盗神検定試験実施中?
その神の舟ではたびたび食料が盗まれていた。
舟の主である神は怒り、罠をはった。
罠にかかったのは小さい鼠が一匹。
聞けばきょうだいのためと言う。
家族のためにこのような小さな存在が神の舟で盗みを働く、その度胸が気に入り、神はその小鼠ときょうだいを下僕に加えた。
その小鼠が盗賊の神リットである。
リットは女好きの盗賊の神として知られる。
男友達とつるんでいる時以外は常に女神を口説いている。
「というわけで遊ぼうよ、ミーアちゃん」
「うるさいわね、チャラいのよ、あなた」
ユーリ=イグニスに迫っていたファーマミーアは、リットのチャラい言葉に呆れながら去って行った。
「だーいじょーぶ?」
「ああ……お前もたいへんだな」
「別にぃ、そーいうキャラだしね」
リットは肩をすくめた。
「赴任先決まったんだって?よかったな」
ユーリ=イグニスは友人の前途を祝福した。
「決まったっていうか、先輩に誘われている。
まだ試験受かっていないから、正式じゃないけど」
「いろいろ引く手あまただって聞いたが?」
「これも普段の努力のおかげ!」
その努力はユーリ=イグニスも認めるところであり、素直に友として尊敬している。
「試験の方はどうなんだ?」
「ぼちぼちかなー、闘神の君とは違って、盗賊の神だとトリッキーな感じにしなくちゃならないし」
盗賊の神の試験だと、他の神のところから何かを盗むのが基本だ。
ただ、基本に忠実なだけでは面白くない。盗賊の神はその性質上、神話の中でトリックスター的役割を演じることが多い。
試験も単純にクリアするだけではなく、赴任先を探すのに、何か売りになるような面白さを求められる。
「でも難しいことをしなくても赴任先は決まってるじゃないか」
だが、試験内容だけが赴任先に対する売りになるわけではない。その本人の個性もまた売りになる。
リットの場合、「女好きの盗賊の神」というわかりやすいキャラクターが赴任先に受けたのだ。
こういう万民受けするキャラクターもまた売り込むのに重要なポイントだ。
「ま、だから気楽にね。試験の方も加護を与えた人間に神宝を盗ませるってやつだし」
「定番だな。どこで試験しているんだ?」
「オーレンくんって知ってる?光の神の。オーレンハイト」
「……「くん」ってお前……」
ユーリ=イグニスは眉をひそめた。
「ま、まあ、それはおいといて。
彼が主神試験としてシヴィライゼーションやっているんだ。試験手伝う約束でその世界でチャレンジさせてもらっている」
「しびらいぜーしょん?」
聞きなれない単語に首をかしげる友人に、リットは、
「地球のゲームだよ。人間の文明を育てるんだ」
「ゲーム?ああ、遊戯の一種か……よく知っているな」
「盗賊の神様は遊びにも詳しくないとね!」
「でも人間が人間の文明を育てて何が楽しいんだ?」
「それは……」
素朴な神様的疑問にさすがのリットもすぐには答えられなかった。
「……あ、マナちゃん、ナナちゃん!おーい!」
話をそらすため、リットはたまたま近くを通りかかった女神二人に手を振った。
いつもはノリよく手を振りかえしてくれる二人だが、今日は何故か困ったように、二人、顔を見つめ合わせていた。
「……どったの?」
「……ねぇ、オーレンが言っていたんだけど……」
「リット。あなたゲイって本当?」
「……は?」
リットは硬直した。
硬直から抜け出したリットがまず行ったのは、オーレンハイトのところに怒鳴り込むことだった。
オーレンハイトは広いテラスでいつも仲良くしている愛の女神レテイアとお茶を飲んでいた。
「オーレン、なんかヘンなこと聞いたんだけど!」
「何か用かい?リット」
「オレがゲイってどういうこと!?こんな女の子大好き神様捕まえて何言っているの!?」
リットの猛烈な抗議を、オーレンハイトは飄々と受け流した。
「何を言っているんだ。君はゲイじゃないか」
「そっちこそ何言ってるの!?なんでそんなこと言えるの!?」
妙に確信めいた言葉にリットは焦り出した。
「何故なら僕もゲイだからだ」
「……
は?」
あまりにどうどうとした告白についていけず、リットは間抜けな声を出すしかなかった。
広いテラス、それなりに他の神々も集まっていたが、彼ら全員、一瞬動きを止めた。
「同じゲイだからわかる。君もゲイだ」
「そ、そそそそんなわけないじゃん!」
「ふふふ……」
その隣でレテイアが笑っていた。
「わかるわよ、同士だもの」
「同士って……」
「私もレズよ。だからわかるの」
「……」
もう、声を出すことすら拒否してきた喉から、どうにか言葉をふりしぼった。
「そんなこと……そんなこと……二人は付き合ってたんじゃないの?」
二人は顔を見合わせた。そして吹き出す。
「なんという冗談だい?僕が好きなのは年若い少年だよ!」
「私が好きなのは愛らしい少女よ」
つまり、ショタコンとロリコン。
あまりに堂々としたその告白にテラスの神々は静まり返り、リットはその場にへたり込んだ。
「お、おい、大丈夫か!?」
友人を追いかけてきたユーリ=イグニスがその身を支えた。
「さあ、君も正直に言いたまえ」
「どんな少年がお好み?」
「お、オレはショタコンじゃなーい!」
人気のない教室、リットはへこんでいた。側には友を心配するユーリ=イグニスの姿があった。
「はあ~~」
事実、リットはゲイであった。ただ、ゲイの盗賊の神だとキャラが濃すぎて赴任先が見つからず、困ることがわかっていたので女好きのふりをしてきたのだ。
「どうするんだよ、試験」
さすがに彼とともに試験はやってられないと、ともに試験を手伝う約束は破棄してきた。
「どーしよ……」
「……お前さ、オーレンてやつのこと、好きだったろ」
「……わかる?」
「お前が「くん」てつける相手はたいがいそう」
「あーもう、オレ、ああいう優等生タイプに弱いんだよねー」
ちなみにユーリ=イグニスのようなスポーツマンタイプは好みではない。
故に二人は友達をやっていられるのだが。
「まあでも、ちょっと空気読めないなってトコ、感じてたけど」
「ちょっとドコロじゃないだろ」
「うーんまあ
……あーあ、先輩のところへの赴任、なしになっちゃうのかな?
先輩のところのファミリー、好みの男がいなくて良かったんだけどね」
「公私わけるよなあ、お前」
「当たり前でしょ?」
そこにジクルビクニアが現れた。
「リット君……たいへんだったね……」
ユーリ=イグニスは内心眉をひそめた。
ジクルビクニアは無意識のうちに物事を引っ掻き回すところがある。
「うん、まあ……なんとかするよ」
「私たちの世界で試験、する……?」
「……何盗むんだよ、いったい」
あのコウモリとスライムとわずかばかりの人間しかいない世界に、盗賊の神が盗んで自慢になるようなものなどない。
「うーん……でもきっと心がやすらぐかも……」
「心がやすらぐとか、そんな……」
「えい」
ユーリ=イグニスが止める間もなく。
リットの姿は目の前から消えた。
「え?」
急に視界が闇に包まれ、次の瞬間。
リットの目の前には竜太郎と二匹のスライムの姿があった。
「え?」
<<続く!>>