第一話 出会い
訂正すると思います。
BSD
-(brain support device 頭脳補助装置)
BSDとは、アドルフ・A・アルセルフにより発明された、近年の大発明である。脳の使用領域の拡大することを目的として開発されたこの装置により、人類は、超能力、魔法といった非現実的な世界に足を踏み入れることとなった。
BSDは、個人の脳波を測定、記録し、個々人に適応した波長を作りだし脳に電気信号を送り、脳の未使用領域を活性化させる。だが、ただ活性させるだけでは人間の脳は100%の強化には耐えきれずオーバーヒートを起こしてしまう。
そこで、アドルフは活性化させた脳の処理自体もBSDにさせることにした。BSDを第二の脳と擬似的に定義することで活性化したという事実をデータとしてBSD内に転送し、BSD内ですべての演算処理を行わせることに成功した。
こうして実質、脳の力を完全に使用できるという理論を証明して見せた。
しかし、ここで想定外の事実が発見された。脳が活性化すると”思考力の加速””筋肉のリミッター解除”というものなどが起こると考えられていたが、実際には、魔法とでも呼ぶべき力が発現したのである。BSDを用いた恒常的な活性化と火事場の馬鹿力のような瞬発的な活性化では、全く異なるということである。
しかも、能力が覚醒した段階では、制御できず周囲に大きな被害を出すことも多く少なくない。そこで、アドルフは、この研究成果を公表したあと、平和を掲げる国”日本”にどこの国からも影響を受けない独立自治高等機関アルセイフを設立し、能力指導をすることにしたのだった。
一部アドルフ・A・アルセイフ伝記より抜粋
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さて、名字の話をしよう。
某Web上のインターネット百科事典によると、名字は、元々、「名字」と呼ばれ、中国から日本に入ってきた「字」の一種であったと思われる。昔は貴族といった上流階級の人々しかもっていなかったが、時代がたつにつれ庶民にも広がっていったというのが一般的といわれている。また、四月朔日、月見里といった珍しい名字の人は昔何らかの得別な職に就いていたか位が高かったのではないかと考えられている。
まぁ何が言いたいのかというと、珍しい名字というものはそれだけで、人から興味を持たれるものであり、顔も覚えられやすくなってしまうことは想像に難くないだろう。というかみんなも身近に体験したことがあるだろう。だからつまり、自他ともに認める変な苗字である僕も入学式直後の自己紹介で好奇の目にさらされるのが確定してしまっている。
そんなどうでもいいことを考えながら歩いていたら、1時間以上も早く会場についてしまい途方に暮れた。
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独立自治高等機関アルセイフ
世界一早く設立された魔法専門学校である。
アルセイフの設立以降、同様な魔法学校は世界にいくつも設立されたが、BSDを作成したアドルフが創設者である点や最も早く設立された歴史ある点が高い評価を得ており、魔法高校のエリート校として人気を博している。
講義棟、実技棟、実験棟、図書棟の四つの棟からなっており、それぞれの棟同士は連結し合っており正方形のように配置されている。周りには、クラブ、体育館、シャワー室などといった設備も充実している。
彼は、早くつきすぎてしまったことはしょうがないと思いとりあえずアルセイフの中を見て回ることとした。早く着きすぎたといっても生徒が彼一人であるわけではない。ポツリポツリではあるが入学生はあつまり始めていた。一通り見て回ると、入学生の数も増えており、時間になったようで会場へと向かう生徒の流れに身を任せたのだった。
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会場に入ったころには、半分ほどすでに生徒が集まっていた。
自由席であったため、手近な後ろのほうの席に座ることにした。
午前9時50分。
開始まであと10分程度。
開始までの時間は暇であったが携帯端末を使用するのもマナー違反であろうと思い、目を閉じて睡魔に身を任せようとしたところだった。
「すいません。左隣の席はあいておりますか。」
と、頭上から声がかかった。
目を開けると、艶やかな黒髪を肩ほどまでに伸ばした大和撫子のような和風美人と茶髪を後ろでまとめポニーテルにしている活発そうな美少女の二人組がいた。
「あいてますよ。」
と返事をし、また目を閉じ自分の世界に戻ろうとしたのだが、
「同じ新入生の方ですよね。私、八月一日 楓といいます。よろしくお願いします。」
と大和撫子な方からさらに声がかかった。
楓が声をかけると”私もっ”でもいうように茶髪のほうも話しかけてきた。
「本田 桜子だよ。よろしく。」
隣の席に座ったくらいで挨拶してくるなんて律儀だなと若干失礼なことを考えながらも、とりあえず自分も自己紹介を返すことにした。
「九 奏です。こちらこそよろしく。」
「イチクジなんて珍しいね。」
と桜子が言う。奏的には、この反応は慣れっこだったため特に気にすることはなく、
「まあね。でも、東京のあるところならわりとある名字だよ。珍しいといったら八月一日さんのほうだとおもうけど。しかも八月一日って四家のひとつのあの八月一日だよね。」
といった。
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四家。
イエスキリストや中世の魔女狩りといった例を考えてみると歴史上に魔法というのは、存在しているように思える。しかし、表舞台には表れていない。この歴史上の魔法というのは先天的に脳の活性化がされている人の存在を示していると今では考えられている。日本で言う安倍晴明もこの一人である。
BSDが出現するまで、そのようなものの存在はまやかしや迷信だと考えられていたが、BSDが出現すると、魔法は人々の身近なものとなり魔女・陰陽師は実在したのではないかと考えが一般的になりそうときに表舞台に立ったのが四家である。四家は、陰陽師の力を駆使し裏から国の調整を行っていたがBSDの存在によりもはやその存在を隠す意味がなくなり表舞台に出てきた。BSDを併用した陰陽術(ここでは魔法と同義)の強さを見せつけ国のトップへ君臨した。君臨したというと聞こえは悪いがまあ国の政治形態はほとんど変わっていない。ただ国に対して影響力の強い家系ができたというような評価でいいだろう。
八月一日、五月七日、六月一日、四月一日という四つの家系のことを四家という。
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「その通りですけど、そんな気になさらないでください九さん。これから同じ高校で学ぶ同級生なのですから。」
「だったら、俺のことは奏でいいよ。まだそんなに親しくないし呼びづらいかもしれないが。」
「でしたら、私のことも楓で結構です。」
「同じく桜子でおっけーだよ。」
こうして、おれたちは名前で呼びあうことにした。
「楓と桜子は同じ中学かなんかなのか?」
「そうですよ。桜子ちゃんとは小学校からの付き合いでとっても仲がいいんです。」
といったような趣味、スポーツといった当たり障りのないような会話をしていると、チャイムがなり入学式が始まった。
どこもいっしょであろうが長い校長の話、来賓の話、つらつらと続くどうでもいい話にいつの間にか眠ってしまっていた。
◆◆◆
ふと周りがキャーキャー黄色い声が騒がしく目を覚ました。
何がおこっているのかわからず式中に迷惑かもしれないが小声で楓に聞くことにした。
「おはよう。」
そういうと、楓はくすくす笑いながら
「ぐっすりお休みでしたね。両隣りがそろってお休みになるなんて。」
とさらに自分の左の方を指しながらいった。
「悪いとは思っていたのだがちょっと昨日いろいろあってね。ほとんど寝れていなくて。それで今何があってるんだ?」
自慢ではないが奏はそこまで目がよくない。しかも後ろのほうに座ったうえ、ステージ以外は照明が消してある暗い状態だ。奏の目には壇上にだれかいることしかわからなかった。
「生徒会長の演説ですよ。」
「なるほど。」
それを聞き、納得する。
今期の生徒会長は、五月七日 咲良。
ふわっとした黒髪が肩まで伸び、均整のとれたプロポーションを持ちながら、生徒会長になるくらい勉学も優秀というまさに才色兼備というやつだ。さらに、名字からもわかるように四家 五月七日家、しかも直系にあたる。いずれ当主を次ぐと言われるほどの力量であり、学校内だけにとどまらず学校外においても広く有名な女性である。
「咲良ちゃんは美人ですからね。」
「ほー。知り合いなのか。」
「四家同士ですからね。子供のころからよく一緒に遊んでましたよ。私のお姉ちゃん的な存在という感じですね。」
「------であるからして、入学した皆さんはこのアルセイフの生徒としての誇りを持ち、これからの学校生活に励んでいただきたいと思います。生徒代表 五月七日 咲良」
生徒会長のあいさつが終わる。会場は拍手が巻き起こりまるでアイドルのようだった。奏では、あまりの人気に辟易してしまった。
----これにて入学式の全過程を終了したいと思います。入学生の皆さんは会場を出たところにある掲示板で自分のクラスのデータを受け取り、講義棟にある自分の教室へ移動してください。
というアナウンスが入った。生徒会長のあいさつで最後だったようで、そのアナウンスを聞き生徒が一斉に動き出す。
「一緒に行きませんか?」
そう、楓は奏に声をかける。特に断る理由もなくその提案にのることにした。
「ちょっと待ってくださいね。今、桜子ちゃんを起こしますから。」
そう言い、桜子の体を揺らした。
「桜子ちゃん起きて。」
「んー。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。入学式終わっちゃったよ。もう、初めから最後まで全部寝てるんだから。」
若干呆れながら楓はそういった。
「へへへ。眠くなるものはしょーがないよ。」
全く反省してないような桜子は周りをぐるっと見渡すようにして背伸びした。そして奏のほうを見ると一言挨拶してきた。
「おはよう奏くん。」
奏では初対面ながらこの自由さが桜子なんだろうと本質的に感じ取り、同様に挨拶を返した。
「桜子も起きたようだし、そろそろ行こうか。」
と立ち上がり二人に声をかけると
「そうだね。」
「いやー。待たせちゃったみたいだね。」
二人はそう返事をした。
そして、三人はクラスについての不安や期待を抱きながら出口に向けて歩くのだった。