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第8話 その@authorって本当に必要?

「というわけでガイダンスは以上。質問あるか?」


 ティオ先生の大学の説明をざっくりまとめるとこうだ。


 まず、この大学はクラスごとに入れるエリアが決まっている。例えば魔術演習室は大学内に三箇所あるが、シルバー以下のクラスはそのうちの1つしか使えない。ゴールド以上は、それより広い演習室を使える。更にアダマンタイトは専用の演習室が使えるという仕組みだ。


 クラスは年に4回ある試験の成績で決まる。最初のクラス分けは完全に才能で決められるが、次以降は実力でのし上がることも出来るということ。生徒の競争心を煽るような仕組みだが、確かにモチベーションにはなる。


 因みにクラスは学年混合。つまりアダマンタイトには1年から4年までの全ての学年のアダマンタイト学生が入っているということだ。そして試験も同様。つまり……逆に言うならば、俺達1年は上級生と同じ試験の成績で勝負して結果を残さなければ今のクラスにいられないということ。厳しいぜ。


「……アンオブタニウムもクラス替えはあるのか?」


 ずっと机に突っ伏していたルカが、ふと顔を持ち上げて声を上げる。起きていたのか。


「良い質問だ。このクラスは特殊でな、原則として他のクラスへの変更は出来ない、ただし……試験の成績次第でアンオブタニウムクラスの序列が変更されるようになっている」


「つまり、今はゴールド相当だが……努力次第ではアダマンタイトと同様の地位まで上がれるってことか?」


「そういうこと、ただし考査はクラス単位だ、このクラス全員の成績の平均がアダマンタイト相当だと判断されれば……いけるな」


「……逆に、アイアン相当まで落ちる可能性も?」


「お前ら次第ではあるかもな」


 うへぇ、と怠そうな顔をして、ルカは再び机に突っ伏す。なるほど、他のクラスにとって試験は個人戦だが、このクラスだけはチーム戦なのか。

 改めて、クラスメイト二人の顔をちらりと見てみる。ルカはまぁいつも通りだが……シアの方は中々渋そうな顔をしていらっしゃる。そりゃそうだろう、シア1人ならアダマンタイトレベルの成績を出せるだろうが……確実に俺とルカは足を引っ張る……それに……


「質問よ、ティオ先生」


「おう、なんだ夏」


「さっき先生は『"今日いる面子は"揃ってる』と言ってたわよね、他のクラスメイトはどうしたの?」


 確かに、そんなことを言っていた気もする。それに、この教室には席が7つある。空席が4つあるということは、他に4人は生徒がいるということ……な気がするが。


「2年が2人、3年が1人、4年が1人いる。1年はお前ら3人だけだな。んでまぁそいつらは仕事とか体調不良とか無断欠席とか不登校とかそんな感じで今日はいない」


「ろくでもないクラスね……」


「当然、そいつらの成績もうちのクラスの考査に反映される、だからまぁ仲良くしろよ」


 不安しかないカミングアウトだった。だが、逆に言えばアンオブタニウム教室が今"ゴールド相当"に扱われているのは先輩のお陰でもある。無断欠席と不登校の2人はともかく……他の2人はすごく優秀な魔術師なのかもしれない。


「じゃあ今日は以上、授業もないから自由解散でいいぞ、あと大学内で迷子になったら学生証使えば部屋に戻れるので活用するように」


「そうそう、この学生証も尊教授の発明なのよ! 事前にマーキングした座標と術者の空間を交換する魔術なのだけど、これが非常に繊細な魔術で――」


 嬉しそうな声色で話し始める。またシアのエンジンが入ってしまった。さっきもそうだったが、もしかするとソン教授のファンなのだろうか……


「じゃあ、おやすみ」


 シアの話など1ミリも聞いていないという顔で、ルカが眠そうに欠伸をしながら、片手をひらひらと振りながら教室を出ていく。あ、ということは……


「ねぇ! 聞いてる???」


「あ、聞いてる聞いてる……」


 気づいたらティオ先生もいない。つまりシアの相手をするのは俺の仕事か……まぁ別に嫌なわけではないのだけど……


「ところでさ」


 話半分で聞いていた俺だったが、やけに落ち着いた声が聞こえてふと我に返る。シアの視線は、俺ではなく俺の手にある魔導書に向けられていた。


「その魔導書……何処のやつ? 見たことないんだけど……」


「え、あ……これは人から貰ったものなんだけど」


「……著者は?」


 促されるまま、魔導書の一番後ろのページを確認する。出版社のようなものは書かれておらず、代わりに手書きでサインのようなものが残されていた。その文字列は……


「Sapphi……だな」


「サフィ? 聞いたことないわね……」


「魔導書って著者が大事なの?」


「そりゃねぇ、魔導書を書いてるのは大抵著名な魔術師。何なら全員魔法使いクラス。で……その複製が量産されて使われてる。現代におけるメジャーな魔導書と言えば『音の魔法使い』が書いた『アルス・ノヴァ』とか……『色の魔法使い』が書いた『サンフラワー』とか」


「シア……じゃなくて、パイシアさんが使ってるのは?」


 シアの魔導書も、見たことのないタイプの魔導書だ。多種多様な宝石が埋め込まれ、複雑な魔法陣が背表紙に至るまで敷き詰められている。正直……すごく重そう。


「私のはもちろん『空の魔法使い』が書いた『シュタイン』って魔導書よ、魔導書の中身は基本的に著者の得意な魔術に偏る傾向があるけれど、このシュタインは全ての基本属性を網羅している上に、それらの属性魔術を増幅させる魔石も埋め込まれているの」


「へぇー……凄いんだな」


 どうやら無意味な装飾ではなかったようだ。魔導書は基本的に高級品と聞いているし、多分元の世界のスマートフォンやPCのような感じで、高級品かつ値段もピンキリなのだろう。俺のは……どうなんだろう、超無名なメーカーが出してるアンティークPCみたいな感じなのだろうか。


「あなたの魔導書も別に悪くはないと思うわよ、著者は無名かもしれないけれど、作りは丁寧だし、魔導紙も品質が高くて薄いものを使っている、量産できないタイプの魔導書ね。もしかしたら一品物かもしれない」


「これは、大切な人から貰ったんだ」


「そう、なら大切にしなさいね」


 著者が誰かとか、高級品だとか、安物だとか、そんなのは俺にとってどうだっていい。これがどんなモノだろうと、師匠から貰った大切なモノであることに違いはない。

 そんな俺の目を見て、シアは満足そうに頷くと、ポケットから学生証を取り出す。


「じゃあ、私はこの辺で」


「あぁ、お疲れ様。シアさん」


「ちょっと、フルネームで呼びなさいよ」


「……パイシアさん」


「よろしい」


 相変わらず謎のこだわりだ。名字が好きなのだろうか。灰? 好きな色? 分からない……


「また明日」


「えぇ、また明日」


 なんともぎこちない挨拶を交わして、俺達は別れる。学生証がきらりと輝いたかと思えば、シアのいた空間がぐにゃりと歪んで、そのまま姿が消え去る。これが空間魔術か……どういう仕組みなのだろうか……

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