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幻想異変録  作者: 凍曇
9章 雪山にて
103/151

103:ヴワル図書館にて

 気づけば一条は大きな図書館にいた。

 見渡す限りの本棚。

 所々には申し訳なさを感じられる小さいランプがかけられていた。

 特徴的なのはその図書館の中心にそれぞれ向かい合う様に椅子が3つ置かれている事だった。


『……ここは』


 一条はその1つの椅子に座っていた。

 右斜め前の椅子にはとある人物が座っており、左斜め前の椅子は空席だった。

 そしてとある人物とは、パチュリー・ノーレッジである。


『……ノーレッジさん』

『一条、ここがどこだか分かってる?』


 パチュリーは一条に問いかける。

 その問いに一条はやや間を空けて答えた。


『……紅魔館の地下で同じ部屋を見たことがあります。ここは紅魔館ですかね』

『半分正解。紅魔館まで合ってるけどここは【ヴワル図書館】私にとっての掛け替えのない存在の1つよ』

『どうして俺はここに?』


 一条の問いにパチュリーはいつも通りの感情のない表情で答える。


『貴方が極限まで精神を疲弊したからだと思うわ。貴方はここまで逃げてきたのよ』

『そ……うですか……。はは、だとすると情けない姿ですね。今の俺』


 聡い子だ、つくづくパチュリーはそう思った。

 ついさっきのパチュリー答えを聞いて、理解したのだ。

 自分が今置かれている状況を、ここがどんな場所なのかも。


『……貴方は何でそこまでして私達に関わろうとするの?あんな思いをする前にも色んな危険な目にあったでしょう?それなのに……』

『すいません』


 パチュリーの言葉を遮り一条は謝罪の言葉を口にした。

 一条はうな垂れる様な格好で言葉を続ける。


『それについては……俺もあまり分かってないんです。どうしてあそこまでするのか自分でも思い返せばただただ疑問に思います』

『一条……』

『夢を見るんです』

『……』


 ポツリとこぼす一条の告白にパチュリーは口を閉じて耳を傾ける。


『いつも見る夢はとても幸せそうな夢なんです。水色の髪の子供や、赤みがかった三つ編みの女性も、銀色の髪のメイドも、頭に羽を生やした女性も、皆笑ってたんです』

『うん』

『皆、本当に楽しそうに笑ってたんです』

『そうね。きっとそうだったに違いないわ』

『その夢を見て起きる度に、胸を締め付けられる様なとても悲しい感覚が俺を襲うんです』


 パチュリーは頷きながら一条を見つめる。


『そして気づいたんです。これは、この夢は、この感情は俺のものじゃないんだって』

『……』

『その時の気持ちは複雑でした。ここまで苦しい思いをするぐらいの大切な思い出が彼女にはあったのか……なんて事も考えました』

『……もしかして』


 パチュリーは驚く様に一条を見つめる。

 一条は頭を垂れながらも弱々しく頷く。

 一条は見ていたのだ。

 パチュリーの過去を、思い出を、記憶を、感情を、心も。

 パチュリーの大切にしてきた全てを夢という形で見ていたのだ。


『同時に羨ましくも思いました。こんなに思える繋がりがある事に……なんだか幸せ自慢をさせられている気分でしたよ……』

『……』

『けど、不思議と不快には思えませんでした。むしろ楽しかったです。色んな一面が見れて』

『一条……』

『……でも気づいてしまったんです。恐らくこの夢に出てくる思い出をもう築く事が出来ないんだって』

『……!』

『少なくともあの子供は……いえ、レミリアさんは亡くなってます』


 気づけば左斜め前の空席だったはずの椅子に座っている人物がいた。

 レミリア・スカーレットだ。


『ノーレッジさん、俺は……あの幸せな思い出に貴女を返そうと思ってます』

『何でよ!何で貴女はそこまで私に尽くしてくれるの!?私には分からないわ!』

『……あんなもの見せつけられて何も思わない訳ないでしょう。あんな思いをしてまで悲しんだのを全部知ってるんですよ』

『だとさ、パチェ』

『……けれど貴女は無茶しすぎよ。現に貴方は一度死にかけたせいで死に対して莫大な恐怖を覚えている』


 一条は顔を上げる。

 目は真っ赤に充血して目元は腫れていた。

 一目で分かる、泣きまくった顔だ。

 レミリアは不敵に笑うと一条に語りかけた。


『……気の済むまでここにいるといいさ。パチェも私もお前のお陰で存在出来ている身だ。お前の支えになれるかは分からんが……これだけは言える』


 パチュリーはレミリアの言葉を引き継ぎ一条に言った。


『私達は貴方の味方よ』


 その言葉に一条は再度うな垂れる。

 そしてやがてポツリと、


『ありがとう……ございます……』

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