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23話 誘導






23話

誘導





■前日、オリシュ




今日も迷宮での狩りを終え、仲間達と共にギルドで酒を飲んでいた。


この場にエルフのキルエも一緒にいればどれ程良かったか……。


だがしかし、キルエを買った一行の一人と交友関係を結び、聞いた話によると、そうひどい扱いは受けていないようだ。


今まで順調に進んできたので、今回のキルエ件、間に合わなかったのは非常に辛かった。


もっと金を貯めてキルエを譲って貰えるようにお願いしてみよう。


思考の海に沈んでいると、こちらに素早く近づいてくる影が一つ。



「……オリシュ」


「マキ、どうしたんだい。顔色が悪いよ」



マキは、奴隷市場でタッチの差でキルエを買っていった、ユージという男をリーダーにしたクランの一人。


キルエを譲って欲しいと話を持ちかけたときに交友関係を持つことができ、クラン内でのキルエの扱いについて教えてくれている友人だ。


そのユージという男、なぜか僕のことを睨むように見ていた気がするんだけど、マキに聞いてもわからないそうだ。



「キルエが危ないの」


「! キルエが!? なにがあったっていうんだい?」


「ええ! ど、どうしたんですか?」


「キルエって、あの奴隷市場で買おうとした子よね?」


「危ないって、一体何があったんだ?」


「ああもう、ちょっと貴方達落ち着いて! 話すにも話せなくなるでしょ!」



慌てて問いただそうとしてしまった僕、ニュウ、レイツェン、ナイトをクーシャが宥める。


クーシャは冷静で、こんな時とても頼りになるな。



「あ、ありがとうクーシャさん。


 あのね、キルエが迷宮に慣れるように、50階層までゲート無しで行ってたんだけど……」


「ああ」


「キルエってエルフ、しかも人間と交友しない種なだけあってプライドが高いでしょ?


 今までも何度も命令に背こうとしてたんだけれど、それでユージがキレちゃって、怪我をしたキルエをそのまま置き去りにして撤収しちゃったんだ」



さっ、と自分の顔から血の気の引く音が聞こえたような気がした。



「そ、そんな! キルエは!」


「ご、ごめんなさい、止めようとしたんだけど、私も無理矢理連れ出されて……。


 前衛の男の人には、とてもじゃないけど力じゃ叶わなくて」



気付くとマキは顔を真っ青にして、涙目になっていた。



「いや、伝えてくれてありがとう。それで、キルエの場所は」


「38階層よ。Bの9から10らへんだと思う。


 魔法も沢山覚えてるし生還くらいできるだろうってユージは言うんだけど、怪我もしてるし不安で。


 私この後すぐユージ達の所へ行かないといけなくて、ユージに逆らうとクラン追い出されちゃうから……ごめんなさい」



可哀そうに、後衛のサポート職だからあまり強く主張できないのかな。


でもこうして伝えに来てくれた。


なんていい子なんだ!



「いいんだ、伝えてくれてありがとう!


 ……もしどうしても我慢できなくなったら言ってくれ。僕たちと一緒に行こう」


「オリシュ……ありがとう」


「いいんだ、伝えてくれて、重ね重ねありがとう。


 皆、一緒に行ってくれる?」


「おう、さっさと行こうぜ!」


「仕方ないわね、こんな話聞いて行かないわけにはいかないでしょ」


「はい! いきましょう!」



皆僕に同意して……ん? クーシャ?



「クーシャ?」


「…………少し引っかかるところもあるけど、今はそうも言ってられないか。


 行くなら早急に行きましょう。夜になったら魔物が獰猛になってしまうわ」



そうだ、もう日が暮れそうな時間帯。


急いで駆けつけなければ!







■38階層 スティル





隠密装備に隠密スキルを発動させ、冒険者狩りで磨いた尾行のノウハウをフルに生かしながら後を尾行する。


50階層まではほぼ例外なく、ごつごつとした幅の広い洞穴で、足場も岩だ。


今回のために、鋼鉄で補強した靴の足裏に魔物の毛皮を貼り、極限まで足音を殺して走っている。



「急ごう、もうすぐ聞いた座標付近だ!」



オリシュが先頭を進み、クーシャ、ニュウ、レイツェン、ナイトと続く。


派手に足音を立てるが故に寄ってくる魔物を蹴散らし進む。


ここ38階層は、状態異常の牙を持つバット(コウモリ)系の個体数が多いため人が少ない。


バット系以外は35階層に出現する魔物の種類と大差ないので、大抵は35~6階層か40階層以上に移動するため、最短距離で通り抜けるだけの階層となっている。



(話はよくわからないが、おそらくエルフを餌に呼び出されているか、誘き出されているのだろう)



ただでさえ人の少ない38階層の中でも、上下階段からかけ離れた地点。


これだけ遠ければ人が来ることはなかなか無いだろう。


牙に麻痺毒を持つバットが俺の近くを通る。


魔物が好まない匂いの粉袋(消耗品)を持っているとはいえ、なにがきっかけで気付かれるか、不安が隠せない。



それからしばらく走り続け、急に進行速度が遅くなる。


おそらくこの付近でなにかあるのだろう。


丁度あちらから死角になる位置に岩場があるため、そこに身を潜める。



「キルエ! キルエ無事か!?」


「皆、手分けして探しましょう」



そのクーシャの呼びかけに、皆頷く。


この階層でばらばらに行動しても問題ないということは、個々の戦闘力は中々のものだろう。


50には届かないとしても、40代であることは間違いない。



(っと、散開して探索ってことは、隠れないと危ないな)



と我に返るも、その必要はなくなったようだ。


今俺が身を潜めている、3m程の岩と岩の間と、オリシュ一行を結ぶ線の先に見える小部屋から微かに声が聞こえてくる。



「オリシュ、あの部屋から声が聞こえるぜ」


「急いで!」


「ええ!」


「ちょ、ちょっと待って、少しは冷静に……」



程無くしてオリシュ達も気付き、一斉にその部屋へと向かっていった。


罠など考慮せずその突っ込む4人に、止めようとするクーシャ。


あの中では唯一思慮深い性格をしているようだが、つられて一緒に行ってしまった時点で手遅れだろう。


ユージが罠を仕掛けるというのは、俺の中ではほぼ決定事項だ。



案の定その小部屋の裏手からユージ達が出てきて入口に何かを放り投げる。



「マジックストーン、ディメンションウォール(次元の壁)、発動」






■オリシュ






「キルエ! 無事か!?」



小部屋に駆け込むと、ぐったりとした女――キルエがいた。


部屋の隅でうつむいていて、顔も見えないのにも関わらず美人と思わずにはいられないその姿に、僕はその人をキルエと確信し近づいた。



「う……あ……」


「……キルエ、これは!?」


「……ひどい、ね」


「い、いたそうです……」


「くっ」



キルエは手足の腱を切られ、口に布を詰められ塞がれていた。


明らかに、人為的なものだ。


なにかを訴えかけるように、激しく体を動かしている。



「すぐに治療を……ニュウ急いで」


「だめ、今すぐこの部屋を出な……」






「マジックストーン、ディメンションウォール(次元の壁)、発動」







唐突に聞こえた声とともに、唯一の出口が、次元の歪みで塞がれる。


ぞわりと背筋に冷たいものが走る――この気配、そして今まで僕たちが気付けなかった……間違いなく強敵ッ!



「――くっ、罠か! 皆戦闘態勢!」



――その時、次元の歪みの向こう側から、泣きそうに顔をゆがめたマキの顔が見えた。



「な、マキ……!」


「なんですって! マキ!?」



動揺に激しく心が揺さぶられる。


マキとはよく話していたレイツェンも同じく、強いショックを受けたようで、体が硬直している。



「馬鹿! 今はそれどころじゃねえ!」



ナイトの声に我に返り……。



「そうだよ、それどころじゃないだろう……?」



次元の壁の向こう側から、ユージの厭らしいにやついた顔が不快な声を発する。


ユージ! あの時睨んでいたと感じたのは間違いではなかったのか!


なぜこんなことをするのか、という混乱と怒りで頭が真っ白になる。



「ごめ、ごめんなさい、オリシュ……私、わたしぃ」


「ちっ、骨抜きにされやがって。


 俺たちは主人公の毒気に影響されやすいんだから気を抜くなってあれだけいっただろう!」



主人公? 影響? 何を言っている。


そんなことより、マキが泣いているじゃないか……!


どうして、マキ、騙されて? 脅された?



「まあいい、もうひとつ発動だ。かなり高価なんだ、"主人公様"、しっかりレアで強いのを呼び寄せてくれよ?


 マジックストーン、ディメンションドア(次元扉)発動」




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