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33話 二月後



33話

二月後








「おおおおッ、『パワースラッシュ』!


 リョーコ撹乱、アラン壁、セリア遊撃!」



土方親方のビルが、柄から刀身合わせて己の身長程はありそうな大剣を低空で豪快に振い、ヘビーウルフを三体吹き飛ばす。


吹き飛んだヘビーウルフの残骸の間から、鋼鉄の装備品で武装したナイトゴブリンが四体が飛び出してくる。


ゴブリンだからと侮ってはいけない。


様々な武器のスキルを磨き武装したゴブリンは、下手な人間より余程上手く武器や道具を使いこなす。



ナイトゴブリンの展開に対し、意外なことに素早く的確な指示を飛ばしているのは、特殊覚醒称号の[指揮]で状況把握能力が底上げされたビルだ。


その後ろには残り数体のヘビーウルフと、それを統率するヘビーウルフ・コマンド(指揮)が控え、じわじわと包囲網を広げこちらの隙を伺っていた。



「くらえっ」



後衛から全体の流れを見ていたリョーコが、"異様に"絶妙なタイミングで麻痺毒を撒き散らす炸薬をナイトゴブリンの手段のど真ん中で炸裂させ、一時的に無力化する。


その隙を見計らい、アランが槍で突出していた二体のナイトゴブリンの喉や心臓を、"特殊覚醒称号:解体接合"の力で正確に射抜き……



「……はっ、あああっ『三段突き』ッ」



残り二体をスキルで蹴散らす。



「『スナイプショット』」



それに合わせるように、今まで数を重視して矢を放ちまくっていたセリアが、アランの背中越しに必殺の一撃を放つ。


まだ弓を持って二月しか経っていないにも関わらず、その射手としての腕は既に一人前の兵士と比べても遜色なかった。



その余りの殲滅速度に硬直していたヘビーウルフ達は、慌てて行動しようと動き出すが、その指令を出すはずのヘビーウルフ・コマンドは既にこと切れている。


コマンドウルフの瞳には矢が突き立ち、刺さった深さから矢尻は明らかに脳に到達している。


その矢尻にもたっぷりと毒が塗られているのだが、一撃必殺となったので毒は無駄になってしまったが……それは喜ぶべきことだろう。



統率された動きが、ウルフ族の最も厄介なところと言ってもよい。


有象無象になり果て、指揮権の委譲すら為されない状況では、本来の力を発揮できない。


今までヘビーウルフをけん制したり後衛の壁になっていた、名も知らぬ男奴隷二人が、残ったウルフを勇猛果敢に攻めたてている。


この優れた連携と大盤振る舞いされる消費アイテムの前には、魔物が殲滅されるのは時間の問題だった。












「連携も随分と良くなってきたな」



55階層、適正レベル65の場所でリーダーとなったアラン、ビル、リョーコ、セリア、そして名も知らぬ二人の男奴隷のレベル上げをしていた。


孤立した行き止まりの部屋の中で入念に罠を解除し。


俺が身軽な装備で魔物にちょっかいを出し、傷を与えながら引き連れ、彼ら六人にぶつける。


オクラはいざというとき手を貸すため、彼らの後ろに控えていた。




「あ、下剋上の称号手に入りました!」


「私もです」




奴隷二人がそう告げる。


下剋上が手に入るまで、リーダーを除く二人はローテーションで入れ替えているのだ。


リーダー四人をを含まない奴隷の平均レベルは30~40、ここに出現する魔物のレベルはおおよそ階層通りの55±5レベル程だ。


自分の倍近い魔物との連戦を繰り返し称号をさっさと手に入れさせようという魂胆だ。



勿論普通はこんなレベル差で勝つのは至難の業だが、全員に良質な装備を渡し、前もって魔物を負傷させ、毒に薬に――特に毒を――大量に消費して戦えているのだ。



「そうか、お前ら掃除人(スイーパー)の称号はもうとってるな?」


「はい、奴隷の中で掃除人が取れてないのは、もうここにいるリーダー四人だけなんで」



蔑みとも、侮蔑ともとれる負の感情を滲ませリーダー達を見やる二人。


連日この危険な階層で戦っているなんて……と同情されても困るので、ローテーションで入る二人には危険な囮役をやらせることが多い。



ここにいるリーダー四人は、格差感情が確立するまでは特別扱いし、レベルでも差をつけることにしていたのだ。


しかしこの様子なら、そろそろ目標は達成したと見ていいかもしれないな。





掃除人と下剋上の称号は便利なため、奴隷全員が取るようにしている。


そのために、わざわざ低レベル階層のスイーパーと話をつけて掃除作業に加えて貰っていたのだ。


掃除作業をする奴隷には魔法武器や、とっておきのヒートクリースを渡し、精神力がつきるまで撃たせて交代……としていればそれほど時間がかからず取得できる。


こんなに取得難易度が低いのは、人間サイドが大規模迷宮ビッグ1を包囲できているからであり、かつスイーパー達と交渉ができるだけのスキルがあるからということを忘れてはいけない。




「良く頑張ったな。しかし称号が増えたなら、飯ももっと食えるようになるんだろう?


 そこら辺の配分はリーダーに一任しているが」



「……はい」


「ええ、前よりは」



背後から黒いオーラでも出ていそうな不機嫌っぷりだな。


かつての同郷に、しかも待遇は同じはずの奴隷に、自分たちが食う飯の配分まで決められるのだ、ストレスが貯まって仕方ないだろう。


レベルや持っている称号によって、飯の質や休憩時間、娯楽を差別化している……そしてその配分はリーダー達にあえて任せているのだ。



しかしリーダーが食う分は一定以上と俺が決めているので、周りからみれば奴隷リーダーが自分達だけうまい汁を吸っているように見えるのだろう。


有能な者は自然と待遇が良くなることから、人を率いるような者は恨まれ、結束は生まれ辛い。


そして自分は有能であると思っている者は、納得できない理由でリーダーになっているものに反感を持つ。




「ほら、頑張った御褒美だ……これでうまいものでも食え。


 そうだ、お前ら溜まってるだろう。性処理用の奴隷を一人増やそうと思っていたんだが、お前らが選んで、ついでに今日一日は好きにしていいぞ」



「ほ、ほんとですか! やった!」


「ありがとうございます!」



銀貨(1000G=1~2万)を数枚ずつ渡し、さらに女奴隷の独占権までもらえるとあって、飛び上がらんばかりにはしゃいでいる。


連日レベル上げをさせているため、飯の量自体は満足いくであろう量を食わせているが、その質は悪い。


思うがままに屋台で買い食いなど、今の待遇からすれば狂喜するに値することだ。



もし金が手に入っても、奴隷に抱かれたがる娼婦なぞいない。


性処理用の女奴隷は買っているが、自分の番まではなかなか廻って来ず、悶々とした日々を過ごしているのだ。


戦闘で昂った人間は性欲も昂る。


彼らの喜びようもわかるだろう。



俺には生まれ持った圧倒的カリスマなぞ存在しないし、後光が差すような魅力も、アイドルのような容姿もない。


しかし、工夫次第では忠実な下僕を作ることは不可能ではないのだ。













ユージの奴隷を手に入れてからかれこれ二月が経っている。


現在特殊覚醒称号の取得者は四人。


元々レベル40台だった者は優先してレベルを上げたのだ。



アラン、ビル、男奴隷に一人、女奴隷一人。



アラン


"救命師/ライフセーヴァー" 数多の半死人を救いあげた者 [治癒][再生] 命を繋ぐ手:生命力を消費し、生命力を移動することが出来る。


"解体接合/サージァン" 器官や部位(パーツ)を別け繋ぐ者 [解体][接合] 臓器解析:分解(ばら)した生命体の構造を把握できる。



ビル


"建城師/アーキテクト" 拠点制作者の頂点の技巧を持つ者の中で、それを率いる者 [建造][分解][指揮] 構造物解析:造られた構造物の構造を解析できる。



男奴隷


"賢者/セイジ" 莫大な量の知を得た者 [聡明][速記] 識者:魔力の篭もった書籍すら速読できる。



女奴隷


"回春整復師/エステティシャン" 体の流れを整え、若返りさえ起こす者 [治癒][施術] 再春:細胞を活性化させ、元気にすることができる。




話を聞いてみれば、男奴隷はプログラマー、女奴隷は現世でエステティシャンだったらしい。


プログラマーで特に変わった称号が手に入るわけではなく、女奴隷でエステティシャンが手に入る。



外科医であったアランは"救命士/ライフセーヴァ―""解体接合/サージァン"。


詳しく聞いてみれば、相当の数の臓器を移植していたらしい……。


相当な数というところが引っ掛かり問い詰めてみれば、所謂違法臓器移植で一儲けしていたらしいが。



土方の現場の監督をしていたビルは"建城師/アーキテクト"。


ちなみに無いと思って聞いてみたが、城を建てたことはないそうだ。



また、バンドをしていたユージは吟遊詩人であったらしいし、その点を考慮して推測すると。




『この世界を基準して特殊覚醒称号がついているのではないか』




特殊覚醒称号はこの世界の人間でも所持している人間がいる。


つまり、この世界には無い技術、希少な技術や経験が大きなポイントになるのではないかという推測だ。



例えば"賢者/セイジ"であれば、割とこの世界でも所持者がいるという。


金持ちで本を読む機会が多い、教会で魔法書を会得する機会の多い人間が多いらしい……。


そもそもこの世界には、本自体が非常に少ないのだ。


それに比べて現世では本など溢れるほどあるため、比較的簡単になれるのだろう。



アランの"救命士/ライフセーヴァ―"は純粋に、傷を癒す"治癒師"とは違い、こちらでは『致命傷』である人間を何百人救ったからであろうし。


解体接合は……言わずもがな。



ビルの"建城師/アーキテクト"は、こちらの技術では考えられない建物を建設していたからだろう。



女奴隷の"回春整復師/エステティシャン"も、エステの技術など、この戦闘、戦争、力至上主義の世界で磨かれるはずがあるまい。



もしかすれば、この世界のシステムは可能性に満ち溢れているのではないだろうか。








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