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十一

 甚大な犠牲を払って手にするものが、数年置きに干ばつにみまわれる痩せた土地だけなら、こうはならなかっただろう。どちらの領主も争いの時に突入するのを望まなかったからこそ、小競り合いが発展することはなかったのだ。しかしマテウスの知恵で肥沃に生まれ変わった台地とそれを支える文化はあきらめてしまうには惜しい戦利品だ。また、弱腰になった領主を見限る家臣だって出てくるに違いない。やすやすとエミール公になど渡してなるものか。そう考えたオリヴィエ卿は暴挙に出る。武勲をあげた者には荘園の所有を認めるといった褒美を餌に民兵を募ったのだった。

「バカ野郎! ハシしか握ったことのないおまえらに兵士など努まるものか、頭を冷やせ!」

 鍛冶屋のふたりの弟子はネリの父親に暇を願い出ていた。

「だけど親方、俺たちは未だに槌も持たせてもらえない。これじゃあ、いつになったら一人前になれることやら――。農家の三男坊に生まれた俺は他の職を選ぶしかなかったけど荘園がもらえるとなれば話は別だ、農作業ならガキの頃からやって慣れている。親方のやり方に不満があるわけじゃない。でも、俺たちにだって所帯を持つ権利はあるんだ」

「それにしたって……」

 弟子たちの眼に確固たる意思の光を見るに至り、ネリの父親は彼らを翻意させられないことを悟った。


 旅支度を始めるマテウスの住居をネリが訊ねてきた。戦火が開かれるのはもはや時間の問題となっており、村は再び暗い翳に包まれていた。

「ドミニクが――」

 その途方に暮れた表情から話の続きはある程度予測できた。案の定、弟子たちにそそのかされたドミニクが民兵に身を投じた旨をネリは語る。

「父に相談すれば許してもらえないことはわかっていたのね。『国を護るために行く』そう書置きを残して朝には姿を消していたの。父は放っておけ、と言うけど……。お願い、あなたの知恵を貸して」

 オリヴィエ卿の惨敗となるだろう見通しはネリに話してあった。どちらの領主に与するつもりもないマテウスだが恩人の兄を死なせる訳にはいかない。しばし考えた末、苦渋の決断を下す。マテウスは納戸に置かれた大きな壺をちらと見て言った。

「君の父上の協力が必要だ。行こう」












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