表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嶺上開花短編集

作者: 嶺上開花

…長い夢を見ていた。

とてもとても長い夢だった。いや、もしかしたら夢ではないのかもしれないが、証明する術が無いのでやはり夢と言うことにしておこう。

内容は至極普通だ。昔の記憶、それも幼少期の、今となっては思い出せないような記憶。しかし、脳の中にはきちんと残っていたようだ。

とは言え、『現在の自分』は当時の事を忘れてしまっている為どこか不思議な感覚を覚える。確かに自分の記憶なのだろう。しかし、何処と無く端から見ているような…傍観しているような…そんな感覚が溢れている。

その夢の風景も朧気で、尚且つ今とは違う景色なのでまるで平行世界の自分を見ているようだった。

先程から所々過去形で話しているのには訳があるが、今はそんなことより夢の話をしよう。

夢では幼い自分が、両親に手を引かれて近所を歩いている。昔住んでいた実家がかなりの田舎だったので、回りには特に何もなく、只々道を歩いていた。

そして次の瞬間、右手を握っていた父が消える。ふと、自分の身体を見ると詰め襟の学生服を着ていて、背も父が消える寸前よりもはるかに高くなっている。

その頃(学生だった頃)のことはよく覚えている。あれは中学二年生の時の事だった。父が病気で急逝したのだ。特に体が悪いと言うことでもなかったのだが、病気を患ってから日に日に衰弱していくのが目に見えて判った。

やや話が逸れてしまっただろうか。ともあれ、夢はまだまだ進んで行く。

次の瞬間には母左側にいた母の腰が曲がり、左手を握っていた手はいつの間にか杖を握っていた。そして自分に目を向けると、就職した職場の制服を着ている。そして父が居た右側には、同い年位の女性が立っていて、その足元にはランドセルを背負った少年が立っていた。

この事もよく覚えている。息子が小学校に上がる時に、母(彼からしてみれば祖母)にランドセルを背負った姿を見せに行ったことがあった。そのときの記憶だろう。

母はランドセルを誇らしげに背負っている孫を見て『お爺さんに何処か似ているね』と微笑んでいた。

そして次の瞬間、母が霞のように消えていった。息子は背が伸びていて、自分と同じ位になっていた。妻は顔にやや皺ができ、何処か疲れているように見える。

そして、妻と息子が同時に消えた。この事は一生忘れない。いや、死んだ後も忘れられないだろう。妻が運転する車が交差点に差し掛かったとき、横から暴走車が突っ込んできたそうだ。即死だったらしい。その時自分は仕事に行っており、二人が亡くなったと聞いたのは昼過ぎだった。

一人になった。夢の自分は鮮明であるのに、その姿は何処か色褪せた写真のようにぼやけていた。

やがて自分も年を取り、生気を失った男はかつての父のように目に見えて衰弱していく。

さて、ここで先に話した「過去形」の話をしよう。

はっきり言えば、この後自分はゆっくりと二度と覚めない眠りに着いた。簡単に言えば、これは走馬灯のようなものだ。

不思議とこういう時は自分が覚えていないような記憶まで目覚めてくる。しかし、こう言うのもなんだが、かなり壮絶な人生であったように思える。

だが、こうやって自分の人生を振り返ることによって色々気付くこともあった。「これが走馬灯だ」と判ったときは『何て物を見せるんだ』なんて考えたが、いざ見終わってみると『あぁなんだ。私の人生はこんなにも思い出に溢れていたのか』と一種の安堵のような感情が芽生えてくる。

これで私はようやく、あの静寂から解放されるのだ。

そうだ、あっちに行ったら皆に会えるかもしれない。

だったらこんなところで夢など見ていないで、早く行くことにしよう。

それでは、こんな老人の一人語りに付き合ってくれてどうもありがとう。


それでは、さようなら。

如何だったでしょうか?

最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ