表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

36話 潜入





36話

潜入







ディッケル達の後ろ姿をしっかり見送って数分後、奴らのアジトから数建離れた建物の前で辺りの様子を窺う。

動き出したのが夕方であったため、既に日は沈みかかり、かがり火や魔灯(魔力を動力とした電灯のようなもの)が必要になってくる頃だ。


誰もいないのを確認し、目の前の建物を見つめる。



大量生産のレンガで造られた三階建てのこの建物、というよりここら辺一体の建物には、窓の手すりなどの余計な物が少ない。

町の外れにあり治安もよくないため、泥棒に親切な無駄な装飾物は付けないのだ。



先端が曲がり尖ったL字の、攻撃性よりも隠密性、機動や武器の取り回しの邪魔にならない機能性に特化した鉤爪を装備し、一度しゃがみ反動をつけて跳躍。



壁を一度蹴り勢いを殺し、屋根部分に爪を食い込ませ、ゆっくりと屋根上を確認しながら登る。


今日身に付けている隠密用の装備は、いずれもコンパクトに変形、収納させることができる優れものばかりだ。




(値は張ったが買うだけの価値はあったな)




殆ど音も立てていない、高度な隠密。



[変異][体内操作]で爪の伸縮や形状操作、ある程度の硬度の操作も可能であるし、その程度の操作なら造作もないため、この鉤爪を使わずとも勿論今の挙動は可能である。

だが、正直それ専用に造られた器具があるのにわざわざ自分の肉体を行使する必要はない。



勿論いざという時のために慣れておくことは必要だが、そんなことは実践を想定した練習しておけばいいことである。

準備する時間があるときに万全の準備をせず、使える物を使わないなんて愚の骨頂だ。



不意を打たれたときに爪が変形していて武器を構えるのが遅くなりました、なんて可能性はほんの僅かでも潰すべきなのだ。




物騒な建物の場合、人間が移動できる場所に罠が仕掛けられている場合があるが、今回は特に何もなかったようだ。

生物単体の身体能力が高いこの世界では、元の世界の常識は通用しない。


屋根から屋根に、不意の罠や不慮の事故が起きないよう慎重に進む。




(ん、ここだな。周囲に人影無し、暗さも……いい感じだな)




問題のディッケルのアジトは四階建てであり、情報屋に聞いた話だと地下室もあるそうだ。

前日にチェックしておいた、正面入口と裏口の門番から見えない位置、尚且つ日が沈めば周りの建物からも死角になる三階部分に飛び移る。



飛び移ると行っても、勿論余計な取っ掛かりなどなく、そこは壁……だが、細い鉄杭が出るように細工した靴に、鋭い鉤爪で壁にしがみついた。




(元の世界のような形状なら侵入し放題なんだけどな)





取っ掛かりになるような手すりのような物が無いとはいえ、真平らな壁ということはない。

レンガとレンガの繋ぎ目もあれば、くぼんでいる部分もあるのだ。



そもそもこの世界では建造物など壊れる前提であり、戦略によっては街や村を囮に魔物ごと吹き飛ばしたりすることさえある。

占領した土地に急ピッチで防壁や街を作るこの世界の建造技術は、防御力と建造スピードに特化されている。



じりじりと音を消しつつ窓の前まで移動する。

窓枠には木の板が乱雑に打ち付けられており、隙間にも布を詰め中の様子は窺えない。






――布をほんの少しだけずらし、中の様子を蛇の眼、元の世界で言う所の『ピット器官』で探知する。






蛇の眼、と言っても眼球というわけではない。

夜行性の種が多い蛇は、闇の中でも獲物を終えるように熱で獲物を探知することができるのだ。


異世界版サーモグラフィといったところか。


この器官は眼球付近に存在するが、あくまで眼球ではない。





――サウスタウンは魔物領侵攻最前線であり、街の外で出会える敵の種類も数も他の地域に比べとても多い。


これ幸いと、特殊職業の"融合生命体/キメラ"の能力を最大限に活かすために、街の外で出来る限りの種類の魔物の狩り、捕獲にいっていたのだ。

この"蛇の眼/ピット器官"も、バインドアナコンダ(縛りあげる蛇)から得たものだ。


異能に近しい能力を得ようとした際、色んな良い誤算や悪い誤算があった。











密林、ジャングル、とでも言い表せばいいのだろうか。


物言わぬ木々に紛れ、時たま生物のような動きを見せる木。

不可思議な触手や、原色が目に痛い色やまだら模様の植物。

見通しの悪い茂みに身を隠すように移動する、異様に刺々しい骨格を持つ蟲。


時折争うような音や、甲高い悲鳴のような鳴き声が響き、静寂になる瞬間など、ここら辺一帯が焼き払われた後以外想像がつかない。


ちなみにだが、当然魔物も魔物同士争う。

魔物を魔物たらしめているのは、その身から出る魔石の存在だ。

人間の害になる生物がほとんどなので勘違いしているものも多いが、本来は魔石が摘出できる生物として魔物と呼ばれているのだ。


この魔石というもの、非常に謎が多いが……魔の力を取り込んだ者は魔物になるというのが通説である。

"魔が濃い地"が存在し、その周辺の魔物の力は群を抜いているのだから、とりあえずは納得せざるを得ないというのが正しいのだが。



「アラン、解体接合はどんな具合だ?」



眼前で、野菜をぶつ切りにするような速度でこの辺にいた数体の魔物の死骸をバラすアラン。

辺りの地面にはかなりの量の血液が広がっているが、アランは服に付着させていない――どころか、手首より上に赤く染まっている部分がなかった。



「驚きです。これは、すごい」



今目の前で自分がした行為に実感が湧かないのか、今だ自分の手を見つめている。



「ああ、驚くべき手際だった。


 鱗や骨もなんなく切断していたが、切れ味も強化……と思ったが、その様子だと違うようだな」


「ええ、そんなチャチなものではありません。


 どこの部位を切ればいいのか、構造上の欠陥に、器官の特性。まるで自然の流れのように、数式を読み解いているかのように意味が伝わってくる」



なにやら興奮しているようだが、元が外科医のアランだ、その凄さとやらは本職じゃないとわからないのだろう。



「ああ、お前の能力の凄さはわかった。できることと気付いたことを後でレポートにまとめて報告するように。


 それで、地球の生物と比べてどうだった?」



宥めるように促がされ、ご主人様をほっぽっていたことに今さら気付いたのだろう。

はっとしたように緩んでいた表情を引き締め、咳をして引き締めなおした。



「はい。重力や環境の違いからかはわかりませんが、根本的に違う個所が多々ありましたが……。


 同じ種であろうことを推測される魔物は、元の世界の生物と共通点があります。


 しかし、死骸から魔石なるものがでるのです、一緒に考えるのは危険でしょう」


「同一視するのはよくないが、手がかりになることもある、か。まったく違う進化をしたと考えるのがよさそうだな。


 

ざっくり調べた感じ、似た種の生物は似たような特性がある傾向があるし」






「まあ、今考えても仕方のないことだが……。利用出来るものは利用していこう。


 使えそうな素材はあったか?」



俺の身を強化する、他者の進化の成果を丸々横取りする。

まさに俺の生き様のような気がして、嬉しいような悲しいような、複雑な気分になった。


記号/マクロと一体化してからというもの、感情を隠すのに苦労することがなくなったため、かつての表情の消し方、感情の殺し方を忘れそうになってしまう。


身に付けたスキルを劣化させるなんてとんでもない、と考えるべきか。

進化の過程には取捨選択が必要だ、と考えるべきか。


自分で勝ち取った実感の湧かないこの特殊覚醒称号の存在を持て余してしまう。



「そうですね、とりあえずは鱗、骨、尻尾、羽毛の羽、薄皮の羽、鉤爪、くちばし、犬歯、毒牙、毒の生成器官に……。


そうだ、ピット器官というものをご存知ですか?」










(人間とかけ離れすぎた器官を常時取り込むのはとても負担がかかるが、俺の"半身"がとても役たってくれた)




そう、有用な器官を取り込めるとはいえ、本来人体には存在しない新たな器官を取り込むなど本来有り得ない行為だ。

数代かけて進化する生物の常識を根本から覆し、たった一代で進化するなど、発狂必至である。


悪い誤算は、一時的にではなく恒久的に器官を取り込もうとした場合、"融合生命体/キメラ"の能力ではその手間、苦痛、かかる期間が予想以上になるということだった。

しかしここで良い誤算もあった。



("マクロ/記号"の半身がいてくれなければどうにかなるところだったな。


 身体に順応する間切り替えれば、精神的に生物を超越……超えるというより、ずれるか。痛みや違和感を感じないと言ったほうがいいのかな。


 "人工生命体/ホムンクルス"の能力の、[適合]のお陰で取り込む時間も短縮できているし、最高の組み合わせだな)



"人工生命体/ホムンクルス"が予想以上にプラスに働いたのだ。

これがなければ俺の計画は大幅にずれ込むことになっていただろう。



そしてもう一つのいい意味での誤算は、アランの"解体接合/サージァン"だ。

一度解体した生命体の構造を把握できるという能力があったのだが、従来の医者としての能力や幅広く深い知識と合わさり、その応用力は底が知れなかった。


正直、バインドアナコンダのピット器官など普通に解体しても気づくはずもない。

気付かなければ取り込むこともできない。


例え気づいても、その器官についての知識がなければ上手く運用することもできないし、どの部位がその器官かもわからない。


時間をかければできたことかもしれないが、数多くの可能性を潰していた可能性も同時にあった。

アランと俺の相性はとても良い。


俺はもっと強くなれる。


もっと力を手に入れることができる。


上に昇る感覚。見下したその下に蠢く有象無象。


そんな人間染みた汚らわしい感情こそ、この世界で生き抜く上で最も優れた原動力であるということは、生まれ持つスペック(機能)が劣る人間が他種族を圧倒している事実を見れば明らかである。





聖人君子は勝ち取らない。





統治者(保つ者)には成りえても


支配者(勝ち取る者)には成り得ないのだ。


保つにはまず勝ち取る者が必要であり、少なくともこの大陸は今、勝ち取る者を求めている。





(俺は勝ち取り、支配する。


 そのための一歩の、踏み台になってもらうぞ)





塞がれた窓、その補強された必要最小限の部分を熱したヒートクリースで焼き切り、残りは専用の工具で手際よく解体する。





「こういう現場での実働をしなくてもいい身分に、さっさとなりたいものだ」



アジト内に無事降り立ち、当分先になるであろう願望を一人呟いた。






あれ?もうちょっと進む予定だったのに潜入して終わってしまった。


改行とか少し変えてみたんですけど、どうでしょ?

あと地の文多いですよね。

そこらへん違和感とか読みにくいところとかあったら忌憚のない意見をお聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ