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第24話 予測可能な実行結果

「本当に盛大だね……」


「そりゃ中間試験の目玉だもの」


 大学に併設されている、古代ローマのコロッセオのような、円形の闘技場。普段は体育館やグラウンドのノリで使われている場所だが、今日に限っては見た目通りの闘技場として使われている。基本的に魔術戦は1対1で行われ、普段の魔術戦の授業成績でマッチングが決まる。


「ルカの対戦は……もうちょっと先だね」


「私も出たかった。不服」


「リュミエ先輩を出しても良かったのだけど、そうなるとルカが取れる科目が無くなっちゃうから、苦渋の決断ね」


 膨れっ面をしているゆるふわ戦闘狂を眺めつつ、俺はルカの対戦相手の名前を見る。"アッシュ"……何処かで見たことがあるような気がする。クラスはプラチナ、その中でも成績は優秀な部類。とは言っても、ルカが負けるような気はしないが……

 予感。なんとなくだが、胸騒ぎがする。入学から波乱の日々だったからか、何かが起きる時の肌を刺すような違和感を感じ取れるようになってきた。


「ちょっと様子を見てくるね」


 そう言い残して、俺は闘技場の控室に向かった。






「……あれ?」


 ということで、闘技場の地下に併設された控室に向かう。中間試験の科目ということもあって、時間が近い生徒が一堂に介している。だが、肝心のルカの姿が見えない。さっき俺の魔力操作の試験が終わった後に、一度ここまで連れてきてから別れたはずなのだが……


「あぁ……本当に、あのルカとかいう不適合者が

 ――バカで良かった」


 ちくり、胸を刺すような痛みと共に、聴き逃がせない言葉が俺の耳に入ってくる。くるり、と声のする方を見てみると、そこには見覚えのある3人組の姿があった。

 "アッシュ"……そうだ、思い出した。その名前は、俺達に食堂で喧嘩を売ってきたプラチナ生徒のリーダーの名前だ。だとすれば、奇しくも因縁の対決ということになる。が……さっきの言葉が正しければ……


「君ら、何の話をしてるんだ」


「……あ?」


「ルカの話をしていただろ?」


 俺はアッシュに詰め寄る。アッシュはそんな俺を、ゴミでも見るような目で一瞥すると、にやりといやらしい笑みを浮かべて嗤い始める。


「あぁ、特別学級最弱の……名前は何だっけ? ツリーとかだったか?」


「リツだ」


「まぁお前の名前なんてどうでもいい。俺たちはただ、ルカとかいう男と"お約束"をしただけだ」


「……どんな」


「お前は本当にあの男のことを知らないんだな、それで友達面か?」


 ケラケラと笑うアッシュに対して、俺は思考を巡らせる。ここで喧嘩をしたら情報を引き出せない。ここは我慢だ、今すぐ殴り飛ばしたい気持ちを抑えて、俺は続ける。


「どんな約束なんだ?」


「……あぁ、いいさ。お前もあいつの愚かさを知ればいい。教えてやるよ。

 あいつは――」







 俺は走る。アンオブタニウム教室、当然そこにルカの姿はない。観客席に戻っても当然ルカの姿はなかった。彼は何処に消えた? 可能性があるとすれば……


「はぁ……はぁ……見つ……けた」


「……? リツ?」


 そこは、学園で最も高い塔の上。ルカが居るとすれば、多分ここだと思った。そして、実際にルカはそこに立っていた。同時に、ルカは俺の姿を見るや否や、その手に持っている"何か"を隠そうとする。


「……リツ、どうした?」


「良いよ。話はアッシュから聞いた」


「……」


 ルカは黙り込む。ルカは、アッシュと約束をして、その代償として……試合を放棄することを決めた。これは、そんなに難しい話じゃない。ルカが受け取ったのは、いうなれば……賄賂だ。


「ごめんルカ、俺は何も知らなかった。実際、多分今もよく分かっていない。でもただ、ルカにお金が必要なことだけは分かった。だから怒ってるわけじゃないし、今から止めろとも言わない」


「……すまない、リツ」


「良いんだ。でも多分、シアは受け入れられないと思う。だから……」


「……無理だ、話せない」


「全てを明かす必要はないと思う。でもただ、"理由がある"という事実だけは、包み隠さずにみんなに伝えて欲しい。俺たちはそれ以上は詮索しないし、納得できる……と思う」


 ルカは黙り込む。きっと何か理由があるのだと思う。お金が必要な理由が。けれど、そんなルカを止める権利は俺にはない。多分、俺だって"理由"があればそうするだろうから。

 そんな風に、解決ではなく事後処理的な話をしている俺達に、きっと痺れを切らしたのだろう。ドン、と大きな音と共に、塔の扉が開け放たれる。


「――納得するわけないじゃない」


「っ……!? シア……か」


「なんでここが分かったの?」


「大体過程はあなたと同じよ、リツ。あまりにあなたが戻ってくるのが遅いから見に行ったら、例の連中が話していたから、取り敢えず話を聞き出して、ここに来たわ」


 シアはそう言いながら、ずんずんとルカの前に近付いていく。そして、ルカが大事そうに抱えていた封筒を取り上げる。


「おい、何を――」


「――私とあなたの関係は何? ルカ」


 取り返そうと手を伸ばすルカに、シアは強い言葉でそう言ってのける。それに対して、少しだけ悩むように言い淀んだ後に、ルカは一言。


「友達……だと、俺は思ってる」


「なら頼りなさいよ、友達をね。お金がないなら貸してあげるし、困ったことがあるなら頼りなさいよ。あんな卑怯な奴らの思う壺になる必要なんてない」


「……そうか」


「理由も今は話さなくて良い。友達を助けるのに、理由なんて要らないでしょう?」


 シアの言葉は力強く、頼もしかった。俺が思っている以上に、シアはルカのことを友達として認めているし、ルカもシアのことを信用していたのだろう。俺は何も出来なかったけれど、最初からシアに相談するべきだったのかもしれない。俺も、二人のことをもっと信じないと。


「じゃあこのお金は返してくるわね、ルカはさっさと会場に向かいなさいよ。遅刻で棄権になったら本末転倒よ」


「分かった……シア、ありがとう」


「良いわよ、私たち友達でしょう?」


「……あぁ」


 どうやら、何とか丸く収まったらしい。

 俺は胸を撫で下ろすと、今度こそルカを会場へと連れて行ったのであった。

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