表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

第9話 仕組まれた「偶然」だった

 アリアとレオンが光の柱を見ていた時、皇帝もそれを見ていた。


「東の方角……嫌な予感がする」

「皇帝陛下?」


 側近が皇帝のただならぬ様子を感じ取った。

 皇帝は目を閉じて思案した後、重い口を開く。


「光の柱、泉の聖女のいる修道院の場所か。悪いことがおこらなければいいが……」

「皇帝陛下! ご無事ですか!?」


 謁見の間に現れたのは、なんと森にいたアリアとレオンだった。


「二人とも……それにお主、久しいなレーヴ」

「皇帝陛下、急務ゆえ二人を乗せて宮殿に立ち入ったこと、許してはもらえぬか」


 そう言って自分の背中に乗せた二人を降ろす。

 レオンが手を伸ばし、アリアが手を取って地面に降り立った。


「レーヴ様、助かりましたわ」

「ああ、礼を言う」


 アリアとレオンはそれぞれお礼を言うと、皇帝に今起こっている事態について話す。


「皇帝陛下、『雷帝』と『無の聖女』の秘密がわかりました」

「本当か!」

「そして、事態は最悪の方向へと向かっています。初代泉の聖女が私の『吸収する力』の起源。そして、それは『雷帝』によって封じ込められていた。そのせいで力が弱まり、時を超えて生まれ変わる中で力が別れてしまった。コリンナと私、もともとは同一人物を起源とした力を持っていた」

「同じ起源……そうか。だから、同じ家から生まれていた」

「そうです。そして、初代泉の聖女は村を焼かれた復讐に、『雷帝』が仕えていた国王、つまりこの土地の前支配者を殺しています。それを止めたのが、グルテリス皇帝です」


 宮殿に戻るまでにレーヴから聞いた話も加え、アリアは手短に調べた結果を話す。

 そして、そこまで話してレオンは気づく。


「ちょっと待て。封じた『吸収する力』を持ったアリアの誕生、泉の聖女の誕生、そして『雷帝』の生まれ変わり……揃いすぎてないか?」


 レオンの推察は正しかった。

 アリアもその考えに至っていたようで、大きく頷くと答え合わせをするように返答する。


「そう。『意図的に集められた』としか思えないのよ。皇帝陛下、東の空にあがった光の柱を見ましたか?」

「ああ、見た。あれはなんだ」


 アリアは一呼吸おき、皇帝へと告げる。


「あれは、レーヴ様の見立てでは、初代泉の聖女に宿っていた復讐の心。それが魔物化したものだと」

「魔物、だと……?」


 皇帝は嫌な予感の正体を知り、事態の大きさを実感する。


「そして、その復讐心の魔物が根城に選んだのは……」

「ふふ、わたしってこと!」


 アリアの発言に被せるように、聞き覚えのある高い声が響いた。

 浮遊して窓から侵入したその人物は、禍々しさを纏って笑みを見せている。


「ごきげんよう、お久しぶりですわ。皆様」


 アリアは息を飲んだ。

 今までその人物を見たことがあるのに、これまでの雰囲気とまるで違う。

 「あなたに殿下は合わないわ」と心の中で最後に声をかけた彼女が、目の前にいた。


「コリンナ……!」

「ふふ、あなたの妹でしょ? この子。少し体を貸してもらってる」


(コリンナの精神に干渉して、今話しているのは恐らく初代泉の聖女エリス。彼女の目的は何?)


 アリアは彼女の真意を探るため、コリンナに尋ねる。


「あなたの目的は何? 国王は殺したはずでしょ?」

「ええ、あの悪逆王は殺した。でもまだいるでしょ? 彼の右腕だった奴が」


 そう言ってコリンナはレオンをじろりと見た。

 目が合った瞬間、彼女に魂を鷲掴みにされそうなほど強い眼力をレオンは感じる。


「俺が狙いか……」

「そう。あなたを殺してこの国を滅ぼすの。そのために、少しずつ力を復活させてた。アリア、あなたは私と共にあるはずなの。そちらにいてはダメ。こちらに来なさい」


 そう言ってコリンナはアリアに手を差し出す。


(エリス……あなたには同情もする。あなたが怒っている理由も理解できる。でも……)


 ゆっくりと歩みを進める。

 一歩一歩、踏みしめるように、そして、アリアはエリスの前まで近づいた。


「コリンナ……いえ、エリス。あなたに協力はできない。私はこの国で生きたい。そして、『雷帝』である彼と共に生きたい」

「アリア……」


 レオンは彼女の名を呟いた。

 一方、アリアの言葉に不敵な笑みを浮かべたコリンナは、静かに口を開く。


「そう。では、死んで」


 コリンナの腕に握られていた短刀が、アリアに目がけて振り下ろされた。

 思わず手を掲げて目を閉じたアリアだったが、彼女に痛みはおとずれない。


 ゆっくりと目を開くと、短刀を受け止めていたのは、レオンだった。


「レオン!」


 その手には『雷帝』の大太刀が握られていた。


「忌まわしい、その刀を見るのも嫌っ! 死になさい!」


 レオンとコリンナが激しく刀を交わして戦う。


(レオンが圧されている……)


「その程度なの!? 『雷帝』の生まれ変わりなんでしょ!? 死ぬ気で来なさいよ!!」

「くそっ!」


 防戦一方のレオンと、有利に攻めているコリンナ。

 圧倒的な力の差でコリンナがレオンを圧している。


「レオンを援護しろ!」


 必死に皇帝も補佐するが、魔力や聖女の力を使った闘いで大きな援護力にはなれない。

 一斉攻撃にイライラしたコリンナは大きな声で叫ぶ。


「もういいわ、さっさと死んで!」


(レオンっ!!)


 不意打ちで体制が崩れた彼の心臓めがけて、コリンナは短刀で突き刺そうとする。


「レオン!!」


 アリアは急いで走る。

 しかし、彼女が到底彼らのもとへ間に合うはずもない。

 その時、短刀が刺さり、血が飛び散った。


「なんで……」


 レオンを守るようにコリンナの短刀を受け止め、盾になったのはエドウィンだった。


「エドウィン……」


 その瞬間、コリンナの意識が戻る。

 レオンを守ってはいるが、コリンナのことも守るように短刀が自らに刺さってもその場を離れない。

 手傷を負ったエドウィンは、震える唇で囁く。


「コリンナ、無事でよかった……」

「なんで……どうしてあなたがここに……」

「僕は雷獣だから。君がどこにいるかわかる。君の気配が変わったことも。君は僕のことを嫌いかもしれない。けど、僕は君が好きだから。触れられなくても、君が好きだった」

「エドウィン、殿下……」


 その瞬間、完全にコリンナの動きが止まった。

 そして、彼は倒れ際に振り返り、アリアとレオンに告げる。


「すまなかった、アリア、レオン……」


 それだけ残して彼は倒れた──。


「エドウィン!」


 レオンが彼を抱き上げて、目いっぱい抱きしめる。

 間違いを犯し、平民になった彼の償いの言葉はレオンの心にしっかりと響いた。


「医療班! 治療を頼む!」


(エドウィン殿下……そこまでコリンナを想っていらしたのね。私は、なら、私は何をするべき?)


 医療班がエドウィンを後方へ運んだ時、コリンナは急に苦しみだした。


「うっ! この小娘、やめろ! 私の意思に逆らうな!」


(コリンナが苦しんでる? いえ、違う。あれは、エリス。彼女が苦しんでいるんだわ!)


 エドウィンの助けによって、コリンナの心が大きく揺さぶられた。

 そのことでコリンナとエリスの心が離れようとしていたのだ。


(今しかない。私が、私にできることはただ一つ……)


 アリアが口を開こうとした瞬間、レオンの言葉が耳に届く。


「アリア! お前の力を貸してほしい!」

「レオン……」


(そうよ。私にもできることはある。最悪な妹だけど、あなたも今きっと闘っているのでしょう? だから、魔物は苦しんでる。動けなくなってる。なら、姉として、あなたを救う! この悪しきしがらみを断ち切る!)


 アリアは手のひらに力を込める。


(目を閉じて、集中して……)


「アリア、合図したら頼んだ!」

「わかった!」


 レオンは暴走を始めて短刀を振り回すコリンナの攻撃を受け止める。

 大太刀を盾として使い、そして一瞬現れた隙を見て一気に大太刀を押し込む。


「アリア! 今だ!」

「はい!」


 アリアはレオンの横をすり抜け、コリンナに向かっていく。


「コリンナ! あなたを救う! 復讐の心よ、彼女の力と共に、私に入って!」


 アリアの叫びはコリンナに届く。

 姉妹の抱擁の中で力の譲渡がおこなわれていった。


「おねえ、さま……」


 コリンナは意識を失い、そのままアリアの腕の中で倒れた。

 力は完全にアリアの中へと吸収される。


(エリス、あなたは私の中で眠りなさい。一生、目覚めぬように私が監視してあげる……)


 吸収した衝撃でアリアの体はふらりと倒れる。

 その瞬間、レオンが彼女を抱き留めた。


「レオン……」

「たくっ……無茶しやがって……」


 コリンナからエリスの復讐心が解き放たれたことにより、戦いは終結した。

このあとすぐに最終話をあげます!

お待ちいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ