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35話 孤児狩り








35話









「狙われているのは新人ばかり?」



「ああ、それも孤児が多いらしい。


 しかもだ、奴ら迷宮内でのみならまだしも、街中でも幅ぁ利かせてるらしい。


 ――狙われているっていっても、殺すわけでも強引に拉致するわけじゃあねえんだ。


 いくら小競り合いが多い街っていっても、警備自体はそんなに甘くねえ」



鎖鎌のディッケルの話を聞いて四日が経ち、情報屋から入ってくる情報を整理しているところだ。


俺は安全のために宿に引き籠り、レベルの低い者も出歩かせないようにしていたため、情報を収集していたのはオクラとレベル50以上の数名のみだ。




「つまり、別に俺だけが狙われているわけではない……と」


「そういうことだな」




オクラは今まで数組の情報屋をはしごしていて喉が渇いたのだろう、テーブルの上に置いてあった果実水をあおった。



「手口はこうだ。


 ディッケルの手下が、お前が来た時の世代の孤児に因縁をつけてぼこぼこにする。


 そこに図ったかのようなタイミングで兵士が来て連行。


 ディッケルやその取り巻きは結局釈放されて、ぼこられた孤児をその後見た者はいない……なんて話だ」


「兵士の格好だけ真似ているとかそういうことではないのか?」


「いいや、見た奴は何人もいるが、正規の兵士だったらしい。ただ、軍所属ってわけじゃなくただの警備兵で、下っ端ばかりって話だ」


「……」



兵士を買収すること自体はそう難しいことではない。


ちょっとした騒動に目を瞑って貰うこと自体は、コネさえあればちょっと高い酒代程度もあれば十分だ。



しかし兵士に片棒を担がせるのは……並大抵のことでできることではない。


罪人を拘束、投獄しておく施設を利用すること自体は、規模の小さい警備兵の詰所なら簡単であろう。


しかしそういった施設の全ては国有であり、申請が必須な事項も多く……一兵士だけを買収すればいいという問題を逸脱している。


どこの階級、地区まで買収されているかはわからないが、金だけで解決する問題ではない。



「ということはだ、奴隷市の方でも動きがあるだろう?」


「ああ、案の定お前の年代の孤児を買っている。


 といっても、その特殊な称号を得られる奴はほとんど抑えちまってるんだろう?」


「ああ、センタータウンからこっちに来た特殊覚醒称号を持つ可能性が最も高い人間は、奴隷達にリストアップさせているからな」



この特殊覚醒称号を持つ可能性が高い者というのは勿論、現代人のことだ。



「がっははは、それなら問題ねえな!


 続きだが、あいつらでかいクランに所属している奴らはしっかり避けて、中堅クラン程度の連中までを普通に襲ってやがる。


 戦力を揃えたのはその為だろうな……。中堅クラスのクランが挑むにはしんどい戦力だ。


 ディッケルやその取り巻き達はあまり動きまわらず、揉め事になった時や高レベル相手にしか出張らねえって話だ。


 つっても孤児で高レベルなんてほとんどいねえがな」



昨日入ってきた、ディッケルとその取り巻き達の資料を捲る。


この場合の中規模クランとは、レベル100を超える人間がいない、もしくは極少数、人数も30人程までのクランのことだ。



「ディッケルが90レベル台、80台が三人に、50~70台が十人……主に動いているのはこの位か。


 こんなヤバそうな山に、よくもまあこれだけ集まったな」


「明らかにばれたらやべえし、他のクランに喧嘩まで売ってるんだぜ?


 余程金払いがいいんだろうな」


「俺達は奴らから見ればいいカモだろうな。


 オクラ以外見事に孤児ばかり……レベルも、俺の正確なレベルは漏れちゃいないだろうが、俺以外は中堅以下ってのはわかってることだ。


 極めつけは急に名を上げた俺。なにか特別な物でもないと不自然だからな。俺が特殊職業(覚醒称号)持ちだってのは確信してるだろう」


「ああ、情報屋に会ってるときに嫌ぁな視線を感じたぜ。


 宿の周りにも何人か嗅ぎまわっているのがいるみたいだし、狙われてるってのも、間違いじゃねえだろうな」



相槌を打ちつつ、干し肉に苛立ち気にかじりつくオクラ。


最近外出は必要最小限、出ても情報収集とストレスが貯まっているのだろう。



「しかし上手い手ではある。


 これだけ戦力があれば、余程でかいクランじゃない限り、新人にちょっかい出されたくらいで争うには辛い。


 ディッケルは悪い噂も多いからな、余計手が出しづらいだろう」



元々ディッケルは気性が荒く、よく諍いを起こしている。


一度冒険者間で干されて軍隊に行ったが、そこでも問題を起こして逃げるように抜けたという話だ。


馬鹿が力を持つと厄介な典型的な例だな。



「兵士の動きも怪しいとなっちゃあ、下手すりゃ巻き込まれて奴隷化、なんて洒落になってない。


 ……しかしだ、ディッケルとその取り巻き達が本格的に動き出したのが、俺たちが話を聞いた日の翌日……つまり既に三日経ってる。


 いくらコネがあろうと、こんな好き勝手いつまでもできることじゃあない」



なんとも奇怪な話である。


そもそも大前提として、恐らく狙われているのは俺達現実からの来訪者でほぼ間違いないだろう。


俺は勿論、オクラも特殊覚醒称号持ちが異常にいるということを知っているからこそ今こうして自然に会話しているが……。



「正直採算が合わねえんだよな。


 こんだけ金ばら撒いて好き勝手やらかして、得られるのはレベルも低い孤児ばっかりだ。


 ということはだ」


「ああ、間違いなく気付いているんだろうな。


 どの程度知られているかはわからんが、少なくともこの年代の孤児に特殊覚醒称号持ちが多いってことには気付いてそうだ。


 ……根回しは上手いことやってるが、実行の手口もずさんすぎる。実行犯と計画犯は別だな。


 短期間で大量に拉致してさっさとケリをつけるつもりか」



もしこの仮定が正しいのなら、裏にでかいバックがいるのは間違いないだろう。


そもそも複数の国がないこの大陸で、大々的な犯罪を犯した者が人間領にいる限り逃げ切れるはずがないのだ。


ということはだ、裏に犯罪を犯罪にしないしない者……もしくは実行犯を捨てゴマに、上手く成果(孤児)を回収することができる人間がいるということ。





たったの三日ではあるが、連行されて戻ってきていない孤児は既に二十人を超えている。


これで国が動かないはずがない。




だがまあ、今まであまりお世話になることが無かったコネを頼ってみるいい機会かもしれない。


オクラから受け取った、実際孤児達が襲われた場所をマーキングした地図を見れば、地区に偏りがある。


さすがに迷宮地区全ての兵士を取り込んでいるわけではなさそうだし、とりあえずは四方に手を伸ばしてみよう。



「オクラ、北区の警備兵の中隊長ナタイカに連絡を取れ。


 それと目ぼしいコネのある兵士の名前を書きだしておくから、そっちにもあたれ。


 街の情報よりももっと上の、でかいところの動きが知りたい」


「それはいいがよお……いつまでこうして引き籠ってるんだよ?」


「ああ、このまま放っておけばその内この騒ぎも終わるだろうが……そろそろ動くぞ。


 放置するには少しまずそうな要素が多すぎる」



















翌日の夕方、いつもよりギスギスとした空気が流れる街道を通行人達は足早に通り過ぎている。


ここ数日、毎日ディッケルに雇われたごろつきが孤児に手を出しているので、皆気が立っているのだろう。



オクラが、アラン、ビル、リョーコ、セリアを連れて歩いており、俺は気配を消し一般人に成り済まし、距離を置いてその後に続いている。


ちらちらとオクラ達を窺う目線が目立つ。


多少顔が広い者なら、大抵が鎖鎌のディッケルの動向に気付いているだろうし、最近引き籠っていた俺の奴隷達が一斉に外に出れば目立つのだろう。


視線の先をさりげなくチェックしながら人ごみにまぎれていると、オクラ達を窺っていた二人連れの男の片方が、足早にその場を立ち去るのが見えた。



(案外早かったな。それだけ協力者が多いってことか)




その後姿を見送り、別のルートを使って今の男が行くであろう場所へ向かった。


そう、ディッケルの根城にしている場所は既にわかっているのだ。


この狭い街で、隠しきれることなど多くない。


プライバシーも糞もないこの世界では、コネと金さえあれば調べられないことは多くないのだ。


……だからこそ今回のディッケルの手口も短期勝負なのだろう。




力をつけるスピードが速すぎて、力量に会っただけの知り合いが少ない俺だが、スイーパーの面々と深い繋がりを持てたのはでかかった。


そこ経由で、『街で噂されている程度の』話がごまんと入ってくるのだ。


ディッケルがごろつきばかりに声をかけ、謳っている言葉も当然その中に入る。



『この時期入ってきた孤児を痛めつけて動けなくするだけで、人数分の金が入る。


 指定した地区での行為なら兵士に捕まってもすぐに釈放される。


 痛めつけた人間が持っていた金品はくれてやる』



最近俺の滞在している宿を探る人間が多かったのは、孤児が多いということもあるが、俺やその奴隷が大金と高価な装備を身につけているからだろう。



といっても、動かなければいずれこの動きは収束するであろうが……そのままではおけない理由があるのだ。




(どこから、どの程度の精度で情報を得ているかはわからないが……。


 何も知らずに放置しておける問題ではない。


 俺達現代人の特異性、調べても出てこない特殊覚醒称号が多すぎる。


 立場の高い人間に気付かれればどうなることか、身を守る力も地位も足りない現状、不安要素をそのままにしておける筈が無い)




やがてディッケルの根城の前に着く。


街外れにある、レンガ造りのなかなかでかい建物だ。


窓の数は少なく、あっても木戸が下ろされていて中の様子は窺えない。


入り口の前には、強面な門番が二人立っており、裏口らしきところにも一人立っている。



(ただのゴロツキが、随分と金をかけているな。)



数分も経たない内に、武装を整えたディッケルとその取り巻き達が慌ただしく戸口から出ていく。



(俺自らが危険なことをするのは避けたかったところだが。


 潜入に最も向いていて、かつ単体戦闘力が高いのが俺だからな、仕方あるまい)




集団の中でレベルが最も高いであろう、ディッケルとその取り巻きの姿を確認し、しっかりとその体温を覚えた(・・・・・)









本当は兵士とかちょっと偉い人とかとコンタクトとって、政治的な云々や、下っ端から探りを入れたりとかしようと思ってたんですよ。

すごい回りくどい調査のシーンを、2話分くらいの文量書いたのですが、正直自分で読んで面白くないし、書いてても面白くないのでざっくりカットしました。


先は長いので、とりあえずさくさく進めたいです。

改訂はいつでもできますし、完結しないと意味無いですしね!


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