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第8話 森の主様が見た過去

 森の主は大きな木の根元に伏せて、アリアとレオンを見つめている。

 人間よりも二回りほど大きい彼は、その体を起こして立ち上がった。


「なんだ、一人ではないのか」


 彼のわざとらしいがっかり声に、アリアはくすりと笑った。


「ふふ、今日は残念ながら一人ではありませんの。護衛と一緒ですわ。ポンコツの」

「誰がポンコツだ!」


 彼女の冗談にレオンが噛みつく。

 そんな二人のやり取りを見て、彼は口角をあげた。


「ポンコツとはな。なるほど、アリアはそういう男が好みであったか」

「あら、いやですわ。誰がこんなポンコツと恋仲になるものですか。私はレーヴ様のほうがお好きですわ」

「ふん、そなたみたいな気の強い女は私の好みではないわ」


 レーヴと呼ばれた狼は、アリアのもとへ向かい頬に自身の体を摺り寄せた。

 それは彼が森の主として歓迎し、挨拶をしたということ。

 しかし、アリアの横にいたレオンの前に立つと、じっと瞳を見つめて動かない。


「森の主様、俺にはしてくれないのかよ」

「おや、モフモフがお好きだったのかな?」

「そういうことじゃねえ! まあ、触りたいけど……」


(うわ、レオン、小さな声で本音出てる。意外と可愛いじゃない)


 レオンは動物好きであるが、なぜか動物に嫌われることが多い。

 自分の何かが彼らを怖がらせているのだろうと思い、彼はいつからか遠くから見つめるようにする癖がついた。


(昔、皇妃様が可愛がっていたうさぎにも懐かれてなかったわね。きっと動物好きなのに好かれないタイプなのね)


 彼女は心の内で「可哀そうに」と思ってしまった。


 そうして二人が会話をしていると、レーヴは口を開く。


「で、今日はそなたの『無の聖女』の力のことを聞きに来たのだろう?」

「バレてしまっておりましたか」

「私を尋ねる理由はそれしかあるまい。無の聖女の力、『力を吸収する力』について知りたいか?」

「では、やはりレーヴ様はご存じなのですね?」

「ああ、全てを話そう。『無の聖女』について、そして『泉の聖女』の秘密を」


 レーヴはその場に座り、昔を懐かしむように語り始めた。


「あれは数百年前の頃だ。初代『泉の聖女』エリスは、孤児だった。彼女が十二歳の時、怪我をした足を泉につけたところ、傷がたちまちよくなった。彼女は驚いた。自分の力で人を救えるかもしれないと考えた彼女は、泉のほとりで診療所を開いて、村の皆の治療を始めた」


(診療所を……じゃあ、その泉って)


「その泉が今の『聖域の泉』だ。村の皆は聖女様だと彼女を崇め、信仰した。しかし、悲劇は突然起こった。当時の国王が彼女の力を利用して金儲けをしようと企んだ。彼女は拒んだ。必死に……。そんな彼女の態度に怒りを覚えた国王は、腹いせとして村を焼き尽くしてしまった」

「な……なんてひどい……」


 あまりの惨さにアリアは眩暈がした。


「大丈夫か?」

「ええ、平気」


 彼女の辛く苦しそうな様子を見たレオンが、そっと彼女を気遣う。

 レーヴ自身も国王の起こした事へ怒りを覚えているようだった。

 一度目を閉じて心を静めると、彼は再び語り出す。


「エリスは焼け落ちた村を見て、願った。自分にこんな力がなければよかった、と。国王への憎悪と自分自身への嫌悪に包まれた彼女が最後に願ったのは、悲しくも国王への復讐だった。だから、彼女は力を欲した。その思いから生まれた力が『吸収する力』だ」

「そんな……では、彼女の復讐の想いから生まれたっていうのですか?」


 レーヴは頷いた。


「彼女は自然のあらゆる力を吸収し、国王を殺してしまった。しかし、彼女の力は暴走して止まらなくなっていた。そんな時、彼女を救ったのが、国王の右腕であったグルテリスだ」


(グルテリスって、まさか……!)


 アリアと同じようにレオンもその名に反応を示した。

 そうだ。この国で生きていて知らないはすがない。

 この国を創った初代皇帝の名であるのだから。


「グルテリスは彼女の暴走した強大な力を封印した。こうして、泉の聖女は吸収する力を一時的に失い、そのまま生涯を終えた」


 レーヴから語られたものは、アリアにとって、そしてレオンにとってもにわかには信じがたいものだった。


(じゃあ、吸収する力は、泉の聖女が暴走して得た力……)


 困惑するアリアの横で、レオンが尋ねる。


「『雷帝』はなぜ泉の聖女の力を封印できた?」


 レーヴはそう尋ねたレオンの瞳をじっと見つめた。


「そうか。そなたが『雷帝』の血を引く者……いや、それ以上に濃いな。まるで生まれ変わりのようだ。質問に答えよう。彼は魔族の血を引いていた。そうか、アリアと『雷帝』の生まれ変わり……」


 レーヴは何かに気づき、アリアに尋ねる。


「アリア、そなたは『泉の聖女』ではなかったのか?」

「いえ、『泉の聖女』は私の妹コリンナです。私はなぜか力を吸収することができるだけで……」


 レーヴはそれを聞いて合点がいったようで、体を震わせて笑う。


「なるほどな。力の離別、そしてこのタイミンでの『雷帝』の再来。アリア、急いで宮殿へ戻れ」

「え……?」

「もうすぐ目覚めるかもしれない。「やつ」が」


 その瞬間、東の空に紫色の光の柱が現れた。


「なにあれ!」

「やつが、目覚めた……」


 事態は大きく動こうとしていた──。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

なんだか、作者も驚くほどに急展開で動き始めてしまいました。


展開が早くてすみません!!!


※追記

誤字脱字ご報告ありがとうございます!

助かります!!!

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