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3章番外編 狂人は月の綺麗な夢を見る

 之はパラストという男が、一人の狂った女に入れ込み愛を知る…そんな在り来りな話。


ーーーーーー

 俺の記憶は、母親が儀式によって死んだ所から始まった。父親が悲しみと涙に溺れ、この世の全てに怒りを向けるかのような表情になったのをよく覚えている。…正直、9日前の朝に2つだった影が1つしか帰ってこなくても何も感じなかった。他の兄弟も同じ事を思っただろう。別に兄弟同士で助け合った訳じゃない。只々お互いの存在を認識しているだけ。

 俺の親は、宗教に入れ込んでいた。村に入る前だったから、そもそもソレが運命だったんだろう。

「美しくありなさい」「カミサマに拾われる様な、イイコでいてね」「別にカミサマを始めから信じてなんて言ってないわ。でも、これだけで良いから読んでほしいの!素晴らしいお方…」

そう言って渡された紙屑は幾つだったか。イイ母であろうとし、宗教を押し付けない正しい親に表面上だけなろうとした奴。常識を知った今でも彼女の事は別に嫌いでも何でもない。只々無関心、無感情…母だと言うのに他人事に思っていた。


 父親は、いつまでも何時までも妻の髪を、皮膚を持ち歩いていた。亡骸は家に放置したまま。母親に、もはや盲目的に愛を抱いていたんだろう。母はカミサマに捧げる儀式で死んだのに怒っているから、もしかしたらカミサマの事は信じておらず只々妻が好きだったのかもしれない。暫く俺達家族は腐った肉と骨と一緒に生活していた。…あの日が、来るまでは。


 その日は村が騒がしく、大人達がこぞって教会の前に集まっていたのを覚えている。

「戦争から逃げてきた奴が、カミサマを呼び出す所を見たらしい!」

「しかもカミサマは贈り物を授けてくれるそうだ…その物質は不思議な力を秘めている…」

「呼び出す方法は!?」

大の大人が魔法陣なんて信じて、地面に一生懸命になって描く。

「代償は!?」

「俺が行く!」「私、あたしよ!」

代償を差し出せば、カミサマに愛されるとでも思うのだろうか。自己犠牲の精神だけで今更グズグズに腐った大人が、選ばれなんてするもんか。


 当時の俺は、カミサマを信じていたんだろうか…。


「カミサマ!俺は内臓を差し出します!膵臓と腸、肝臓と肺の一部を!」

一人の男が天に向かって叫ぶ。何も起きない、と思っていた。

「カミサマが、降り立った!我等が神よ…どうかお救いを!私達は罪を犯しました。どうか、どうか一度だけ慈悲を!」

黒髪に、明るい不思議な目の色をした女が魔法陣の上に立っていた…。口からは黒い粘性のある血液みたいな気持ちの悪い液体が流れていた。その後同じ黒髪をした男が降ってきて、逃げてしまったらしい。が、その後残った懐中時計と黒い液体を見て彼等は虫のように集った。

 そんな人間達を横目に、俺は黒髪の奴等が逃げていった方向を見ていると、何かがキラリと光ったのを感じた。近くに行くと、ソレは黒い液体を纏った、彼女の物らしい髪留め。そんな物を拾わなかったら、拾ってなかったら俺は今頃どうなっていたんだろうか。

 拾った瞬間俺は記憶の波に包まれた。


【「プレゼン、ト。」ソティスが恥ずかしそうに言いながらそれを渡してきた…蝶々の飾りのついた髪留め。きっと高かったんでしょう?と言うと、「…別に。」と返された。彼を拾ってもう12年…贈り物をされたのは、初めてだった。】


 幸せそうな家族の記録。お互いに愛情を渡し合っているその姿に、俺は憧れていたんだろうか。その後は早送りのように生活が過ぎていき、そして今日の映像に変わった。走る途中で落としたんだろう…一瞬悲しそうに此方を見た彼女の目があった。


 暫くして俺が目を覚ましたのは、家の中。どうやら倒れたと勘違いしたアシンバの親が運んできたらしい。父は、見向きもしなかったが。アシンバの一家は此処では少数派な他人に心から気を使える俺にとって‘良い人’だった。世界が滅びかけた今、マトモな所では生きていけないんだろう…。両親共々その5年後に死んだが。

「お前、何を持ってる。」

父がそう言った。おそらく手の中の髪飾りを指していんだろう…俺はソレを父親に差し出した。暫く父親が意識を失う…俺と同じ様になったんだろう。その後意識を取り戻した父が俺に聞く。

「…コレは」

「呼び出された奴が、持ってた。」

父が黒い液体を触っていると、突然魔素が一箇所に固まり鋭くなった。

「ハハ…見立て通りだ。之は神の代物。当に魔法、コレさえあれば何でも出来るだろう。神を信じた結果神の力で裁きを受ける…。復讐してやる、こんな悪しき風習を、神を。」


 彼は、妻が死んでから初めて生きる力を取り戻した。その黒い液体を纏う髪留めが大きな力を持っている…彼は昼夜問わず寝食も忘れて髪留めに祈った。村の人間は「信心深くて良い事だ」と言っていたが、まさか自分たちを殺す道具を作っていたとは思わなかったのだろう。


 翌年の儀式、儀式が大きく変わった。儀式から、誰一人として帰ってこなかったのだ。シスターが高揚した様子で言った。

「皆、死んでしまいました♡此処にいる皆様で死体の片付けを、お願いします。」

片付けをしてきた兄は、何も言わずに髪留めを自分に付けた。


 次の儀式、4名程が帰ってきたがその中に兄はいなかった。忘れ形見として2番目の兄がハンカチに包まれた髪飾りを受け取った。


 その次の儀式、兄は帰ってきたが2日後に髪留めを残して首を吊った。


 その更に次の儀式、は本来なら俺の番だった。髪留めを持った時、その冷たさがやけに肌を刺して、死の恐怖が肩を叩いて、父親に見られているような気がして、俺は弟を残して逃げていった。髪留めをも捨てられる勇気があれば、俺は英雄だったのかもしれない。

 村を出て、とにかく走った。走って逃げれば、人生どうにかなると思っていた。父親も、儀式も、何もかも忘れられると思っていた。やがて疲れて林の中で倒れていた時、彼女に会った。細い真っ直ぐな髪、血のような紅い目。俺を見て死体とでも思ったのだろうか、近付いて上から覗きこんできた。

♢「お前が、パラストか…いい度胸だな。」

恐らく彼女は俺を探しに来たのだろう…。俺が必死に逃げ回ったのにあっという間に見つけやがって。

☆「…アァ。俺を差し出す気か?ハッそしたらお前の目の前で舌噛みちぎってやるよ。」

♢「…イヤ、私も逃げようと思っていた所だ。ただ1つ伝えておこう。お前が逃げた事で次儀式に行くのは、お前の弟だ。」

☆「…そうか」

淡々とした口調で言ってくるので俺はそう言うしかできなかった。

♢「…あとついでに。お前はきっと此処から逃げられない。私も、だがな。」

☆「ア?何故そう言い切れる」

♢「私達は何処へも行けないからだ。考えても見ろ…何故アシンバの一家は此処へ来た?何故おかしな儀式を知り逃げない?…この世界は、異常なんだ。」

そう言われ、気付く。此処に、一切の動物がいない事に。物音すらせずただ木があるばかり。村から逃げる事も出来なければ村でなければ生きる事も出来ない。


 結局、人生最初の家出は3、4日で終わった。村の人間達は俺等を責めた。弟は死んだらしい。夜中の内に墓を荒らして髪飾りを取った。俺は、何をしたかったんだろう。


 死に場所を失った俺は、それから狂ったように働き始めた。働いて、煙草を吸って、また働いて。過労で死にたかったのかもしれない。自殺が怖くて自然死を望んで、カミサマに愛されてんのか嫌われてんのか、苦しむことも無く俺の身体は健康でい続けた。


 てるてるの存在は、シスターのみ認識していた。シスターが書いたのか兄弟達が書いたのかは分からないが、村に唯一ある神の本以外がしまわれる本棚の中にてるてるの事が書かれた冊子のようなものがあった。俺達…と言ってももう俺一人だけだが、村の大部分の人間はてるてるの件で疑われることは無く、何ならてるてるさえ分かっていないようだった。


 そして、俺が27になる時、漸く儀式が始まった。てるてるは、人狼が誰か分かる。可哀想に、齢たった15のボヌール一人だけが狼だった。ボヌールの動きを見てみれば、昼にルデンテが小屋に訪れ22時に漸く出てきて誰かを殺すような目になっており驚いた。その後23時、小屋を出て林に潜り、あの黒い液体を体表を包み狼の姿に変えた。ミュオという少女の小屋に行ったのは、若い子供に苦しまずに死んでほしいからという優しさか、それとも交流が少なく情もわかない相手を犠牲にしようと思ったからか…


 二日目の朝、ルデンテが占い師だと名乗る。しかし驚いたのは、彼女がピエロを人狼だと言った事だった。彼女は紛れもない市民…やっている事はあまりにも不合理極まりない。ともすれば考えられるのは彼女が人狼を庇おうとしているという事。

 村の奴らは浅はかで馬鹿で、弱かった。長い間過ごしてきたルデンテと余所者を天秤にかけ愚かな選択を取った。少女の決死の発言を圧によって閉ざし、まだ他の可能性も残っていると分かっているはずなのに目を閉じる。圧をかけなかったのはルデンテとアシンバくらい…。おかしな状況だな、と思った。



 二日目の夜、彼女と話すために家に行った。

 ノックをする。出ない、もう一度。暫くして見慣れた長い銀髪が開いた扉から覗く。

♢「こんな夜遅くに…死んでも知らんぞ。」

☆「…ルデンテ」

♢「私が人狼じゃないとも限らない。帰ったらどうだ」

☆「お前は、人狼じゃあねェよ。」

♢「…何故…そう言いきれる。」

☆「俺は人狼が誰かを知っている。俺はてるてるだ。…てるてるは、最初から人狼が誰かが分かる。」

♢「!あの紙を読んで、存在は知っていたが…」

やはり彼女は、全員が死ぬ儀式に対し疑問を持ち冊子を読んでいた。

☆「安心しろよ、俺が言ったところで誰も信じちゃァくれないし俺には俺の思惑がある。お前の家に来たのは…まァ唯一の安心できる所、だったからだ。お前に俺は殺せないからな。」

♢「てるてる…まさかこの目に見るとは思いもしなかった。」

☆「ハッ…お互い変な所で運がいい。」

♢「そうだな…随分カミサマとやらは悪戯で、自ら蟻を潰して笑うような奴だと思う。」


暫く無言の時が続いた後、彼女が口をひらいた。

♢「せめて、吐き出す所が欲しいと、そう思っていたんだ…聞かなくてもいい、聞き流してくれ。

 最初の日の夕方、私はアシンバが心配になり、彼の小屋まで行ったんだ。彼が小屋でどうなっていたと思うか?見るも無残な姿だったよ、人狼だったからか、そもそも心が耐え切れなかったのかは分からない。けど確かに、あの子は食べ物を受け付けなかったんだ。そんなんで生きられるかという話だろう?しかし、事実生き延びている。人狼の…いやカミサマとやらの力かもしれないな。ハハッ馬鹿馬鹿しい…」

 彼女は、市民でありながら人狼側に立ち人狼を守る為ならば嘘すら平然とつく。他人からはまるで理解もされない狂人。

♢「…語りすぎた…。今夜はもう遅い。帰ったらどうだ。月がお前を攫ってしまう。」

下手な冗談を、更に下手くそな笑顔でそう言われ、胸が締め付けられる感覚に陥ったのは偶然か。

 ともかく、目的を果たした俺はその場は帰路に着くことにした。帰り道、少女とタンドルが会話しているのをアシンバが盗み聞きする場面をみなかったことにして。



 三日目の朝、タンドルが死んで話し合いが始まる。さしずめタンドルがミュオに霊媒師と名乗った場面を聞かれ標的になった…という所だろう。

 俺は騎士を名乗った。一旦は誰がてるてるを知っているか分からないので、怪しすぎずに自分の存在を出せる役職持ちを演じた。一日目、ミュオは誰が自分を守ったか分からないと言ったのを利用する。ミュオがやけに反応したのを見て嘘だとバレたのを感じたが、まァどっちに転んでも美味しくはなる。

 二日目にルデンテと言ったのは、証人がいる可能性を考えたのか、それともただ彼女に死んで欲しくないだけか…俺にも分からなかった。

 ラグラスに疑いがかかったまま、話し合いは終わった。



 三日目の夜、また俺は彼女の小屋を訪れていた。彼女は随分疲れた様子で、カーペットの上に倒れ込んでいた。俺が来たのを横目で確認した後静かに呟く。

♢「…私はもう、何も、考えたくない。自分の罪も弱さも悩みも全部捨てて逃げたいのに、鳥籠に残されたまま…私達はカミサマなんてものの娯楽に過ぎないという現実が、いつまでも胸を刺す。何も考えたくない。もう何も、考えたくはないんだ…」


 その話を聞いて、脈拍が速くなるのを感じた。

 今思えばおかしい事は沢山ある。珍しく自分の事を話してみようと思った。柄にもなく誰かの元へ寄りかかってみようかと思った。初めて、誰かと一緒に死んでみたいと思った。

 …心中なんてクソ食らえとまで思っていたはずだったのに。


 その一言を発したのは、気まぐれか、それとも。

「それじゃあ…マトモに考えられないように、現実から目を背けてベッドへと洒落込んでみるか?」

「…嬉しい誘い、だな。お前、こんな醜女にも欲情するのか。」

「ハッいい夢見せてやるぜDiana?」


 高い声でわざとらしく鳴くわけでもなく、善がる事もない。しかし、それが丁度良かった。この死が横に迫り父親の復讐心が頭の中を支配し続ける中、コイツのちょっとした息遣いが、長い髪から覗く眼差しが、ただただ心地よかった。


 そして、その日まだ狂人になりきれないアイツと未練たっぷりの復讐者に取り憑かれた俺は小屋の中、2人で語り、一時的な夢に溺れ、少しだけ一緒に眠った。

 

 笑いはなかった、だが救いにはなった…お互いにとって。


「俺の話を、聞いてくれるか。」

「…今更聞かない理由もないだろう。」

「俺の父親は、」

「お前の手に掛けられた方が、いっそ吊られるよりも幸せかもしれないと思う感情は、なんて名前を付ければいいんだろうな。」

「それ以上は、言ってくれるな。私達には、月が見えているくらいが丁度いい。綺麗なんて感情を、吐き出す為にこの関係になったわけじゃないんだ。お願いだ…やめて、くれ。」

そんな苦しそうな顔をしないでくれ。


「お前は、ひどく…酷く、優しいんだな。いっそ残酷なくらいに。」



 愛だなんて言える程深くは繋がっていない。恋だなんて言える程盲目的ではない。しかし、だけれど…場所が違ったら、運命が違ったら、…2人で、何処かで暮らしたのだろうか。そんな事を思わずには居られなかった。


 …目の前には彼女の細く白い首。気付いたら、牙を剥き出していた。…一瞬彼女がした恥じらう様な、喜ぶような顔を、俺は忘れることが出来ない。



 四日目の朝、死んだのはボヌールだった。ラグラスはカリナを殺そうとした事から疑われ、自身のタンドルへの恋情を語りカリナへの嫉妬を露わにした。

 馬鹿だな、と思う。タンドルがラグラスを好きなのは誰の目からも明らかだったのに。カリナへの劣等感が彼女を盲目的にさせた。結局人狼じゃないと名乗る事もせず彼女は自ら死んでいった。この先、生にしがみつくよりさっさと死んだほうが余程楽で幸せだと悟ったんだろう。賢明な判断だったと思う。しかし不思議なのはカリナだ。ラグラスは人狼ではない、のに何故嘘をつく?カリナは占い師の筈だ、じゃあ何故…


 その後、牢システムが導入され、指を刺されたのはルデンテ。彼女の出したラグラスが人狼ではないという事は事実であった、が結果的に彼女の首を絞めた。彼女は痕を隠すために着けたチョーカーを少し撫で、素直に牢に入った。


 その後気持ち悪いくらいにカリナが着いてきた。おい、と振り払おうとしてきた時、アイツは本性を露わにした。

♡「ねェ、パラストは人狼の仲間何でしょ。占いの結果は白なのにルデンテの小屋行くんだもん。」

☆「お前…じゃあ何故ソレを主張しない、何故俺を突き出さない」

♡「簡単だよぉ♡パラストが、だぁいすきだから。他の女はいらない。ラグラスがタンドルの事好きなのは知ってたけどいつパラストに行くか分かんないしぃ、だからラグラス殺したの♡死を選んだのは彼女自身だけどね〜。とにかく!私は他の女皆殺してパラストと2人で生きていこうと思ったの♡なのにルデンテになんか行くし…。ルデンテが占い師じゃない事くらい分かるよ〜、占い結果嘘ついたのはラグラス殺すのもあるけど嘘付いて、あの気色悪い女と同じ条件になれば振り向いてくれるかな、と思って♡」

笑顔で語る眼の前のコイツが心底気持ち悪い…

♡「シスターに頼んだんだぁ、ラグラスのお盆にこの紙載っけてねって!シスターって儀式が楽しくなるような事は大体引き受けてくれるの!狂ってるよね♡紙になんて書いてあったと思う?‘タンドルは昨日カリナの小屋に行っていました’って書いたの、もうそんなの信じちゃって〜」

縋り付いて、服に顔を埋めて頬ずりをしてくるこの女が得体のしれない化け物にしか見えなくなって、俺は気付いたら林の中にいた。帰ればきっとアイツが小屋で待ち伏せしているのだろう。今夜は、もう帰るつもりはなかった。



 5日目の朝、小屋の前に誰もいないのを確認して小屋に入る。罠は仕掛けられていなかった。

 話し合いが始まり、誰も夜のうちに死ななかったのを見るとアシンバは襲わない選択を取ったのだろう。ルデンテに言われたのだと思う、そうすれば彼女に罪を着せる事ができるから。


 彼女の死に際、彼女はあくまで冷静で、でもまだこの世に未練がありそうで…その未練は俺の事だと期待してもいいのだろうか。…もう手遅れだが。


 その後カリナがアシンバを牢に入れようと必死になっているのを見るにコイツは彼が人狼であるのを知っているのだろう。…恐らく、アシンバを放っておいた場合、一番に死ぬのは自分だと分かっている。狡賢い女だった。



 だから6日目の朝には何も起こらない、そう信じていたのに…

✝「嗚呼、何という事でしょう今日は二人、消えていました」

信じられない。その後も死体は見つかったが誰が殺したのか不明瞭で、狼の状態ではない殺人はシスターが許さない。推測も出来ず、ただこの際カリナに罪を着せて消えてもらおうと思った。正直死に際も胸糞が悪く、「タイプじゃない」は最大限の配慮なのだと知って欲しい。



 これで騎士もいないこの村は市民の全滅で終わる。吊られる気はもうなかった。彼女の望み通り人狼は生き残る。コレが幸せかは分からないし心地いいわけでもないがこの世への未練はない、気がした。




 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 6日目の午前4時。シスターはゆっくり牢獄のある囚人の元へ食べ物を運んでいた。シスターの足音を聞き、狂人…ルデンテは目を覚ます。そして彼女はシスターに質問をした。

「シスターは、命の数が分かるのだろう。」

「ええ。」

「シスター、命の換算はどの状態からだ?」

「個人差ありますが…カミサマがいると認識したら換算されます。」

「相変わらずだな。今、私の身体にいくつ見える。」

「2人、ですね♪ご懐妊おめでとうございます。」


 不思議と、まるで分かっていたかの様にルデンテはソレに驚く様子はなかった。ただ、淡々と言い放った。

「公表はするな。少なくとも、お前にその義務はない。」

「はい!了解しました。皆様の希望を聞くのも、シスターの仕事ですから♪」

高揚した笑顔で、シスターはゆっくり錠を外す。



 その日の午前11時47分56秒、彼女はパラストに見つめられながら死んだ。そして翌日、2つの命が消えたことがシスターの口から知らされた。





 カスミソウ:花言葉は「幸福」「清らかな心」「切なる願い」等。英名は、Baby's breath。


 …生きていたら神に愛され、愛情を惜しみなくかけられる幸せな子に、なっていたのだろうか。

カミサマはきっと故意。

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