表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

第31話 taskkill

おまたせしました、続きます

「この世の全ての魔力は属性を持っている。無属性という存在ですら、例えば白いキャンバスに白色の絵の具を塗りたくっているようなものであって、キャンバスが変われば、つまり黒色の背景に落とせば、それは確かに色を持っていると言えるだろう。けれど、律君。君のはそうではない、属性なしとは即ち……まるで消しゴムで消したかのような違和感であり、異常性だ」


 それが、この前ラッセル先生に言われた言葉だった。何故、こんな時にそんなことを思い出しているのかと言えば……それはシアの新しい戦い方を見て、そう思わざるを得なかったからだ。


「シア!」


「分かってるわよ……! あと名前!」


 図書館の魔術師による、一斉射撃。シアは、右手を大きく振り上げ、そして振り下ろす。ぐにゃりと、シアの手の軌跡が、空間が歪んだかと思えば、敵の放った無数の弾丸は、そこに生まれた異空間に吸い込まれて消えていった。

 結論から言えば、これは魔力放出だ。シアの魔力属性は空間。つまり、魔力それ自体が独自の異空間を持つ。そんな魔力で壁を作ったらどうなるか。敵の攻撃は、防がれるのではなく、吸い込まれる。空間に存在することの出来るものであれば、どれほどの威力の攻撃であろうと無効化する。それがシアの魔力だ。

 無詠唱の絶対防御手段。多くの魔術師が喉から手が出るほど欲しいであろう、そんな最強の魔力属性……それがシアの空間属性だ。だから、俺はそれが少しだけ羨ましくて、こんな時なのに前のことを思い出していたのだろう。


「《アイス・スパイク》!」


「《ディメンション・カッター》!」


 そして、生まれた隙で俺が氷の弾を放つ。直接ぶつければそのままダメージと同時に凍結。近くに当てるだけでも上手く行けば拘束できる。そんなお手軽攻撃魔術で、俺は敵の魔術師を足止めする。そして、動きを止めたらすかさずシアが空間切断で相手の手足を切断する。シンプルながら強力な連携で、俺達は明らかに格上の魔術師達を撃破していく。


「キリがないわね、リツ、何か作戦とかないの?」


「こうやって無作為に船内を走り回るのは愚策だよね……誘拐された子が監禁されてる場所が分かれば良いんだけど……」


 無力化した敵を近くの壁と凍結させながら、俺は呟く。こうやって戦いながら船内を走り回っているが、この船を全て探索し尽くしていたら朝になってしまう。そもそもそんなに俺とシアの魔力は持たないだろうし、なるべく消耗は避けてさっさと事を済ませてしまいたい。だが……そんな都合のいい方法があるだろうか?


 ひらり。視界の端を何かがよぎる。


「青い蝶……?」


 違和感。蝶が陸地から離れた海上にいるわけがないし、船内をふわふわと飛んでいるわけがない。それに、俺はこの蝶を見たことがあるような気がしていた。だから……なんとなく、こうすればいいと思った。


「追いかけよう。多分……あの蝶の先に目的の部屋はある」


「正気……? 何の根拠があって……」


「根拠ならある。俺の直感だよ」


「それは根拠とは言わないんじゃないかしら……まぁ良いわ、他に宛もないのだから、神頼みとしましょう」


 シアははぁと小さく溜息をついた後に、蝶の後を追いかけて走り始める。俺は、眠そうなルカの手を引きながら、シアの後ろを追いかけた。




「それにしても、何で図書館は魔術師を誘拐してるの?」


「……魔術の独占が目的なのでしょうね、彼らは世界に魔術が広まることを恐れており、そして魔術が失われることも恐れている。閉鎖的な組織の中で、秘匿されたまま継承されるべきと考えているのかもしれない」


「そうか……今回の被害者で言うならば、放置すれば貴重な魔術が多くの人間に広まってしまう、けれど殺してしまえば失われてしまう、だから誘拐して保管する……」


「恐らくは」


 あまりにも自分勝手な理由だ。そんな自分勝手な組織に、加担する人間がこれだけ居るというのも納得できない話だ。自分たちだけが魔術を使える世界。そんなものに、憧れるだなんて。


「……あ」


 そして、暫く進んだ辺りで、青い蝶が俺の肩に止まる。顔を上げてみると、そこには下の階層へと続くハッチのようなものがあった。なるほど……この先が本陣か。


「シア、多分ここが――」


「リツ! 避けてッ!」


「っ……!?」


 俺がくるりと振り向いた時、既に凶弾は眼前へと迫っていった。避けられない。恐らくはショット系の魔術、殺傷性マシマシの土属性だ。避けられない、そう覚悟した時。


 ――キンッ!


 ふわり、視界の端を白い何かが過ったかと思えば、脳髄をぶち抜くはずだった土の弾丸は、何かに弾かれたように見当違いの方向へと飛んでいく。あぁ、まただ。また俺は……多分誰かに命を救われている。誰に……?


「自動防御魔術……? いや、ありえねぇ……こんなガキがそんな高等魔術使えるはずがねぇ……まぁいい、また会ったな……クソガキ」


「……お前は」


 俺のことを正確に射抜こうとした犯人。赤いフードローブに金髪の悪鬼。学園を襲撃したあの男が、下衆い笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「その先には行かせられねぇなぁ……俺の大事な仲間の手足をポンポン切りやがって、お前らに人の心ってものは無いのか?」


「人の心がないのはどちらでしょうね?」


「吠えるじゃねぇか空の器。正義の味方ごっこか? ここは子どもが来るような場所じゃないぜ?」


「黙りなさい……! 《ディメンション・カッター》ッ!」


 男の挑発に、シアは耐えられなくなったのか、即座に先制攻撃を打って出る。しかし、男は身を翻して避けるような素振りを見せない。シアの魔術は当たれば必殺。それを避けないということは……何かあるのか?


「――《ディスペル》」


 パチンと、何かが弾けるように、シアの右手に収束していた魔力が霧散する。何が起きた……? 魔術は確かに発動した、けれど……それがまるで何かによって打ち消された。そんな現象が、眼の前で起こる。


「空の器。お前は所詮まだ空間"魔術師"だ。魔術師は弱い、魔術は弱い。付け入る隙だらけの欠陥品だ。それを血眼になって勉強しているお前らが、俺は滑稽で仕方がない」


「《ファイア・ボール》!」


 これは確認だ。そう言い聞かせながら、炎の玉を放つ。敢えて弾速の遅い、ボール系を選んだ。その方が、相手の奇術の絡繰りを解くには都合がいいからだ。


「《ディスペル》」


 そして、火の玉は空中で掻き消える。なるほど……やはりあれは、魔術を無効化する魔術なのだろう。けれど、それが魔術であるならば、仕掛けがあるに違いがない。魔術は理解不能な超常現象などではないのだから。

 だから、多分……これを突破できるのは俺だけだ。


「シアとルカは先に行って、ここは俺が何とかしておくよ」


「正気? 私の魔術が通用しないのは見れば分かるけれど……リツ、あなただって只の魔術師じゃない……」


「只の魔術師かもしれない。けど、多分……俺は、誰よりも魔術が好きだ。だから、俺はこいつが許せない。魔術の可能性を否定するこいつに、俺は勝たなくてはならない」


「……分かった、後で合流しましょう」


「ありがとう、被害者の救出はお願いするよ」


 そんな短いやり取りの後に、シアとルカはハッチを降りていく。そんな一部始終を、金髪の男はニヤニヤと笑いながら眺めていた。完全に舐め腐っている。或いは……この状況こそが狙いか?


「俺はキッド。図書館の魔術師殺しだ」


「俺はリツ。魔術師だ」


 これは決闘なのだろう。魔術という概念のプライドを賭けた、男と男の戦い。だから、俺はこの勝負に勝つ。あいつが否定した魔術で、あいつを打ち倒す。出来るはずだ、だって魔術は無限の可能性があるのだから。そうして、火蓋は切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ああ、ここで冒頭に繋がるのですね。つまり、いよいよ本格的に本編が。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ