってるのかしら?』
『さぁな。それより本当に大丈夫なんだろうな?』
『大丈夫だって。一条の言う通りちゃんと成功してるわ。今の一条は限定的だけど私達の中で最強よ』
『……にしてもこの水晶玉便利だなぁ。音は聞こえないけどリアルタイムで水晶越しの世界が見れるってのは凄いよな』
『変な技術というか技は持ってるわよねあの子。戦闘よりサポート向きだわ』
-妖怪の山・見晴台-
椛は千里眼で山中を視ていた。
椛の後ろには数十人の白狼天狗が防寒具をつけ控えていた。
ちなみに、他の場所では他の天狗長達の命令で様々な種族の天狗が配置されている。
『標的を確認。地点Aより少々北で移動中。一番近くの隊は出撃してください』
『送信完了です』
それは携帯のような形をした小さい機器であった。
この機器の名前は伝令機。
伝令機で入力した文字を相手に送信すると受信した伝令機は機器の下に付いている印刷機によってすぐに印刷されて届ける事が出来る河童印の便利器具なのだ。
ようはポロライドカメラの携帯バージョンだと思ってもらっても構わないだろう。
現像されるのは写真ではなく文字ではあるが。
『白狼天狗班から伝令、A地点より少々北に位置するとのこと。我々が一番近いので出撃せよとの事です』
『了解だ。では鳥天狗五番隊、出撃!』
その言葉に天狗達は雄叫びをあげて鼓舞する。
何も知らぬ天狗達と一条の戦いの火蓋は今切って落とされた。




