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第1話 便利だからって何でもかんでもpublicにするなって言いましたよね!?

「所詮は魔力量も平凡、魔力出力も平凡な一般人が勝てる相手じゃねぇんだよ!」


 魔術で強化された回し蹴りが、俺の腹に叩き付けられる。

 内臓が掻き回されるような激痛と共に、俺の身体は後方に吹っ飛ばされ、金属製の壁に叩き付けられる。


「げほっ……」


 喉元へと熱いものがせり上がってきて、俺は咳き込みながら血反吐を吐く。やばい、死にそう。それでも、左手に抱えた魔導書は離していない。これを手放したら、今度こそ俺は終わりだから。

 あと何回耐えられるだろうか。残存魔力は殆ど底を尽きている。あとは、初級魔術を数発撃てるかどうかといったところだ。


「っ……《ファイア・ボール》!」


 揺れる視界。震える右手で、照準を定める。しかし……


「ざぁんねん《ディスペル》」


 俺の右手で構築された魔術は、眼の前の敵の力で霧散する。これもダメか。

 《ディスペル》の魔術は、魔術師にとって天敵そのものだ。魔術の発動をキャンセルさせる、魔術師を殺す魔術。魔導書への記録が禁止されている、禁術の一つだ。当たり前だ、あれがあるだけで、この魔術世界の均衡が全て崩れる。


「(考えろ……《ディスペル》を突破する方法を……!)」


 だが「魔術」を殺すのが「魔術」ならば、突破口はあるはずだ。考えろ、ディスペルのメカニズムを。それを突破するためのアルゴリズムを。

 今まで俺は、3種類の《ファイア・ボール》を発動した。名前は同じ《ファイア・ボール》だが、その中身は別物の3種類だ。


 1つ目は通常の《ファイア・ボール》。

 そして2つ目は魔力の充填工程をスキップした《ファイア・ボール》だった。

 つまり、最初から不発する《ファイア・ボール》をわざと撃ったのだ。そしてこれも当然《ディスペル》された。つまり《ディスペル》は魔力の充填工程に干渉する魔術ではないということ。


「そして3回目……」


 3回目は魔術の発動工程をスキップするように書き換えた。そしてこれもディスペルされた……が、ここで俺は唯一の違和感に気が付いた。

 3回目は魔術を発動していないのも関わらず、魔力が消費された。つまり「魔力を充填する工程」から「魔力を消費する工程」のどこかで干渉されていると考えるのが妥当。


「書き換えろ……世界の法則を……」


 左手の魔導書のページが、独りでにぱらぱらと捲られる。そして、《ファイア・ボール》が定義されているページで止まり、刻まれている魔術言語が書き換わっていく。


 ----

 《ファイア・ボール》


 魔力 consumptionMana;

 consumptionMana = 自己.魔力.充填(FIREBALL_MANA + INPUT);

 炎.発生(consumptionMana / 2).射出(consumptionMana / 2).発動();

 ----


 これが基本の《ファイア・ボール》の魔術だ。デバッグのコツはなるべく処理を簡略化すること。だから初歩中の初歩である《ファイア・ボール》で試し続けた。


「そして、魔力の消費工程に干渉されるのであれば……」


 荒唐無稽なアイデア、試したことなど一度もない。だが、試す価値はある。


 ----

 private 魔力 consumptionMana;

 ----


 書き換えるのは一行だけ。消費する魔力を定義する処理だ。もし、この考えが正しければ。

 魔導書が光り輝く。よし、ビルドは通った。あとは賭けだ。全身の魔力を最後の一撃に込める。右手を突き出して、叫んだ。


「4度目の正直だ……《ファイア・ボール》ッ!!!」


「阿呆かよ、効かねぇって言ってんだろうが……《ディスペル》」


 俺の眼前に立つ男は、呆れたように溜息を吐きながら、手をひらりと振って、俺の魔術を無効化……

 ――できない。


「なっ……!?」


 敵の男は目を丸くする。当然、無効化できると分かっているのだから、避ける準備などしているはずがない。炎の弾丸は、男に直撃し、爆散する。


「クソっ……がぁぁぁ!?」


「魔術を理解してないのは、お前らの方だ。魔術は無限の可能性を秘めている。魔術は世界を記述する」


 思った通りだ。この世界の大規模な魔術は共同で行使されることが多い、つまり、消費する魔力という「変数」は誰でもアクセスできる状態。publicなのがデフォルトということ。他の人が消費魔力に加担できるのであれば、逆に消費魔力を奪ったりすることも出来てしまうということ。それがこの世界の魔術の穴で、《ディスペル》はその仕様を突いた魔術だったということだ。種を明かせば至って単純。大切なのは、常識を疑うことだ。


「舐めやがって……どういう絡繰りで《ディスペル》を突破したのかは知らねぇが、どっちにしろてめぇはここで終わりだ、虚仮威しの《ファイア・ボール》如きで俺を倒せるとは思うなよ……」


「あぁ、そうだな。当然、俺じゃ勝てない。なので……」


 そう、俺じゃこいつには勝てない。俺が今生きているのも、俺が弱いから。舐められているからこそ、これだけの時間を稼ぐことができた。本命は俺なんかじゃない。大切に握り締めていた、左手の魔導書を、ふわりと宙に放り投げる。


 そして、その魔導書を、一人の少女が手に取る。白く長い三つ編みを揺らめかせながら。魔導書が輝く。まるで、本当の持ち主に出会ったかのような、そんな歓喜の輝きを放つ。


「――突破口は掴みました、後は頼みます……師匠!」


「よく頑張ったね。リツくん。ここから先は……ボクの戦場だ」


 ふわり。そして、最強の魔女は降り立った。




 さて、改めて。どうしてこんなことになったのか。

 現状を説明する必要があるだろう。

 まぁ、少し長い話になる。時は……半年ほど、遡るかな。

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