第13話 担当者がいなくなったコードは死んだも同然
決闘から数日。
あの3人組は、プラチナクラスの中でも素行が悪いことで有名だったらしい。クラスの序列を振りかざし、ゴールド以下の生徒に王様気取り。そんな彼らを下した、特別学級の3人組こと俺たちは、一躍時の人となった。
「見て見て! シア様とルカ君よ」
「片や次期魔法使い候補、片や魔力測定で"測定不能"を叩き出した異能……すげぇ2人組だな……」
いや、訂正しよう。時の人となったのは俺以外だ。シアは元から有名人だったし、ルカはどうやら俺が出来なかった夢のイベント、魔力測定で測定のスクロールを破壊し、測定不能を出すことに成功していたらしい。ずるい。というかすごい。俺の思っている以上にルカはすごかった。
なんだろうな……マラソンで足の遅い組として「一緒にシアに追いつこうな」って仲間面してたら、実はめっちゃ足が速くて置いていかれた的な……そんなやるせない感覚。
まぁ、クラスメイトが人気者で俺は嬉しい。今はそれでいいや。
「ルカ、こっちよ」
「あぁ……わりぃ……」
相変わらず眠そうにしているルカの腕をシアが引っ張って教室に連れて行く。そんな2人の後ろをゆっくりと歩いている俺。これが俺たちの日常風景だ。うん……金魚のフンとか言ってはいけない。別に俺は嫌われてない……よな?
「次の授業だけはちゃんと受けときなさい、なんたって――」
いつにも増してシアの気合が入っている。因みに、割と俺もウキウキだ、なんたって……
「今年度から復帰した、魔法学担当……教授のルビイだ、よろしく」
そう、なんと今日の授業は師匠の授業だ。この大学に来た時から、ルビイが教授なのはソン教授とのいざこざの時から知っていたが、遂に師匠の授業が受けれるとなれば、俺としては楽しみで仕方がなかった。
師匠はいつものようにややオーバーサイズなローブと魔女帽子を被って、教壇から顔を出せるように背伸びをしながら挨拶をする。うん、かわいいな。
「ボクの担当分野は、魔術ではなく魔法だ。学生の諸君にはあまり縁のない話だと思うが、魔術を極めるには魔法への理解も必要不可欠だ。難解かもしれないが、頑張ってくれ」
ちらりと横を見ると、シアが熱心にノートを取っている姿が見える。確かに"魔法"は俺たち一般人には関係のない話だが、シアにとっては大事な話だろう。なんたって魔法使い候補……らしいのだから。
「つまり、端的に言うならば、魔術とは人が定義するものであり、魔法は世界が定義するものだ」
師匠は淡々と授業を進める。面白いのが、師匠自体は教壇に立って生徒の方を向きながら話しているのだが、その後ろで三つ編みがふわふわと浮いており、三つ編み達がチョークを持って黒板に板書していく。絵面がやっぱりかわいい。多分師匠の魔法か魔術のどっちかなのだろうが、便利そうなことだ。
……因みに授業の内容は、前置きされた通り難解だった。師匠の説明の悪い癖だが、抽象的な概念が多すぎる。なんとか噛み砕いて理解するとすれば……つまりこういうことらしい。
魔法とは世界を形作る法則そのものである。例えば、リンゴが木から落ちるという"法則"……俺たちの世界では万有引力と呼ばれる法則。これらこそが"魔法"であり、それを操れるのが"魔法使い"であると。
魔法使いが魔法を発動するには魔術のような詠唱は不要。つまり魔法とは言っているが、正確には俺の元いた世界の認識だと「超能力」に近いものだというイメージが分かりやすいだろう。
「要するに、人の形をした法則……これが魔法使いだ。ではそうだな、そこの少年、魔法使いが死ぬと、その魔法使いが使っていた魔法はどうなると思う?」
「え、あ……俺?」
ルビイの白く細い指で、ビシッと指差され、俺はガタンと大きな音を立てながら慌てて立ち上がる。唐突すぎる指名だ。で、問題はなんだったか……魔法使いが死んだらどうなるか……そりゃ……
「その魔法が世界から消える……んですかね?」
「すごい! 正解だ! 流石はボクの――!」
ルビイ師匠がめっちゃ嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら拍手する。いや師匠ダメですそれ以上言っちゃ――
「……ボクの生徒だな、こほん」
既のところで気付いたらしい。慌てて咳払いをしながら、何事もなかったかのように授業を再開する。師匠の弟子だとバレちゃいけないとあれだけ脅したのに……師匠ときたら……
「魔法使いが死ぬとその魔法は消え、その魔法に紐づいた魔術も使えなくなる。これを避けるために魔法使いは己の魔法を次代の魔法使いに継承するんだ。さて……時間だな、続きは次の授業で話そう、以上」
そんなこんなで、師匠の初授業は終了する。
ルカは過去一眠そうな顔で、シアは目を輝かせていた。
「流石は我が大学が抱える魔法使いの一人……話のレベルが違ったわね」
「あはは……それで、今日の授業は終わりか、じゃあ俺は帰ろうかな。また明日――」
俺は学生証の機能で時間割を確認すると、そのまま帰ろうと2人に背を向ける。が、その瞬間……俺の首根っこががしりと掴まれ、そのまま引っ張られる。シアさん?
「ルカは帰っていいわ。でもリツは居残りよ」
「え、あ……なんで?」
「そりゃもちろん魔術の特訓よ、こないだの決闘であなただけ負けたのを忘れた?」
なるほど、シアさん的には、俺にはもっと強くなってもらわないと困るということか。確かに、もうすぐ定期試験だし、知識こそ大学で学べてはいるが、実力に関してはからっきしだ。俺だって望んで足を引っ張りたいわけじゃないし、良い機会だし特訓させてもらおう。
ということで、適当な演習室に来たのだが……
「《アース》……っと」
「……終わり?」
「終わりだけど……」
「あなた……もしかして基本魔術……しかも炎、水、風、土の4属性しか使えないの……?」
取り敢えず今使える魔術を見せろと言われたので見せてみたのだが、早速シアが呆れている。だってしょうがないじゃん習ってないんだし。
「話にならないわね、まずはボール系とウォール系だけでも使えるようになりなさい。例えば《ファイア・ボール》」
そう言いながら、右手を構えたシアの手から、火球が飛んでいく。おぉ、すごい魔術っぽい魔術。
「えっと……魔導書に載ってれば使えるんだよな……試しに《ファイア・ボール》っと」
……あれ? 発動しなくない?
「《ファイア・ボール》……《ファイア・ボール》! 《ファイア・ボール》ッッッ!」
「……リツ?」
右手を構えて、何度唱えても、炎の火球は発生しない。なんで? 《ファイア》はちゃんと使えるのに、《ファイア・ボール》が使えないなんてことあるだろうか。いや、ありえるのか……もしかすると……
「シア、ごめん……俺の魔導書、《ファイア・ボール》載ってないかも……」
「はあああああああ!? あと灰 夏! フルネームッ!」
恐る恐る言ってみたが、当然シアさんは絶叫する。いやまぁそうだろうと思った。流石に《ファイア・ボール》ぐらい普通載ってるよな。俺もびっくりしたもん。
「《ファイア・ボール》が載ってない魔導書なんて聞いたことないわよ、本当に何なの? まぁ……大切なモノらしいし、新しいのを買えとまでは言わないけど……」
怒りを通り越して呆れたような声色でシアが頭を抱える。そして、ポケットから羽ペンのようなものを取り出すと、適当な紙に何かを書き始める。
「その魔導書、ページ空いてる?」
「あ、うん。半分ぐらいは白紙だから多分空いてると思うけれど……」
「なら《ファイア・ボール》ぐらいは書いときなさい。あなたの魔導書に使われている魔導紙は後から書き換えられるタイプだから」
シアから今書いたばかりのメモを手渡される。見てみると、確かに魔術の術式っぽい文字列が並んでいる。これを魔導書に書き込めば良いということか。
なるほど、考えてみれば当たり前だ。魔導書は実際にページを編集することで、魔術を追加したり、変更したり、削除したり出来るのか。前に少し魔導書を見てみた時、やけに白紙のページが多いとは思っていたが、それはまだこの魔導書のページが埋まっていないということだったわけだ。
「魔導書は、市販されている状態だと同じものの複製だけれど、そこから自分の得意不得意に合わせて、学んだ魔術を追加したり、要らない魔術を消したり、そういうのを繰り返して自分だけの一冊にするものなの、分かった?」
「分かった、ありがとう」
「じゃあもう今日は良いわ、帰ってそれ模写しなさい」
シアから《ファイア・ボール》を模写するという宿題を出されて、今日は解散ということになった。




