5.康代、忘れたくない。(※近い過去)
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姫子が姿を消してすぐに、異変は起きた。
姫子にラ○ンを送っても既読が付かず、もちろんメールもなしのつぶてである。
連絡が付かないところまではまだ想定の範囲内だが、姫子が教室で使っていた机と椅子が、数日もしないうちに何故か早々と教室から撤去されてしまったのだ。
担任に問いただすと、誰も使っていないからと、宣う。
姫子の机の中から慌てて未提出の進路希望調査票を抜き取ったが、すぐに倉庫代わりの空き教室へ運ばれていってしまった。
姫子、どうしたんだろうねと級友に話し掛けると、姫子って誰?と返された。
今運び出された机の持ち主で、顔だけファンタジーで菫色の瞳に銀髪の超絶美少女よと説明すると、みな一様に頭をこてりと傾け顔を見合わせるばかりだ。
丸められてくちゃくちゃになった進路希望調査票に書かれた佐藤姫子という名前を見せても、他のクラスの子じゃないのかと返される始末だった。
まだ、学校に来なくなって数日しか経っていないのに。
二年近く、同じクラスで一緒に勉強していたのに。
三日に一度はカラオケに行って、みんなで歌っていたというのに。
何故か誰も、姫子のことを覚えていないのだ。
あんなに印象的で忘れがたい容姿の人間は、そうそういないだろう。
康代は思わず、進路希望調査票を握り締めた。
クラスの誰もが、姫子のことを忘れてしまっているという事実を康代が完全に理解するのに、時間はそう掛からなかった。
一緒に取ったプリ○ラを見ても、級友は知らない子だと言う。まるで、旅行に来た外国人と馬が合って、勢いで一緒に取りました、とでも言うかのように。
そして悲しいかな、康代は姫子と一緒にプリ○ラを撮ったことがなかった。
別に魂が吸い込まれるとかファンタジー風の言い訳でもなく、自分がうつるとすべて心霊写真になってしまうとかいったホラー味もなかった。ただ恐れ多くて、推しと一緒にプリクラにうつるなんて、謙虚(?)な康代には無理だったのだ。
こんなことなら、一枚だけでも撮っておけば良かったと後悔する康代である。
その上、何故かみんなが持っていたプリ○ラ写真が、いつの間にか手元から消えてしまった。うっかり捨ててしまったり、誤って無くしてしまったり。プリ○ラ帳にシールで貼り付けてあるというのにも拘わらず、である。
日々酷くなる怪異に対抗すべく一計を案じた康代は、職員室に乗り込んで担任に姫子の個人情報を聞き出し――それも危うく、文書ファイルから削除されていたのを、変更履歴を辿ってギリギリで救い出したのだ。文書作成ソフト自身は、頑張って(?)怪異に立ち向かっていたようだ。偉いぞ、文書作成ソフト。
そして姫子の祖父宅に電話を掛けた康代だったが、何度掛けてもうまく繋がらない。ファックスになってしまったり、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんになったり、他人の家に掛かってしまったりするのだ。目に見えているはずの電話番号を、まるで康代自身が正確に押せていないかのようだった。
そして思い余った康代は最終手段に出た。
直接、姫子の祖父の家を訪ねて行ったのだ。だが、それもどういうわけか、何度行っても道に迷って辿り着けない。康代は決して方向音痴では無かったし、そもそも文明の利器――スマフォに道案内させているのだから迷うわけがなかった。それに、中一の時に姫子の兄の葬儀で、一度は自宅を訪れたことがあるのだ。
康代は夢見がちであっても決して陰謀論者ではなかったが、こうなっては、もはや何か不可思議な力が働いているとしか思えなかった。




