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邪神検定試験実施中!  作者: heavon
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邪神検定試験実施中!

 古より横たわりし闇、その美しき姿に惹かれ、死がそのほほを撫でた。

 その刹那、闇から涙が溢れ、その涙から邪神ジクルビクニアが生まれた。



 はるか遠くはるか昔はるか未来。

 どことも言えぬ場所にその神々のための学校はあった。

 今日もまた、あまたから集まってきた神々の卵が新たな神になるための試験を受けている。


「邪神ジクルビクニア……」

 彼女の試験担当の試験官は深いため息をついた。

「あなたの試験は邪神になるための試験ですよね?」

「はい、先生」

 彼女は素直に頷く。

「では、どんな内容だったか説明なさい」

「はい。

 一つのクラスの生徒達を異空間に集め、殺しあいをさせ、残り一人になるまで追い詰めると言う……」

 そこで耐えられないと言うように目を伏せた。

「でも私、かわいそうで……」

「『かわいそうで』!?」

 試験官は声をあらげる。

「それで全員生きて返しますか!?」

「だって誰か一人とか……」

「しかもあのクラスのいじめ問題まで解決して!」

「そのまま帰してもまたいじめられるだけですし……そんなの、あまりにも」

「三角関係のどろどろまで!」

「せっかくのクラスメイトだし、仲良くしてほしくて……」

「だ!か!ら!それが邪神のやることですかーっ!」

 たまらず怒鳴る試験官の声にzはびくっと身を震わせた。その姿もいちいち邪神らしくない。

「で、でも、彼らはこれで卒業まで、いえ、卒業してからもずっと続く本当の仲間に……」

 試験官は再び深いため息をついた。

「邪神ジクルビクニア」

「はい……」

「今回の試験はまた、不合格です。

 新たな試験を設定しなさい」

「……わかりました」


 がっかりと肩を落としたzが試験官室をでると、幼なじみの闘神ユーリ=イグニスが彼女を待っていた。

「よう」

「あ、ユーリ君。

 ダメだった、今回も……」

 力なく笑顔を見せる。

「だろうな」

「あ、ひどい」

「アレで受かるわけないだろ」

「そっかなあ……」

 本人は受かるつもりだったらしい。

「ユーリ君の方はどうなの?」

 彼もまた、力なく首を横にふった。

「そっかあ。私に出来ることがあったら何でも言ってね!」

「お前はまず、自分のことをどうにかしろ」

 あいかわらずの邪神らしくないジクルビクニアの姿を好ましく思いつつも、ユーリ=イグニスはわざとらしくため息をついた。


 ジクルビクニアと別れ、ユーリ=イグニスが学食に入ると、先に入っていた友人たちが手招きした。

「どうよ?」

 とは試験のことだ。

 ユーリ=イグニスは頭を横に降り、

「またあいつ、だめだった」

「いや、彼女じゃなくてお前だよ」

「……」

「お前もよくないんだって?」

 どうやら友人たちにはすっかりばれているらしい。

「ああ」

「んー?闘神の試験なんてわりとイージーなの多いじゃん。何にしたの」

「勇者を導いて世界を救わせるってヤツなんだが……」

「こいつの勇者、引きこもりになっちゃったの」

 このなかでもよく事情を知る友人が言葉を引き取る。

「引きこもりぃ?引きこもり系選んじゃったの?」

「いや、いわゆるリア充ってヤツを異世界召喚したんだが……」

 ユーリ=イグニスはここで深いため息をついた。

「最初の戦闘で死んで、当然生き返らせたんだけど、その後ずっと引きこもり」

「うわあ……そういうこともたまによくあるって聞くけど」

「勇者としての素質だけは高いから期待はしてたのに」

「素質だけじゃ気持ちって計れないもんなあ」

 あるある、と頷く神友たち。

「それでどうしてるの?」

「今、天使に面倒見させてる」

「立ち直ったら何とかなるんじゃない?」

「なったら良いんだが……先輩が」

「先輩?対戦相手になってくれている邪神系の?」

 ユーリ=イグニスの今回の試験は対戦形式だ。基本的に善神側の勇者が世界を救うか、邪神側の魔王が世界を滅ぼすかによって勝敗が決まり、勝った方が合格する。

「ああ。あまり長引くようなら試験を降りると。もう任世界が決まっているから長いこと付き合っていられないって」

 試験が合格した後でも任地、ならぬ任世界が決まるまで、後輩の試験を手伝う事がある。

「もう、先輩側に世界を滅ぼしてもらえば?」

「……先輩もわりと甘い神でな。勝敗は勇者が世界を救うか、あきらめるかでつくんだ」

「……あの先輩も邪神にしては優しい系の神だよね」

「いっそあきらめてくれたらスッキリするんだがなあ」

 ユーリ=イグニスは机に突っ伏した。

「あ、じゃあさ、彼女に勝負引き継いでもらえばいいじゃん!」

「……ジクルにか?」

「あきらめさせるだけでしょ?ジクルちゃんにも出来るんじゃない?」

「それだとユーリが負けないか?」

「負けたっていいじゃん。また新しい試験の方がマシでしょ。ユーリだったら大丈夫。

でもジクルちゃんが試験に合格するのは難しいでしょ」

「確かにそうだが……」

 渋い顔をするユーリ=イグニス。さすがに彼女に負けるのは……

「……ジクルちゃんと同じ世界に赴任したいんでしょ?だったらまずは合格させなくちゃ」

「いや、まあ、その……」

 彼の思いなど周囲にバレバレである。当の女神以外には。

「……そうだな」

 彼は観念した様に天を仰いだ。


「いいの、ユーリ君。私が対戦相手で……」

「ああ。先輩が降りてしまったから、頼む」

 頼まれると断れないジクルビクニアは対戦の舞台となる世界に来ていた。まずはこの世界の天界で天使と魔王と打ち合わせをすることになっている。

「ようこそいらっしゃいましたー!ユーリ=イグニス様!ジクルビクニア様!」

 光るふわふわした玉が男とも女ともつかない甲高い声であいさつをしてきた。ユーリ=イグニスに使える天使だろう。ではもう一人、顔色が悪くて背が高い、黒衣と牙が特徴的な男はこの世界の魔王か。

「ワタクシは天使のクレスエル、こちら魔王のウリリエシヴァ殿です!」

 名前を紹介され、男は恐縮しながら頭を下げた。

「どうも……ジクルビクニア様。お初にお目にかかります。ウリリエシヴァです。」

「まあ、はじめまして。ウリリエシヴァさんは……吸血鬼の魔王さんですか?」

 う……ユーリ=イグニスがうめいた。あまり知られたくなかったことのように。

「いいえ、オオコウモリです」

「え?」

「オオモウコモリの魔王です」

「まあ……そうなんですか。初めて聞きます。ごめんなさい、不勉強で……」

「いえ、とんでもない」

「ジクル、いやじゃないのか?」

 コウモリなんてモンスターの中では序盤に出てくる雑魚である。

「何が?コウモリなんてかわいらしいわ……」

 だが心優しい女神は気にしない。

「それに吸血鬼は少し怖いし……」

 ぽつりとつぶやく。相変わらず邪神らしくない。

「それで今、勇者はどうなっている?」

「はい~こんな感じです」

 ユーリ=イグニスが気を取り直して配下の天使に尋ねる。天使はくるりと一回りして、そこに勇者を移す鏡を作った。

 そこにはベッドに横たわり、だらだらと本を読んでいる少年の姿があった。

 ユーリ=イグニスは絶句した。

「……太っているじゃないか!!」

 勇者として召喚した時には普通のスポーツが得意そうな体系だったはずだ。

「……健康そうで、いいわね……」

 ジクルビクニアが微妙なフォローをする。

「えっとー、ワタクシ勇者様をはげますために、美味しいモノをたくさん作ったんですよぉ、そしたらいつの間にか」

「お・ま・え・の・せ・い・か」

 ユーリ=イグニスは両の拳で天使をぐりぐりと挟んだ。

「ユーリ君、落ち着いて……」

「そ、それでですね。ユーリ=イグニス様には申し訳なくも、我らが闇の勢力を大分広げさせて頂きました……」

 今度は魔王が地図を差し出した。そのほとんど、勇者の家の周囲を含めて闇に染まっている。

「ええと、我が配下のコウモリやスライムたちは日の光が苦手なものも多く、暗がりの方が安心するといいますか……」

 ユーリ=イグニスは天使を解放し、魔王を見た。魔王がその視線にひるむ。

「それがお前の仕事だ。俺に申し訳なく思う必要はない」

「でも……これじゃあ人間さんたちが住めないわ……」

「……それはお前が同情することじゃあ……」

「あ、大丈夫です。ちゃんと人間のみなさんも暮らせるように光の土地も残してあります」

 地図の4分の1ほど、白い部分が残っている。

「あら、じゃあ大丈夫かしら……」

「……ジクル。あいつをあきらめさせてやってくれ」

「でもそれじゃあユーリ君が……」

「いいんだよ。こんな状態じゃあ、勇者だって家に帰った方が幸せだろ」

「……」

「俺にかかれば試験の一つや二つ、楽勝なんだよ!だから気にするな!」

「……わかったわ、ユーリ君は優しいね」

 ジクルビクニアの笑顔にユーリ=イグニスは見とれそうになり、慌てて顔を背けた。

「いやあ、青しゅn、ぶっ!ユーリ=イグニス様、握り絞めないで!はみ出ます!はみ出てしまいます!」

「う・る・さ・い。黙ってろ」



 新川竜太郎。りゅうたろうではなく、たつたろうと読む。

 彼はいたって普通の高校生だったが、突然、異世界に勇者として召喚された。

 はじめは戸惑ったものの、この世界の人々と触れ合ううちに、この世界を救いたいと言う気持ちになり、魔王を倒す旅に出ることを決意した。……のも、つかの間。初日、スライムに負けて死亡。生き返ったものの、戦う事が怖くなってしまった。それと、人の目も。最弱のスライムに負けて死んだ勇者を人々はどう見るのか。みんなを助けると息巻いていた自分を、情けない奴とさげすんだ目で見るのではないか。そう思うと、家の外に一歩もでることが出来なくなった。

 「もうあきらめて帰ってもいいんですよ?」いつも励ましてくれた天使が言った。

 確かに帰りたかった。だが、帰ったらこの世界はどうなるのか。誰がこの世界を救うのか。みんな救われぬまま、魔王に滅ぼされてしまうのか……とても帰る事など出来なかった。みんなを見捨てるなど。

 家の外に出ることも、見捨てることもできぬまま、数か月……

 誰かが、家のドアをノックした。

 すごい、久しぶりだな、竜太郎は思った。

 彼が引きこもってすぐはいろんな人が尋ねに来ていた。彼は誰とも会おうとしなかったが。

 彼が答えないでいると、再びノックされた。

「……クレスエル、だれか来ているぞ?」

 だが、天使もいない。天使はたまに出かけることがあったので、それは気にしていなかったが。

「……」

 続くノック。意を決して竜太郎はドアを開けた。


 そこにいたのは見たこともない女だった。

 いろんな意味で見た事が無かった。知り合いではない、という意味で見たことがなかったし、こんな美しい女もやはり見たことがなかった。

 透き通る白い肌と黒い紙と瞳。黒いドレスを身にまとい、竜太郎の情けなさを全て包み込むように、優しく微笑んでいた女は、その姿の中で唯一色を持っていた赤い唇をゆっくりと開いた。

「こんにちは、竜太郎さん……」

「あ……こ……んに……」

 語尾が消えていく。天使以外と話すのは数か月ぶりだった。

「今日はお願いがあって参りました」

「……な……に?」

「こちらへ……」

 その美しい女に誘われるように、今まで踏み出せなかった一歩を踏み出し、家の外へ出た。

 外は真っ暗だった。

(夜、か?)

「竜太郎さん……」

「は……ぃ?」

「この世界を、あきらめてください」

「え……?」

 竜太郎は虚を突かれたように、その女を見る。

「申し遅れました。私は邪神ジクルビクニア。この世界のモンスターの守護者です……」

(じゃ、じゃしん……!?)

 話についていけず、ただ、ジクルビクニアを凝視する竜太郎に、それでも変わらず微笑みかけながら、女神はその美しい腕でを広げ、周囲を示した。

「この世界は闇に包まれ、闇に生きる物の安住の地となりました」

「え……え……」

 自然と息が荒くなる。

(夜じゃないのか!?)

 そういえば、最初彼女は言ったじゃないか、「こんにちは」って。

(あ、あっちには街があって、この辺りは感じのいいご夫婦の畑で、あの辺はそのご夫婦の娘さんが大好きだった花畑で……)

 誰もいない。何もかも、なくなっている!

 竜太郎はがっくりと膝をついた。

「大丈夫ですか?竜太郎さん……」

 女神は竜太郎を助け起こそうとその傍にかがみこむ。

「っ……んな……」

「竜太郎さん……?」

「ふざけんな!」

 竜太郎はジクルビクニアを突き飛ばした。

「リ、リズちゃんはな!お、おれに勇者としてがんばったら花の冠作ってくれるって!だからお花の世話しながらまってるって、それを、それを……!」

 久しぶりに大声をあげ、咳き込みながら、竜太郎は立ち上がった。

「……らめない、絶対におれはあきらめない!みんなのためにおれはあきらめない!!」

 そしてまた、咳き込む。

「そうですか……」

 その姿を優しい笑顔で見つめ、ジクルビクニアは去って行った。



「失敗しちゃった……」

 天界に戻ってきたジクルビクニアはそれでも笑顔でそう告げた。

「……クレスエル、行って来い」

 なんとなく、結果を予想していたユーリ=イグニスはそれでもため息をつきながら、配下の天使に命令した。

「はーい!がんばりまぁす!」

「……ダイエットさせろよ?」

「それはわかりませーん!」

 さらに咎められる前に天使は使える勇者のところに戻った。

「まったく……」

「ウリリエシヴァさんもごめんなさい」

「いえ、構いません……勇者さんともいつかお話し合いをしなければいけないと思っていたところです」

「ええ、お話し合いは大事ですね」

 お話し合い……ユーリ=イグニスは頭を抱えた。


 心優しい邪神の再試験は始まったばかりである。

 彼女に思いを寄せる闘神の戦いはまだ終わりそうもない……

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