2.プロローグ:謎の眼鏡君、確保!
本編完結済みで後日談連載中です。初日のみ一日二話投稿です。
こちらは後日談二話目になります。
一話目をお読みで無い方は、一話目からお読みになることをオススメ致します。(-人-)
そして、学級委員と連れだって、改札近辺から立ち去る寸前のことだ。
二人とは逆に、ロータリー方向から歩いてきて改札を通ろうとしていた男子学生が手にしたスマフォに、見覚えのある何かが映っていたことに、康代は気付いた。
ほんの一瞬、コンマ一秒以下。
だが、飢えた康代が見過ごすはずはなかった。
「ちょっ、野木さん!?」
康代はその男子学生がスマフォを改札にかざそうとする手首をガッと引っ掴み、そのままズルズルと、端の方に引っ張っていく。痩せ細って今にも折れそうな状態の康代に、出せるはずも無いパワーだった。まさに愛(?)のなせるワザだ。
「えっ? 何!? っていうか、君、誰!?」
背が高くて線の細い、癖のある色の薄い髪をした眼鏡の男子学生は、酷く困惑しているようだ。それには応えず、康代は掴んだ腕を緩めること無く、
「――出せ。出して。画像。見てたでしょ!?」
そう言って、歴戦の万引きGメンみたいに毒突いた。
地獄の底から響いてくるような低い声は、まるで自分の声では無いようにヒビ割れていた。恐らく目も血走っているだろう。もともと化粧っ気が無い上に、唇もカサカサに毛羽立ち真っ青なはずだ。痩せこけた、みっともない女。
問題は無い。こちとら、女なんてモノはとうの昔に捨て去り解脱しているのだ。
「ちょっと野木さん、いったいどうしたの!? ごめんなさい、この子、最近身体の調子が悪くて、それで――」
「…………」
その黒い詰め襟学生服の男子学生は眼鏡の奥の目を丸くしながらも、何故かほぼ迷い無く康代の要求を理解した。ちらっと視線を動かしたのは二人の制服を、何処の学生なのかを確認したからかもしれない。康代はようやく手を離した。
他の学生達が奇異な視線を向ける中、眼鏡君はおもむろにスマフォを操作する。
そして、件の画像を表示させ、黙って康代に向けた。
「――――」
背景は夜間。周りに木の茂った薄暗い、公園のような開けた場所だった。
藤棚の側にあるひとつきりの街灯に照らされているのは、まるでアラビアンナイトのような、海のように深い青の装いを身に纏った姫子の姿だった。
青いケープを被っているので目の色までは分からないが、その華奢な肩を流れ落ちる豪奢な滝のような銀髪を、見間違えるはずはない。やたら高い腰の位置もすんなり伸びる形の良いふくらはぎも、見忘れるはずがなかった。
なんなら、骨格だけだって見分けられる自信のある康代である。化粧がいささか濃い気もするが、舞台化粧と思えばちょうどいい。
隣から覗き込んだ学級委員が、画像をしげしげ眺めながら、
「凄く綺麗な子ね。何、今流行りのコスプレイヤーとか?」
ああ、はやり学級委員も姫子のことを覚えていないのだ――。
康代は目の前が真っ暗になって初めて、自分が息を止めていたことに気付いた。酸欠だった。
だが、それは些末なことだとばかりに、問答無用で眼鏡君に掴み掛かる。
康代は改札で捕らえたばかりの男子学生――眼鏡君、名前も知らない――の襟首引っ掴んでガタガタ揺さ振った。
「――アンタは姫子を知ってるんでしょ!? ねぇ、どうなのよっ!?」
この男を逃してなるものか。
自分以外で、恐らくは姫子の存在を唯一、覚えている男なのだ。
ここで逃したら、姫子が本当に喪われてしまう――。
「……野木さん、どうしちゃったのよ……」
もはやただ必死に縋り付くだけの康代に、何故か眼鏡君が痛ましげに眉を顰め、
「取り敢えず、場所を移そうか。双竜町女子の女生徒さん?」
そう提案してきた。気弱そうに見えるのに、眼鏡君の方が先に冷静さを取り戻しつつあるようなのが、余計に腹立たしい。
傍らで学級委員がオロオロしながら見守っていたので、取り敢えず親の敵にバッタリ出会ったのでこれから仇討ちに行くって担任に伝えておいてとお願いする。
これ以上無いぐらい酷い理由だったが、康代のただならぬ雰囲気に気圧されたのか、学級委員はコクコク頷きながら立ち去った。
もう明日、クラスでどんな噂が立ってもよかった。
むしろ、明日などいらない。
いま、この時を逃したら、姫子まで二度と辿り着けない気がしたのだ。
そして、眼鏡君――のちに自己紹介をする村山智志――との出会いでもあった。
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