ルナティック ラブ 水槽より愛を込めて
僕、白いんだ。お腹の辺りも手も足も。
つまり、真っ白なんだ。
君は赤い。真紅の赤だ。
ぶちのヘイちゃんも斑なカンちゃんも皆君を狙ってる。
皆君が最高に素敵なコだって言ってる。
背骨が真っすぐでそれでいて真紅の肌。金色の瞳も悪くない。
君、コンテストに出たんだって?
パパがね、ガラスごしに君は金賞に値するって言ってただろ?ほら、夕食の時。
君、お見合いするんだって?
ママがね、ガラスごしに今度はきっとうまくいくって言ってただろ?ほら、今朝の食卓で。
僕、君のことならなんだって知ってる。
なのに…君は僕を知らないね?
それは君のせいかな?
いいや、違う。
僕が白いからだね、きっと。
君みたいな立派な尾びれも僕には見当たらないし。
地味なんだ、僕は。
ねぇ、目に見えない壁が僕らを引き離すんだ。
透き通っていてそれでいて冷たい…君の知り得ないものさ。
答えを教えようか?
ガラスだよ。水とパパを僕と君を隔てている。
君は知らなくていいんだよ。
優雅に泳ぐ君を見ているだけで僕は幸福だった。
だから、君は知らなくていい。
もしも君がガラスなんて知っていたら…僕は、僕は許さないよ。
それにしても酷いじゃないか。
もがいてももがいても、僕を知らせる術がない。カケラもないんだ。
僕、溺れてしまいそうだ。
初めて水が憎くなったよ。初めて苦しいと思ったよ。
これは君のせい。そうだろう?
思い込みって怖いです。「僕」は自分自身に問いかけ、自己の答えを「君」の答えと認識しています。それに気付かず、「君」と会話し続ける金魚のお話。