第4話 私の知っている真実と裁き
一週間後、教会にて第一皇子エドウィンと新しい婚約者コリンナの婚約の儀がおこなわれていた。
「これより、わが国第一皇子であらせられる、エドウィン・キシュタルト様とそのご婚約者となるコリンナ・イステル様の婚約の儀をとりおこないます」
教会の壇上には、今日という日を楽しみにしていたエドウィンとコリンナが並んでいる。
「懐かしいわね。婚約の儀」
レオンの隣でアリアはそう呟く。
「あのなあ、もっと悲しそうな……」
「悲しくないわ」
「え?」
「だって、あなたがいるもの。あなたが味方でいてくれる。そうでしょ?」
その言葉を聞いてレオンは照れ臭そうに頭をかく。
「まあな……」
そんな彼の様子を横目で見て、アリアはくすりと笑った。
儀式は滞りなく進行していき、いよいよ最後の局面を迎えようとしていた。
(殿下が本当に皇帝陛下のいう通り、「そう」なのだとしたら、この後の儀式は──)
アリアはじっとその時を待った。
「では、婚約の儀の証として、殿下からコリンナ様に指輪を──」
神父がそう口にした時、エドウィンとコリンナは目を合わせて嬉しそうにしていた。
コリンナのか細い指にエドウィンが触れた時、大きな音が教会に響き渡る。
「いたっ!!」
思わず手を引っ込めて自分の手をさするコリンナは、顔をひどく歪めた。
一方、エドウィンは何が起こったかわからず、困惑の表情を浮かべている。
すると、エドウィンとコリンナの仲を裂くように二人の間に雷が走った。
皆、あまりの衝撃に目を閉じ、耳を塞ぐ。
「まさか、殿下は……」
神父は今やっと気づいた。
エドウィンの中に眠る「ある存在に」──。
一同動けず、何が起こったのかわからないままでいたその時、レオンがゆっくりと檀上に向かっていく。
そして、彼は神父に尋ねる。
「エドウィン殿下は、『雷帝』の眷属であった雷獣ジークスの生まれ変わりではないか、神父殿」
レオンの言葉に神父は、黙って頷いた。
神父は重い口を開いて、その場にいた皆に説明する。
「我が国は雷の如き速さと強さを誇ったグルテリス皇帝によって、建国されました。そして、彼のことを諸外国は『雷帝』と呼び、恐れおののきました。そんな皇帝の眷属に、雷獣ジークスという獣がいました。その獣は眷属の証として胸元に「V」の紋章がある。私は先程一瞬、見えてしまったのです。エドウィン殿下、あなた様の胸にその紋章があるのを……」
「まさか、私が『雷帝』の眷属の生まれ変わりだと……?」
エドウィンは自身の秘密を知って、驚いている。
そのことを知ったコリンナは、嬉しそうに両手を合わせて喜ぶ。
「まあ! さすが殿下! 『雷帝』の眷属の生まれ変わりなんて……! そんな強く気高い方の妃に私は……」
「なれないわよ」
そう言ってアリアも壇上へと近づいていく。
「アリアお姉様……どうしてここに」
「レオンに付き添わせてもらったのよ。どう? 婚約の儀を終えた感想は」
厳密にいえば指輪の交換が終わったことで、婚約の儀は終了となる。
つまりエドウィンのコリンナの婚約の儀は終わっていない。
予想外のことが起こっていたとしても、コリンナはまだエドウィンの婚約者になることを諦めてはいなかった。
「私がエドウィン殿下の婚約者になるのは揺るぎないわ! お姉様、どう? 悔しい? 『なれないわよ』なんて強気で言っちゃって。今更エドウィン殿下を返してほしいなんて言っても遅い……」
「結構よ」
「え……」
妹コリンナの挑発的な言動をアリアはきっぱりと跳ね返した。
「殿下に未練もないの。ごめんなさい。でも、あなたもエドウィン殿下の婚約者になれないわ」
「だから、どうしてなのよ!!」
苛立ち始めたのか、コリンナは語気を強めた。
その様子を見て少し寂しそうに、それでも姉として凛とした態度で言い放つ。
「あなたは『泉の聖女』であり、水の加護を受ける者。雷獣の生まれ変わりである殿下にこれ以上近づけば、命の保証はないでしょう」
「なっ……」
コリンナが信じられないという様子で目を泳がせている。
そして、コリンナの怒りの矛先はエドウィンへと向かった。
「殿下、話が違うではありませんか! あなたの婚約者になれれば、皇妃にしてくださると……」
「コリンナ、その知らなかったんだ。僕は、僕がまさか雷獣の生まれ変わりなんて。じゃあ、僕は一生コリンナには触れられないのか……?」
その事実に気づいた時、エドウィンはあることに考えが至る。
「アリア、お前はこのことを知っていたのか……?」
「ええ、皇帝陛下から伺っておりました。雷獣の生まれ変わりである可能性が高いこと、そして眷属の寿命は短く、そしてエドウィン殿下の力は暴走しかかっていると」
「そんな……」
アリアから告げられた真実に、エドウィンは言葉を失う。
そんな彼に今度はレオンが口を開いた。
「雷獣は最期、力を制御できずに死んだとされる。大きすぎる力を抑えるため、皇帝陛下は『無の聖女』であるアリアを婚約者として立てて傍にいさせた。あなたの力を吸収してあなたの命を救うために」
聖女の力が発現しないということは、器だけあり中身がないということ。
溢れ出る雷獣としての力を自分の中に吸収していたのだ。
(殿下、もう戻れないのです。もうあなたのために、自分をすり減らすことは嫌なんです……)
悲し気に目を伏せた彼女の代わりに、レオンが今度は口を開く。
「殿下、あなたとコリンナ殿は結ばれない。それに、あなたはコリンナ殿にそそのかされて国庫金にも手をつけていた。皇帝陛下はこれを知ってお怒りです」
「なっ! なぜ知って……」
「知っておるぞ。エドウィン」
自分の悪事がバレた彼に声をかけたのは、たった今隣国との会談より帰国した皇帝陛下であった。
皇帝陛下の登場に、皆恭しく頭を下げている。
「わしのいぬ間に国庫金に手をつけ、勝手にアリア嬢との婚約を破棄した。自分の身を滅ぼしたのは、誰のせいでもない。お前の身勝手な欲望のせいだ」
「父上! しかし……」
「言い訳はいい! 本日をもってエドウィンから皇位継承権を剥奪し、平民として暮らすことを命ずる。そして、皇位継承権第一位の座には、新しく第二皇子レオン・キシュタルトがつくこととする」
「そんな……」
地位を失ったエドウィン、そして婚約者になれずに皇妃という未来を叶えることができなかったコリンナは、それぞれその場に力なく崩れ落ちた。
エドウィンもコリンナも平民として過ごすこととなり、二人が触れ合うことはできない。
(言ったでしょう、「あなたに殿下は合わないわ」と……)
第4話も読んでくださり、ありがとうございます!
こちらで短編のお話と同じところまで終了となります。
ここからはアリアとレオンの恋模様、無の聖女や雷帝の伝承の秘密などを中心にお話は進みます。
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あと、リアクションすごく嬉しいです!ありがとうございます!!(何回目……)