7.康代、聖地巡礼する。②ダンダーン邸
連れて行ってくれると言われたものの、迷いに迷った末にとうとう辿り着けなかった姫子の祖父の家である。見失わないよう、しかし関係者とは思われないような微妙な距離で、村山智志のあとを付いて歩く康代である。
「――良かったよ、姫ちゃんに友達が出来て。女子校って大丈夫なのかなって思ってたけど、なにせあの見た目だからね。姫ちゃんを連れて歩けるぐらい度量の広い女子ってなかなか……っていうか、遠っ! その距離感、なんなの?」
「家族以外の男性と親しげに歩いちゃいけないって、生徒手帳に書いてあるから」
「なにそのブラック校則。親しげじゃなかったらいいのかな、喧嘩しながらとか? まぁうちも、ウルフカット禁止とかまだ残ってるからたいがいだけど」
(そういえばこの眼鏡君、さっきからずっと『姫ちゃん』呼びしてる!?)
気安い調子に康代は一瞬にして頭に血が上ったが、必要な情報を得るまではと、歯を食いしばって堪えた。黙って付いていく自分を、康代は褒めてやりたい。
こっちの通りを抜け、あっちの角を回り。もう、戻りはスマフォに道案内して貰おうと康代が道順を覚えるのを諦めた頃、ふいに視界が明るく開けた。
「――さぁ、ここがお待ちかねのダンダーン邸だよ」
極々普通の二階建ての一軒家が立っている。だが、庭だけが、やけにだだっ広い。まるで整備の整っていない運動場か、発展途上国の飛行場のような? いやでも、お葬式に来た時も、こんな感じだった気もしなくもない。忘れた。
「ひとりでは辿り着けなかったのに、一体どうして!?」
「それはきっと、僕が一緒だからだね」
「どういうこと!?」
「だって、うちの隣だから」
「なっ、なんだってー!?」
隣に住んでいる、正真正銘の幼馴染ってやつか! 康代は謎の敗北感を覚えた。
ダンダーン邸は、変に庭が広い以外は極めて普通の一軒家だった。
敷地に入って、普通に呼び鈴を押すと、出てきたのは色の浅黒い老人である。
彫りが深く、目付きが鋭い。当たり前だが、中学の時に亡くなった双子の兄の風貌に似ている気がした。だが、黒のスウェット上下にサンダル履きで半纏を着ているので、格好だけはどうみてもそこいらのおじいさんと変わらない。
ふと、康代の脳裏を過ったのは、
(ひょっとして姫子は、あの子は、何処に行っても異邦人なんじゃないだろうか)
ということだった。姫子とは似ても似つかない祖父と兄。確か、女子校の入学式に来たぽっちゃりした母親も、祖父の系統の顔立ちだったと記憶している。
ああ、クラスやカラオケ店に居た姫子に、心安らかな居場所を提供出来ていたのなら良かったのだけど。今となっては、姫子の気持ちなど知るよしも無いのだが。
そんな物思いに沈む康代に、半纏の袂に手を突っ込んだまま、
「お嬢さんですな。最近、辺りをうろついていたのは」
「は?」
いきなり、姫子の祖父に難解なジャブを入れられた康代だった。
*
だからといって玄関で塩をまかれる――文化が違いそうだが――ということもなく、康代達は一階の居間に通された。ソファーとローテーブルがある洋室だった。
三人掛けのソファーに座るように促され、二人して大人しく待っていると、姫子の祖父がすぐに盆に湯飲みを三つ乗せて戻ってきた。
「粗茶ですが」
「あの、これ。よかったら」
「おお、ありがたい。お茶請けもありませんで、申し訳ない」
手渡しした箱をすぐに空け、菓子盆に小型のシュークリームを積み上げる。
買ってきて正解だった。とはいえ、缶コーヒーにお茶ではお腹がガポガポになってしまう。帰る前に手洗いを借りる必要がありそうだと康代は密かに思った。
姫子の祖父は向かいのソファーに腰を下ろしながら、
「もう、サビーハ……娘が帰ってから、家事が本当に面倒で。女手のありがたさが、今更ながら染みて参りますな。いや、これは時代錯誤でしたな」
(↓続きます。)




