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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の夜遊び①

 大きな買い物を済ませた俺は、すっかり日の暮れた町を通り過ぎ、寮に帰宅した。


「お帰り、カーマ」


 玄関を開けると、居間で寛いでいたゲータさんが迎えてくれた。

 奥には、フェイさんとトーマスの姿も見える。


「ただいまです。ゲータさんも帰って来てたんですね」


「うん。知り合いから色々貰ったから、皆にもお裾分けしようと思って」


「え、良いんですか?」


 そんな話しを聞いていたトーマスとセルドも、何かを期待してか、自然とゲータさんの元に集まって来ていた。


「ちょっと待て。そんな事より、カーマ。お前はちゃんと馬具を買えたのか?」


「当たり前ですよ! 何なら馬車まで買ってやりましたよ!」


「「「はぁ!?」」」


 俺がゲホゲホに寄り掛かりながら拳を突き上げると、セルド以外の三人は、揃って驚愕の声を上げる。


「金の無いお前が馬車を買ったのか?」


「はい、店員さんが良い人で、ローンを使ったんです。そしたら馬具も合わせて、ほとんどタダで購入出来たんすよ!」


「……お前が付いていながら何て様だ。セルド、説明しろ!」


 俺が経緯を説明すると、どういう訳か、急に仕事モードの顔付きに変わったフェイさんにセルドが詰められ始める。


「俺だって止めたよ! でもこいつ、女の店員が言う事しか聞かねぇんだって!」


「そんな言い方止めろ! 俺だって自分で考えて決めたんだ。現に上手く行ったじゃねーか!」


「カーマ……一応聞いておくが、馬車っていくらだった?」


「え、普通に1200万でしたよ」


「…………お前、終わったな」


 俺が【ちゃんとクルーザー】の代金を伝えると、フェイさんは、一言だけ呟いて、深い溜め息をつきながら、残念そうに元居た椅子に腰かけた。


 何だろう、さては、俺に嫉妬でもしてるのかな。


「お疲れ、カーマ。俺は同期としてお前を誇りに思うよ」


「な、俺って買い物上手だろ? やっぱ、お前なら分かってくれると思ってたぜ」


「ああ、お前は何処に出しても恥ずかしい、誇り高き馬鹿だ。故郷でも自慢するといい」


「てめぇ、馬鹿にしてんのか?」


「まあまあ、二人共落ち着いてよ」


 トーマスと掴み合いに発展した所で、すかさず、ゲータさんが間に入る。


 本当にゲータさんは、この第三警備隊に居るべきじゃない程の優しさで溢れた人間だ。

 唯一、心から尊敬出来ると言っても過言では無い。


 何で、こんなにまともな人が、ここで働いてるんだろう。

 この人なら、どんな業種からでも、引く手数多だろうに。


「そういえばゲータさん。さっきのお裾分けって何ですか?」


「あー、それはね、マッサージの招待券なんだけど、今からどうかな?」


「連れてってくれるんですか?」


「うん。まだ、カーマは連れてった事無かったよね?」


「無いですけど……」


「まあ、僕も貰った側だから偉そうな事言えないけどね。三人も行くでしょ?」


「勿論です! 師匠!」


「お供します! 師匠!」


「俺は行かねーぞ。その代わり、ゲホゲホは見といてやるから、カーマも行って来い」


「フェイさん、ありがとうございます!」


 珍しく紳士の様な振る舞いを見せたフェイさんとは打って変わり、トーマスとセルドは、誘われるや否や、頭を下げて二つ返事で賛成していた。


 奢って貰えると分かれば、急に師匠とか呼びやがって、マッサージ如きで簡単な奴らだ。


「じゃあ、招待券渡しとくね」


 ゲータさんは、一面が水色に染まった招待券を右隣のセルドに一枚と渡し、残りの二枚を左隣のトーマスに手渡した。


「カーマ、お前にはこの招待券の意味が分かるか?」


「そんな物に意味何て無いだろ、早く俺の分をくれよ」


「まぁ、待てよ」


 何故か、招待券を渡さないトーマスは、持っていた招待券の裏面を俺に見せると、そこには、表とは打って変わり、ピンク一色に彩られた裏面が姿を見せる。


(あれ、表の文字とは違うな。なんて書いてあるんだ?)


 トーマスの持っている招待券の裏面に目を凝らすと、真ん中に小さな文字で、【秘密のマッサージ始めました】と書かれてた。


「なっ!? これはもしや!!」


「そのまさかだ。今から俺達が向かうのは、この世の天国だ」


「良いのか、これって合法なのか?」


「大丈夫だよ。僕は週二で通ってるけど、何ともないからね」


(あれ? 今さらっと凄い事を聞いた様な……)


「あのー、ゲータさん。あなた、如何わしいお店に週二で行ってたんすか?」


「まーね。今日を期に、カーマもはまっちゃうかもよ!」


「……気を付けます」


「でも大丈夫か? お前みたいな童貞には、少々、刺激が強すぎるかも知れんぞ」


 既に連れて行って貰った事のあるセルドは、上から目線で、俺を心配をしているが大きなお世話だ。


「そんな事言ってるけどよ、俺はお前が女に相手にされてる所、一度も見た事ねーぞ」


「口を慎め、無印童貞よ。同じ童貞でも、俺は、素人童貞だ! お前よりランクは上だ!」


「セルド、お前、大声でそんな事言って恥ずかしく無いのかよ?」


「平然と、無印童貞でいる方が恥ずかしいわ!!」


 セルドが寮中に響く声で叫んでいる中、トーマスが俺の分の招待券を持ったまま、近づいて来た。


「で、どーするんだよ? お前は行くのか、行かないのか」


「え、行きたいよ」


「違うだろ! もっと腹に力込めて、気持ちを乗せてみろ!!」


「だから、行くって言ってるだろ!!」


「違うっ!! もっとだ!! お前のちっぽけな今までの人生、全てを乗っけろ!!」


「急に何のスイッチが入ってんだよ……」


 トーマスが何をこだわっているかは分からないが、せっかく、ゲータさんに貰って、大人への一歩を踏み出すんだ。

 半端な覚悟では失礼だ。


「カーマ!! まだお前の口から聞いてねえ。逝きたいと言え!!」


 乗せる、この一言に俺の人生を。


「生ぎたいっ!!! 俺も一緒に、お店へ連れてって!!!!」


「へっ…………行くぞっ!!!」


「うるせぇから早く出てけや!!」


 フェイさんに追い出される形で、外に出た俺達は、ゲータさんを先頭にお目当ての店を目指す。


 目的地は予想通り、【親知らず通り】であったが、何故か、如何いかがわしいお店は貴族街に面した街の北側に集中している事もあり、馴染みの無い道を進んでいた。


 だが、そんな俺にも、肌感覚ではあるが、近づくにつれて、怪しい店の比率が高くなっている気がする。


「カーマ、さっきは試して悪かったな。俺達は同士だ。共に夜の街を楽しもうぜ」


 俺の叫びを聞いて、トーマスは満足したのか、招待券を渡してくれた。


「そうだな。せっかくだから楽しまないと、勿体ないよな」


「ああ、俺は一回だけ、入隊初日に連れてって貰ったんだが、中々に期待出来るぞ」


「お前、完全に買収されてんじゃねーか」


「買収じゃない、傘下に加わっただけだ」


「変わんねーよ。それより、そろそろだろ。ゲータさん、店の名前って何でしたっけ?」


「今から行くのは、僕の行きつけ、【快楽超特急 どどんぴゅ!】って所だよ」


「大丈夫ですか、その店? 名前からして、何か、きな臭い気が……」


「サービスがしっかりしてるから安心だよ。そんなに気になるなら、他のお店もあるけど、どうする?」


「他ってどういう所があるんです?」


「そうだなー。回数したいなら、【絶倫迷宮】ってとこもあるし、目隠しプレイがしたいなら、【じゅるじゅる回泉】とかもお勧めだけど、初めてが目隠しだと、もう帰って来れない可能性があるからねー」


「危険って事ですか?」


「いやいや、逆だよ。目隠ししないと興奮しなくなったら問題でしょ? それに、僕としても、連れて行った後輩が真っ当な道に戻って来ないと、責任感じるし」


「分かりました。超特急でお願いします」


「うん、それでいいと思うよ」


「まあ、気楽に行こうぜ、夜のロムガルド王国はトライ&エラーだ!」


「「「おぉー!!」」」


 トーマスの掛け声で一致団結した俺達は、その後も、不安を払拭する為に、ゲータさんを質問攻めをしながら、親知らず通りを北に進んでいるのだが、ここで俺は、今まで抱いていた、ある疑問が確信に変わる事となる。

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