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第33話 自動再起動

「避けてみろ……要塞」


 スカラーは右手を構える。銀色のグローブ。ふわふわと浮かぶ鉛玉。それが、魔法による力。磁力操作によって射出される。


「俺も全力で行かせてもらおう……雷鎧!」


 黒いサングラス越しに、俺の瞳が輝く。全身を紫電が駆け巡り、事前に組み立てられた筋肉の運動を強要する。入学式の時に夏に披露した魔術だ。

 自己紹介が遅れたが、俺の名はバスティオン。俺は魔術師だが、魔導書を持たない。全身に身に着けた魔道具で魔術を発動させる。武装はサングラス、ネックレス、ピアス、10の指輪に2の腕輪、そして衣服に靴。それら全てが魔道具であり、俺の武器であり盾となる。魔道具を使った魔術の利点は、当然詠唱のプロセスを踏む必要がないこと。つまり高い発動速度と妨害に対する耐性が強みだ。

 雷鎧は俺の衣服に仕込まれた魔術。回路のように張り巡らされたパスを通して、全身に雷属性の魔力を流し込む。これにより、人間の駆動限界を超えた動きを可能とする。


「今のは小手調べだ。おまえの腕がどれだけ鈍っているか確認したくてな」


「だとすれば、期待外れかもしれないな?」


「あぁ、期待外れだ。おまえには……おれはずっと期待していたんだ……」


 鉛玉の飛翔速度を超えるスピードで、近くの家屋の壁を一筋の迅雷が駆け抜ける。その後方を、光り輝く鉛玉が、まるでホーミングするかのように追跡する。速度はやや俺の方が上回っていると言ったところか。

 スカラーは動かない。そのまま、指揮をするように右手を振り上げる。同時に、近くにあった金属製の街灯が地面から引っこ抜かれ、そのまま鉄柱として俺へと迫ってくる。磁の魔法使い。つまりは磁力の法則そのものである彼の武器は、この周辺にある金属全てだ。磁力によって操れるものであれば、全てが彼の手のひらの上。単純な戦闘能力という意味でもそうだが、それ以上に……俺とは相性が悪い。


「磔」


「っ……やはり使わせてはもらえないか」


 両手がぐいっと強く引っ張られる。恐らくも何もない。彼の磁力によって、俺の指輪と腕輪が反応している。俺の指輪には各属性の魔術が仕込まれている。つまり……これを捨てるということは元から少ない手札を更に減らすということ。十種類の攻撃手段を失う。それでも、付けていては拘束されて蜂の巣だ。雷鎧による移動を維持しながら、俺は両手の指輪と腕輪をパージする。更に、魔性殺しのネックレス、音のピアスと色のピアス、これらの装飾品魔道具も捨てる。残っているのは耐光のサングラス、雷鎧、そして靴の三種類のみ。勝てるわけがない。


「おれはおまえの手札を全て知っている……どれだけ策を巡らせようと、おまえはおれに勝てない」


「お前の方こそ、魔法に頼ってばっかで腕が鈍ってないか?」


 雷鎧で接近。至近距離での格闘戦を仕掛ける。移動しながらルカに教えた魔力放出の形状指定の技術で、雷の剣を生み出し、スカラーの心臓目掛けて突きを入れる。けれど、これは結論から言えば悪手だった。


「っ……がはっ……」


「確かに格闘戦ならばおまえに分があったな……昔もそうだった、喧嘩でおまえに勝てた試しなどなかった……けれどこれは喧嘩じゃない……殺し合いだ」


 喉元に迫り上がってきた血液を吐瀉しながら、俺は自分の身体を確認する。あぁ、そういうことか。先ほどから俺を追いかけていた街灯が、俺の腹部を深々と貫いていた。考えてみれば当然のことだ、無数の金属片と街灯はずっと俺の後ろを追跡していた。俺が足を止めて攻撃に転じれば、当然追いついて俺のことを貫いてくるだろう。雷の剣を命中させ、魔力操作を困難にすれば、既に磁力で動いている物体も停止するという計算だったが……俺の雷の剣は、スカラーの銀色のグローブで易易と受け止められていた。


「魔力変換の……魔道具かッ……」


「おまえの腕輪と同じものだ。魔法使いと言えど、雷属性の魔術に対する対策はするものだ」


「っ……その通りだ、"俺がそう教えた"からな」


 笑う。何故? こんな時に笑みが浮かぶのは意味不明だ。理解不能だ。けれど、確かに俺の教えは脈々と受け継がれている。かつて要塞と呼ばれた傭兵……バスティオン。不動にして難攻不落。あらゆる魔術を無効化し、魔術師を殺す魔道具使い。そんな名前で呼ばれた時代もあった。けれど、今はただの一教師に過ぎない。


「完敗だ。強くなったな……スカラー」


「せめてもの手向けだ……電磁砲(レールガン)


 鉛玉を手に取る。そして、強い閃光が煌めいたかと思うと、光の弾丸。高速で放たれた鉛玉が、俺の胸を貫通して飛翔していく。雷鎧が異常を告げるように不規則な電流を流しながらチカチカと発光し、やがて俺の心臓は停止する。

 どさり。そして俺は死んだ。


「約束通り……命1つだ。おれは帰る」


 ぎろりと、周りの図書館の連中に睨みを効かせるようにそう呟くと、スカラーはコートをなびかせながら、すたすたと夜の闇へと消えていった。







「がはっ……!?」


 ――そして俺は"生き返る"。


 雷鎧による保険が発動する。それは、俺の心拍が一定以下になった時、自動的に電気ショックで心停止させ、仮死状態にする。その後、魔力が続く限りは心臓マッサージを行い、肉体が修復されたタイミングで同じく電気ショックによる蘇生を行う。これは、そういう"保険"だ。


「先生!」


「ティオくんは無茶するよなぁ……ボクがいなかったらどうするつもりだったのさ」


 蘇生が行われたということは、肉体の治療が行われたということ。つまりシアだと思ったが、眼の前に立っていたのはあの■の魔法使いであるルビイだった。


「先生……心臓が止まってて……息もしてなかったから……」


「敵を欺くにはまず味方から、だな……約束は守ったぞ、リツ」


「はい……ありがとうございます、死なないでくれて……本当にありがとう」


 涙目になっているリツの顔を見て、あぁ……ルビイと似ているな、なんて思う。隣に並ぶとそれはより顕著に見える。俺も"例の噂"に関しては当然知っているが、それと妙に符合しない部分もある。まぁ、そんな邪推は辞めておこう。どちらにせよ、リツは俺の自慢の生徒なのだから。


「他の3人は?」


「私はずっとここにいる。ルビイ先生を連れてきたのも私。MVPと言っても過言ではない」


 ひょいっとリュミエが顔を出す。あぁ、事情は掴めた。あの後、事態を確実に収拾するためにリュミエは戦闘に参加させず、ルビイを連れてくる仕事に回したのだろう。良い判断だ。ルカは少し離れた場所で寝息を立てている。シアの姿が見えないが……


「先生、それが……」


 そして、俺はリツから事の一部始終を聞かされる。そして、シアの裏切り。その可能性に関して言及された時、俺は自分でも驚くほどに早く即答する。


「ありえないな」


「はい、俺もそう思います。なので……これは別の空間魔術師による仕業なんじゃないかと……」


「それはありえるけれどありえないね。十大元素(エレメンタル)はどの属性の魔力からも変換可能だが、空間属性などの特殊な属性の魔力は通常の手段では変換できない。空間属性から十大元素に変換することは出来るが、逆は出来ないということだ。つまり……空間魔術は空間属性の魔力属性がある人間しか使えない」


「一応、例外は幾つかあるけれど、原則はそう」


 ルビイとリュミエが、リツに向けてそう説明する。過不足ない良い説明だ。リュミエもよく勉強しているな。


「そして、属性は基本的にある程度遺伝すると言われている。血液型程度の振れ幅でね。突然変異的に特殊な属性を持つこともあるが、空間属性は灰家の相伝だ。そして現代において空間属性を所持する灰家の人間は二人だけ……灰 夏と……」


 あぁ、そうなるだろう。俺も既に頭の中で、今回の顛末は結論が出ている。ルビイの言葉を待つまでもなく、リツもはっとした顔で、続きを口にする。あぁ、事はすごくシンプルだが……非常に厄介でもある。今回の件に……ある1人の人物が敵として関わっているという事実。最悪の仮説。それを、リツは口にする。


「――灰 尊。つまり……ソン教授……?」


  空の魔法使い。灰 尊。学園が抱える最強の魔法使いの1人が、俺達の敵であるという事実だ。

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