28.再会*(最終話)
「お蔭さまで……っじゃなくて、迎えに来るって、手紙に書いてなかったよ!!」
「少々取り込んでいてな。必ず来られるという確証がなかったんだ」
何をしていたのか、それとなく問うと、
「賊共の首を検分していた。遠縁だけあって、何処かで見たような顔ばかりでな」
姫子には相槌の打ちようもない。話を切替えるつもりで、
「あの、智志君を誘ってみたんだけど、来られないって」
「やはり無理か。お前もアイツもでは、望み過ぎだな。まぁ、お前が手に入っただけでも、良しとするか。ご苦労だった、フェトナ」
「⁉」
王子は癇癪を起こすどころか、姫子の労をねぎらったのだ。
私はそもそも、王子の所有物ではないのかしら――そう思いながら背後を窺うと、これが棒切れのような王子かと思うほど背も伸び身体の厚みも増していた。その面差しは硬く険しく、四年の歳月が王子から少年らしさをすっかり奪い去っていた。そして手綱を握る浅黒く逞しい右腕には、長く歪な縫い目が刻まれていた。
王子が故国で過ごした月日の過酷さを思うと、姫子はまた泣きたくなった。
「よく考えたら、こっちは真冬だったんだな。配慮が足りなかった、すまん」
「ぜんっぜん寒くないから、平気よっ!」
無論強がりだが、王子は黙って羽織っていたマントを脱いで姫子に着せ掛ける。王子の温もりが心の底まで染み渡るようだった。
「――私ね、ずっと言いたいことがあったの」
「ああ」
「四年前の王子の旅立ちの時に『ずっと傍にいれくれるって言ったじゃない、嘘吐き』って言いたかった。でも、言えなかったの。だって私、足手まといだったし」
王子は黙ったまま、マントごと姫子の身体に左手を回して支えた。
手綱を握るのは太くて逞しい右腕一本。王子の手綱捌きに少しの不安も無かったが、姫子も両手を伸ばして王子の右腕にそっと添える。
「宝石箱みたいだな、異界は」
双竜町の灯を見下ろしながら、王子はぽつりと呟く。奇しくも姫子と同じ感慨だった。幼馴染の智志や親友の康代。そして共に過ごしたクラスの友達や老魔術師ダンダーン達が丸ごと入っている、大事な大事な宝石箱だ。
「でも、お前が『入って』いたんだから、大きな宝石箱には違いない」
「え?」
「俺が戦の最中で命を落とせば、少なくとも異界に封じたお前だけは無事だ。あの時は――ここから旅立った時は、それだけが救いだった」
「…………」
すぐ傍ではなかったが、王子はちゃんと自分を守ってくれていたのだ。
姫子は長い長い回り道をして、ようやくあるべき場所に辿り着いたような気がした。さらに化粧が崩れるのも構わずしゃくり上げながら、あちらの世界も双竜町と同じぐらい愛せますようにと、ひっそり神に祈った。
「と、とにかく頑張るから――ねぇ。私『顔だけ』だけど王子の支えになれる?」
そう言った姫子の決意に、背後の王子は銀色の長い髪に顔を埋めることで答えた。なぜか後ろから耳を食まれたようで、その面妖な感覚に姫子は背筋に震えが走ったが、それがどういう意味なのかを知るのは、もう少し後のことである。
そして飛竜達が妙なる長鳴きを交し合ったあと、二人を乗せた燻し銀の飛竜は、金色飛竜と並んで双竜町上空に開いた『空の回廊』の入り口を潜り抜ける。
一路、故国へ向かって。
――了――
読了お疲れさまでした。ブクマと評価とリアクションありがとうございます。大変、励みになります。(-人-)
★2025/08/05付:もう、あらすじ欄に入らないのでこちらで失礼おば。(-人-)
87 位[日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 完結済
238 位[日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 完結済
ランクイン履歴ってありがたいですねー。自分では気付かないので。(^_^;)
改めまして、お読み頂き&ブクマ・ご評価頂き&リアクションして頂き、誠にありがとうございました。(-人-)




