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第28話 ハードのスペックに合わせたソフトを

「あんた達ねぇ……」


 そして、遂に決戦の日。大学の正門の前に集合したアンオブタニウム教室の面々だった。比較的軽装の俺とシア。一方で……ルカとリュミエ先輩は巨大なリュックを背負っていた。なんかビーチパラソル突き出てない……?


「不服。遠征に必要な準備だと思う」


「俺は持たされてるだけだからな」


「確かに奴らの潜伏地は港湾都市ゼネルと聞いているけれど……観光じゃないのよ……?」


「うん。でも、警戒されないことも重要。観光客を装うのは合理的」


「俺は持たされてるだけだ」


 リュミエ先輩の、真っ直ぐなジト目で見つめられて、シアはやれやれと言った様子で溜息を吐いてから、諦めて正門前の時計を一瞥する。集合時間は過ぎているが……ティオ先生はいつ来るんだろう。

 そう思っていた矢先に、バチッバチッと雷が落ちる前のピリピリした感覚と共に、紫電の塊が真っ直ぐとこちらへと走ってくる。あぁ、多分あれだな。


「ふぅ……待たせたな!」


「遅刻です先生」


「俺は教師だから良いんだよ。よし、全員集まってるな」


「というか……先生……」


 入学式で使っていた雷魔術による高速移動で、俺達の前に颯爽と現れたティオ先生。その姿を見て、シアは今度こそ頭を抱えてみせた。何故なら……ティオ先生も……


「アロハシャツ……?」


「ゼネルでの正装だ。というかお前ら制服で行くつもりか?」


「先生……一応確認しますが……遠足ではないんですよね……?」


「当たり前だろう。仕事だ仕事。夏とリツこそ、そんな軽装で大丈夫か?」


「……大丈夫。リツとシアの分も色々持ってきた」


 リュミエ先輩が頼もしげにサムズアップ。果たして、あの巨大なリュックの中に何が入っているのだろうか……


「それと、任務中の連絡手段としてこれを配布しておく」


 そう言いながら、ティオ先生が4人に銀色のイヤリングを渡す。よくよく目を凝らしてみると、青色の文字が小さく小さく刻まれている。魔道具の類なのだろう。取り敢えずつけてみる。


「ペアリングしてあるイヤリング同士で通話ができるピアスだ、通信できる距離が限られているから、大学との通信はできない。あくまでも俺達5人の連絡手段として使ってくれ」


「分かりました」


「よし、それじゃあ出発!」


 ティオ先生の掛け声と共に、俺達はアダマンティン魔術大学を離れるのであった。







 大学を離れて初めて、この世界の景色を見た。白い煉瓦の街を取り囲むような巨大な城壁。そこを抜けて、大型の乗合馬車に5人で乗る。遥か遠くまで見渡せる草原地帯を、仲良く歓談しながら進んでいく。

 そんな呑気な旅路で数日ほど行った先に、その都市は見えてきた。


「海!」


「海ね」


「海だな」


 沢山の商船が立ち並ぶ、この国最大の港湾都市。ゼネル。日本で生きていた頃には、絶対に見ることが出来なかったであろう、澄んだ水色の海。白すぎる砂浜。海に行ったことなんて、子供の頃に数回あったぐらいだったから、新鮮な気持ちだ。


「まず今回の作戦だが、誘拐された生徒を船で移送するタイミングでの強襲作戦だ。図書館と繋がっている船は既に判明していて、出港は今夜という話になっている。まぁ、つまりだな……」


「夜までは……遊べる?」


「うむ。というわけで海水浴場に来たわけだな!」


 何やらテンションの高いティオ先生が、ばっと両手を広げる。後ろには多くの人で賑わう海水浴場。時期としては少し早めではあるが、多くの観光客が波打ち際で楽しそうにはしゃいでいる。


「私はそんな準備してないですので……部屋で精神統一でも……」


「問題ない。シアの分の水着も持ってきた」


 リュミエ先輩が、大きなリュックをがさごそと漁りながら、サムズアップ。やっぱりその大荷物の中身って海水浴アイテムだったんですね先輩……




「というわけで、リュミエ……勿論例のブツは持ってきたな?」


「無論。抜かりなく」


 水着に着替えた俺達が集合した後。ティオ先生はきらりと歯を光らせながらにんまりと笑う。その合図に合わせて、リュミエ先輩が後手に隠していたブツを取り出す。これは……スイカだ。


「スイカ割り……か」


「流石にルカでも知っているか、ただし……普通のスイカ割りなどしても面白くない」


「なるほど、"魔術あり"のスイカ割りってことですね?」


 今までどうも乗り気じゃなさそうだったシアの目が、少しだけ光る。なるほど、ティオ先生はシアのスイッチを良く理解している。


「ルールは普通のスイカ割りと同じだ、魔術の使用は自由だが……そうだな、一種類だけという制限を付けよう、どの魔術を選択するかが勝負の鍵だな」


 ティオ先生はそんな風に解説しながら、ブルーシートを敷いて大玉のスイカを設置する。そして、何処からか取り出した木刀を、まずはルカへと投げ渡す。


「俺……か」


 げんなりとした様子で、ルカは木刀を手に取る。同時に、リュミエ先輩がちょこちょこと背伸びをしながらルカの目に黒い目隠しを施していく。慣れた手付きだ。


「……回れば良いんだな?」


 そして、ルカをくるくると回した後にゲームスタート。怠惰な生活こそしているが、こう見えてルカは運動神経が良い方だ。ややふらついてはいるが、平衡感覚は失っていなそうに見える。


「あー忘れていたが……シア、念の為だが魔導書を――」


「どこだ……? 取り敢えず……《ばん》……?」


 何かを思い出したかのように、ティオ先生がシアに合図する。それとほぼ同時にルカが見当違いの方へと指鉄砲を向ける。まずい、そう思って、俺とシアが同時に魔導書を構える。


「「《アース・ウォール》!」」


 ルカの放った魔力の弾丸を、シアと俺が生み出した土の壁が防ぐ。互いに考えることは同じだったのだろう。そして、それが偶然完全にシンクロする。二人の生み出した土の壁は、互いに干渉し合って、スロープ状の斜めに変形する。ルカの放った魔力の塊は、そんな土のスロープを滑るようにして、天高くへと飛んでいく。


「外したか……もう1発……」


「ルカ! ストップ! その魔力放出は使用禁止ッ!」


 再び別の方角へと銃口を向けようとするルカに飛び掛かるようにして、俺は破壊の権化となったルカを止める。分かっては居たが……ルカの魔術でこのゲームは無理だ。

 というわけで、ルカは失格。次のチャレンジャーはリュミエ先輩。


「《エンハンス》……《エンハンス》……《エンハンス》……」


 三重詠唱。単純に出力を上げるのではなく、重ねるという行為には幾つかの意味がある。1つは異なる魔術の効果として扱われる為、そのどれかだけを終了する、のような操作が可能である点。理屈としては俺の《ショック・フォール》と同様だ、魔術1と魔術2があるのなら、1だけ終了などということが出来る。

 まぁ恐らく今回はもう一つの理由。魔力出力の操作が苦手な場合の強硬手段だろう。リュミエ先輩は、あまり魔力操作が得意ではないらしい。

 いつものように前傾姿勢で居合の構えをする。あれ、よく見るとリュミエ先輩が持ってるの木刀じゃない。白い鞘付きの刀だ。いつもローブに隠れて見えなかったが、腰に常にあの白い刀を帯刀していたのか。


「……? あれ、なんかスイカが光ってないか?」


 ふと、ルカがそう呟く。確かに、リュミエ先輩の持っている刀ではなく、スイカの方が青く発光している。そんな異常に気付いていないのか、或いは意図的なのか。リュミエ先輩は回転で目を回している様子すら見せずに、目隠しをしたまま、一歩踏み込む。


――キィィィン!


 風を切る音。いつものように、リュミエ先輩が神速で移動する音だと思っていたが、今回はそうじゃない。リュミエ先輩は一歩踏み込んだだけ。位置はスイカの真正面。そして、俺が理解する間もなく事は終わる。


――チャキッ


「……命中」


 リュミエ先輩が、納刀する音。ただそれだけが、俺が認識できた全てだった。そして、数秒後に、置かれたスイカが綺麗に真っ二つに割れる。


「流石ね、リュミエ先輩」


「上出来だ。先輩としての威厳は保てたな」


「……良かった。粉砕……せずに済んだね」


 そのセリフで、俺は理解する。リュミエ先輩が《エンハンス》で強化していたのは、本当にスイカの方だったのだ。その理由は、自分の一撃でスイカがバラバラに砕け散らないように強度を上げるため。あまりにも逆転の発想すぎる。これが学園最強……

 ティオ先生が、割れたスイカを手刀で更に五等分にする。この人も相変わらず器用だなと思いながら、俺達は割れたスイカに集まっていった。


「後半戦は腹ごしらえの後にしよう。ほら、食え食え!」


 スイカは美味しかった。一方、後半戦はシアは空間切断でスイカを割ろうとするが目が回ったせいで命中ならず。俺は事前に《ウォーター》で付けておいた印を辿る作戦だったが、肝心のスイカで空振り三振。結局スイカを割れたのはリュミエ先輩ただ一人だったとさ。

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