第19話 平均値と中央値は使い分け
「やや乱暴な言い方をしてしまえば、呪術とは魔術の一種だと考えてもいいじゃろう。それらを切り分ける決定的な違いとは……おっと、時間じゃな。では続きはまた次の授業にするとしよう」
呪術学の授業を終えて、いつもの3人で教室を出る。なんだかんだルカも出席だけはしているし、俺も提出物の評価は悪くない。この調子なら、アンオブタニウム教室は試験でもそこそこの点数を出せる気もしている。
「そこそこの点数は出せるから安心って顔をしてるわね」
「……そんなピンポイントな」
「分かってる? アンオブタニウムがアダマンタイト相当の序列を手に入れるには、たった5人でプラチナに勝つ必要があるのよ?」
「あんまり試験の仕組みよく分かってないんだけど……」
「中間と期末だと少し変わるのだけれど、取り敢えず中間試験の話をするわね」
待ってましたとばかりに、シアが得意げに話し始める。
「中間試験は7科目あって、それらの合計点が個人成績になる……ってのが普通のクラスのルール。アンオブタニウムは例外で、7科目全てを受ける必要があるけれど……その代わりにどの科目に誰を出すかは自由に決めれる。得意な人を割り振って、苦手な科目はスルーできるってわけね」
「それだと、俺達のクラスが相当有利なんじゃ……?」
「これは逆に言えば、1人が受けれるのは1科目だけ、つまりアクティブなのが5人しかいないアンオブタニウムは、2科目で0点が確定しているわけ、これでも有利なんて言える?」
なるほど、例えばリュミエ先輩やシアぐらいの天才が7科目全部受ければ確実に勝てるだろうが、シアという強い駒はどれか1科目にしか使えない。他の科目は俺とかが数字を落とす上に、2科目は人数が足りなくて受けることすら出来ないから0点が確定していると……
「それで、プラチナの平均点を超える必要がある……ってこと?」
「そういうこと。因みに去年度のプラチナクラスの前期中間の平均点は560点ね」
「……ん? 因みに各科目の満点は?」
「100点ね、全て固定よ」
「合計560点ってことは、5科目全て満点を取っても勝てなくない?」
「……そこは、今年のプラチナクラスの成績が低いことを祈るしかないわね」
思ったよりもハードすぎた。全員満点を取ったとしても、もしかすると今の序列であるゴールド相当という地位すら危ういのではないだろうか。
「……そこそこの点数じゃダメだな」
「よく分かったみたいね」
もし4人だったら更に厳しくなっていた。不登校児であるシュルツさんの参加を確約させたのは、あまりにも大きすぎる采配だったのかもしれない。
とか心の中で噂していると、肝心の本人が正面から歩いてくる。校内でも制服ではなく白衣だ。校則違反……とかあの人の中だとあんまり関係ないんだろうなぁ……
「元気そうだな一年坊主ども」
「そちらも元気そうね。久々の外出はどう?」
「挑発のつもりか空の器。不登校と引きこもりはイコールではないんだぞ」
「そうなのね。それと、私は灰 夏。ちゃんと名前で呼びなさい」
「我は先輩だぞ? 貴様らこそ敬語を使ったらどうだ?」
どうも険悪な雰囲気だ。どちらも天才肌で、プライドが高そうだし、なんとなく衝突しそうだなぁとは思っていたが、会うたびにこうしてバチバチやっている気がする。仲良くして欲しいものだが……
「それで、何の用かしら? 今週の私の"記録"は終わったと聞いていたけれど」
「あぁ、今回は空の器の件じゃない。少しお前らのことを調べてな。腐ってもアンオブタニウム所属だ、何か訳ありなのだろうと思っていたが……」
シアは定期的にシュルツさんの部屋に行って、研究の手伝いをしているらしい。どういう内容かは良く分からないが……記録、というワードがよく出てくる気がする。
そして、シュルツが顎で指し示したのは、俺ではなく……ルカだった。
「"ルカ"だったか? 貴様、大学のデータベースに魔力測定の情報が載っていなかったが……数値は幾つだ?」
「……分からない。でいいか?」
ぽやぽやした顔で目をこすりながら、ルカは欠伸混じりに答える。確か……ルカは魔力測定イベントで測定不能を出したんだったか。そりゃ大学にデータがないのも当然だろう。
「ふむ……つまり魔力測定で測定不能を出したという事実は本当のようだな。魔術は使えるのか?」
「……使える」
「なるほど、魔力を持たない特異体質ではないと……因みに、ここに来る前は何をしていた?」
「……他人のような人間にそこまで話す理由がない」
ルカはそう言って、シュルツに背中を向ける。誰だってずけずけとプライベートを探られるのは嫌だろう。今まで何をしていたかを話せない訳ありなのは俺もそうだし。ルカが過去にどんな人間だったとしても、それは今の俺達にとって重要なことではないのだから。
「まぁいい。答えないのであれば調べさせてもらうだけだ」
「言っておくが……俺は多分お前の期待には応えられない。お前の"記録"とやらは、図書館と似たようなことだろう? なら、少なくとも俺を探るのは無意味だろうな」
「それを決めるのは我自身だ」
「なら勝手にしろ」
そう言って、ルカはすたすたと歩いていく。心做しか、いつもよりも早いペースで。俺は、少し迷った後に、そんなルカを追いかけることを選んだ。
「ごめんシア、先行ってる」
「えぇ、行ってらっしゃい。こいつの相手は承ったわ」
「くくく、良く吠えるじゃないか。まぁ良いだろう、貴様らの青春ごっこを邪魔する理由もないのでな」
シュルツさん。多分悪い人ではないのだろうけれど……己の欲に忠実というか、手段を選ばないタイプなのだと思う。シアのように徹底的に殴り合える相手の方が、実は相性がいいのかもしれない、なんて思いつつ。




