友人に捧ぐ
あなたとは家が隣だった。生まれた日がたった数ヶ月違いだった。同じ学年で、同じ学区で。頭の出来も同じくらいで、高校も一緒で。……大学は違ったけれど、連絡は頻繁に取っていて。長期休暇は絶対に直接会って、記憶にも残らないくらいどうでもいい話をして。誕生日にはプレゼントを贈り合って。悩みがあったら電話で相談して、たまに直接出向いて。
そんな、自分の分身みたいなあなたが、結婚する。
相手とは大学で知り合ったんだって教えてくれたよね。好きな人ができたって。私より浅い関係。私より短い時間しか過ごしてない人物。でもこれからはその人との時間のほうが多くなるんだ。ずっと一緒にいたのは私なのに、あなたが選んだのは私じゃない。
もし、私が男なら、私を選んでくれた? でも、性別が違ったら、この関係は築けなかった。
気づいてる? 私、あなたのこと、最初は名前で呼んでいたよね。子供が友達を呼ぶときに名字なんて呼ばないよね。高校くらいかな、私があなたを名字で呼び出したの。少しずつ、頻度を多くして、今では名前じゃ呼ばない。あなたの名字は珍しいから、不便はなかったし、あだ名の延長だと、あなたは思っていたのでしょうね。
誰にも渡したくなかったからよ。あなたの名字が変わるなんて嫌だったから。
これは恋愛感情ではないの。あなたと恋人関係になりたいわけじゃない。ただ、私はあなたの一番でいたいだけ。あなたが悩みを抱えたとき、楽しさや嬉しさを感じたとき、苦しさやつらさに苛まれたとき、一番に思い浮かぶのが私であってほしいだけ。私と共有してほしいだけ。私に縋ってほしいだけ。
ただのわがまま。あなたのことをこれっぽちも考えない、自分本位のわがまま。わかっている。友達なら、親友なら、これから歩む異なった道の幸福を願うべきだ。あなたの選択が正しいことを願うべきだ。
それすらできないんだ。
この感情を出したら、あなたは嫌うだろうか。不快になるだろうか。それとも知らなくてごめんと謝るだろうか。どんな反応でも、それは私が望むものではないのだろう。いまのあなたは無邪気に嬉しそうだから。
隠しながら、なんて無理だ。絶対にどこかににじみ出る。完璧な嘘なんてないんだよ。長時間、他者を騙し続ける器用さは、私にはない。だから、結婚式には欠席。二次会にも行けない。あなたが県外の大学に行って、県外に就職してよかった。会場が遠くでよかった。休みが取れなかったと、もっともらしい理由ができるから。
心の底から喜ぶことができない。親友の門出にこれなんて、本当に、私はダメな人間だ。それでも、嘘偽りない言葉を。これからの幸せを。たくさんの笑顔を。祝福を。
贈る言葉は、「おめでとう」ではなくて。