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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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あるバイト門番の単騎特攻

 ◇ カーマ視点 ◇


 街の中心部に、一筋のか細い雷が走った。


 どうやら、マワリ―さんは無事にやり遂げた様だ。


 (やっぱり、あの人はカッコいいな)


 俺は、飛び立つ前のマワリ―さん見せた、鬼気迫る表情を鮮明に思い浮かべながら拳を握った。


 (俺も、覚悟を決めなくちゃな……)


 トーマスが再び、敵を食い止めている中、メリサに治療を受けたアーチに、俺は歩み寄る。


「アーチ、アーリアとは会えたか?」


「……まぁね。……あんたにも、一応、礼は言っておくわ。ありがとう」


 アーチは、そう言って、俺の目を見ずに頭を下げた。


「まだ、途中だろ。礼を言うのは早いぜ」


「そうね」


「でも、安心してくれ。……警備長は、俺達で助け出すからさ」


「……親父を……本当に出来るの?」


「……多分な……」


「自信持てよ! ……でも、今日のあんたには期待してるわよ!」


「任せろ! これは、首謀者と同じ部屋に住んでいた俺にしか出来ない事だ。必ず、成功させてみせるよ」


「ヘマするんじゃないわよ!」


 アーチは、俺の肩を力強く叩くと、再び、右の戦場に向かって走り出した。


「トーマス! 俺達も行くぞ!!」


「おう! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――疾風の刃(ウインドエッジ)】!」


 トーマスは、俺の声に応じて、周囲の敵を振り払い、目の前の敵を片付ける。

 そして、戻って来たトーマスと二人で、後方から魔法で援護していたメリサの元に向かった。


「えっ? ……何? 二人して……」


 メリサは、急に近づいて来た俺達を見て、何かを感じ取ったのか警戒を強めていた。


「ああ、急で、申し訳無いんだが……今から、この場所を一人で受け持ってくれないか?」


「えっ!? ……嘘でしょ?……わ、私、回復役だよ?」


 嫌な予想が当たったとばかりに、眉間に(しわ)を寄せるメリサに、俺は説得を続けた。


「知ってるよ。けど、今は、それしか方法が無いんだ。お前にしか頼めないんだ!」


「……そんな事言われても、私だけじゃあ……」


 メリサは、首を縦に振る事は無かった。


 すると、隣で沈黙を続けていたトーマスが口を挟む。


「やれよ、メリサ。……正直、お前が一番、楽な持場だぞ」


「え? ……ふ、二人は何するつもりなの?」


「俺達で警備長を救い出す! ……その作戦には、俺だけじゃなく、トーマスが必要なんだ」


「カーマ君が、警備長を?」


「ああ。あの人が帰って来れば、俺達の勝ちだ。だから、頼む! 少しの間、この場所を守り抜いてくれ!」


「……わ、分かった。……少しの間、だけだからね」


 俺達の熱意が通じたのか、メリサは、最後の一本となっていたワインを浴びる様に飲み干すと、剣を抜き、魔物に向かい合った。


「急げ、トーマス! 馬車に乗れ!!」


 メリサの思いを無駄にしない為に、トーマスを馬車に押し込み、俺もゲホゲホの背に飛び乗った。

 今にも、走り出そうとした時、後部座席のトーマスから、大声が発せられる。


「メリサ!! お前は、自分の役割を誤解している」


「トーマス?」


「お前は、只の回復役じゃない! 第三警備隊のタンクで、ヒーラーで、何よりアタッカーだ! 一人で全部こなして見せろ!!」


「うるさいから、早く行け!! そして、さっさと戻って来い!! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――光の槍(ライトスピアー)】!!」


 メリサが怒号と共に放った光の槍で、目の前を塞いでいたオークが吹き飛び、道が開ける。


「行くぞ、ゲホゲホ!!」


「きゅううううー!!」


 俺は、この機を逃す事無く、ゲホゲホを走らせた。


 最終的な目的地は、前線の遥か遠くに見える、巨人達の足元だ。

 警備長は、間違い無くあそこに居る筈だ。


 だが、幾らゲホゲホの機動力であっても、魔物や亜人が蔓延る空間では、通り抜ける事すら、危険だろう。

 だから、俺達の出せる最高速度で、警備長を迎えに行く。


 その為には、助走が必要だ。


 俺達は、真っ直ぐ警備長の元に向かわずに、壁の外周沿いを半時計回りに走り出した。

 ゲホゲホも、俺の考えを分かっているのか、焦る事無く、じっくりと速度を上げ、裏門の前を通過していた。


「トーマス、準備は良いか?」


 ゲホゲホの引く馬車は、順調に加速を続ける中、正門の前を目前に控える俺は、後部座席で身を乗り出しているトーマスに確認していた。

 俺の立てた警備長奪還作戦には、もう一人、仲間が必要だ。


「ああ。だが、本当にあいつは、いるんだな?」


「ちゃんと、良い漢になって、待ってる筈だ」


 そうこうしている内に正門に差し掛かる頃、目の前には冒険者の一団と、魔物達が戦っている凄惨な現場を目の当たりにする。


「どうやら右側は、俺達の持場より激戦らしいな」


「左もメリサが一人で堪えてんだ。早く行こうぜ。……それにしても、あいつは、何処にいる?」


 珍しくメリサを気に掛けるトーマスは、身体を半分程、車体から乗り出しながら捜索を続ける。


 冒険者達の築く防衛線に近づきながらも、馬車の速度を落とさない様に戦場の合間を縫って躱し、そして、お目当ての人物を見つける。


「居たっ! 壁沿いのあそこだっ!!」


 ようやく見つけた長身の男は、濡れた長髪を掻き揚げながら、引っ越し屋のガバガと共に、重傷者を運び終えている所だった。


「セルド!! 約束通り迎えに来たぞ!! 乗れっー!!」


 馬車をギリギリまで壁沿いに寄せた俺は、セルドに呼び掛ける。


「カーマ! ゲホゲホ! トーマスまで!」


 セルドは俺達を見つけると、ガバガの隣で、自らの存在を主張する様に手を振り出した。


「セルド!! 俺の手に捕まれー!!」


 身を乗り出していたトーマスが、セルドに向けて、目一杯手を伸ばす。


「おうっ! ……ガバガ、ありがとな! お互い、無事に生きてたら、後で乾杯でもしようぜ!」


「乾杯だけじゃねぇ、朝まで飲んでやるよ! だから行って来いよ! そして、ブチかまして来いよ!!」


 ガバガに背中を叩かれたセルドは、トーマスの伸ばした手に向かって走り出した。


「セルド! 跳べー!!」


「おらぁああーー!!」


 叫びながら馬車に向かって跳び込んだセルドを、トーマスが両手でがっしりと受け止める。


「成功だ!! カーマ、配置に着くぞ!」


 セルドを車内に引き摺り込んだトーマスが、次の動きに備えて動き出す。


「ああ、セルドは、ゲホゲホの手綱を引いてくれ!」


「きゅう!」


 俺は、乗り込んだばかりのセルドと代わり、トーマスと共に車両後方の荷台に腰掛ける。


「わ、分かったけど、急に何すんだよ?」


「俺達で警備長を助け出す。やり方は、直ぐに分かる筈だ。……【憑依(ひょうい)――ゲホゲホ】!!」


「きゅうううーー!!」


 ゲホゲホの足元に炎が灯り、一段と速度を上げながら、正門前を通過する。


 正門前を爆速で走り抜けた際、亜人と引き続き交戦中のルートさんに、変な目で見られた気がしたが、多分、気の所為だろう。


「カーマ、分かったぜ!! つまり俺は、ちり紙を用意してれば良いって事だな?」


「そういう事だ! 後一周で、最高速度に上げて、敵陣に突っ込むぞ!!」


「…………なぁ、お前ら? 失敗したら俺達はどうなる?」


「間違い無く、即死だな」


 作戦を把握したセルドの問いに、間髪入れずにトーマスが答える。


「だよな。……だったらよー、こんな時だからこそ、最後に皆で、奇跡の爆乳を揉んでおかないか?」


「お前な……こんな時に――」


「良いだろう!」


 セルドの馬鹿げた提案に、トーマスは考えるまでも無く乗り気の様だ。


「トーマス、お前まで!」


「カーマ、死んだら一生、揉めないんだぞ? それでもお前は揉まないのか?」


「……分かったよ! 俺もせっかくだし、やるよ!」


「……やるよ……じゃねーだろ? 揉みたいです! って、腹から声に出して言ってみろ!」


 提案しておきながら、何故か俺に厳しいセルドは、馬車の中で俺を捲し立てた。

 まぁ、こんなやり取りが出来るのも、最後かもしれないから、一回位、乗ってやろう。


 向かい風が吹き荒れる中、大きく息を吸って、宣言する。


「俺は、奇跡の爆乳を、揉みたいです!!!」


「「おぉーー」」


 二人が、俺の宣言を聞いて拍手をくれている中、視界の淵では、一人で懸命に戦うメリサの姿が目に入った。


 しかし、その顔には、いつもの可愛らしい笑顔は無く、地面に転がったオークでも見る様な目で、こちらを睨みながら、何かを訴えていたが、多分、気の所為だろう。


 無事にメリサの奮闘する左の戦場を越えた所で、俺達はさらなる加速を行う。


「カーマ、合わせろ! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――暴風エアサイクロン】!」


「ゲホゲホ、頑張れよ! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――火炎噴射フレイムジェット】!」


 トーマスが馬車の後方に発生させた暴風に向けて、俺が火炎を噴射する。

 すると、ゲホゲホの引く馬車は、今までに無い程の爆発的な加速を見せた。


「「「うおおおおおおー!!!」」」


 俺達は、馬車に捕まりながら、全身に吹き付ける激しい向かい風を堪能する。


「行け―! 風の如く!! 馬界の戦士ーよ!!」


 トーマスが知らない歌を熱唱する中、混合出力を使った加速で、あっという間に裏門の前を駆け抜けると、俺達は手に大量のちり紙を持って、猛烈な向い風が吹き付ける車体の外に、手を伸ばす。


「「「うおおおおおおーー!!!」」」


 大量のちり紙に吹き付ける猛烈な向かい風は、俺達の手の中で、確かな奇跡を起こしていた。


「「「これが、奇跡の爆乳だぁー!!!」」」


「きゅうううーー!!」


 ゲホゲホが俺も混ぜろと言わんばかりに、甲高い声を上げる頃、目の前には、もう一度、右側の戦場が差し迫っていた。


「トーマス、そのまま荷台で加速を頼む! セルドは、俺と変わって後部座席に! ゲホゲホ! 俺達を信じて、誰よりも早く平原を駆け抜けろ! 行くぞ、お前ら!!」


「「おう!」」


「きゅう!」


 俺は、セルドと代わってゲホゲホの手綱を握ると、進路を壁沿いから、右に転換する。


 右の戦場を迂回して、中央の最前線にいる警備長まで、最高速度で一気に駆け抜ける。

 これが、俺の考えた唯一の突破法だった。


 だが、そんな最善策の中で、一つ気になる事もあった。


「セルド! お前が警備長を直接助ける事になる筈だ。かなりの重さだが、片手一本で行けるか?」


「カーマ、今更何言ってんだよ。何の為に俺が、早朝に特訓を積んで来たと思ってる? ……何の為に、俺がクソ重たいあの人を、壁の上で持ち上げて来たと思ってんだ! ……警備長の言葉を思い出せっ!!」


「特訓の時、警備長が何か言ってたか?」


「地道に積み上げて来た物はな、時として、無理を無理やりに変えるんだよ! 今がその時なんじゃねーのか!!」


「だな! セルドの言う通りだ。だがな、くれぐれも無理はすんなよ」


「ああ。後は、先輩の俺に任せて、お前は前だけ見てな」


 俺は、セルドに言われた通り、爆走を続けるゲホゲホの舵取りに専念した。

 迫りくる魔物達の襲撃をゲホゲホと共に掻い潜り、そして、巨人族が待っている目的地を肉眼で捉える事に成功する。


 相手の数は、一体でも圧倒的な威圧感を与える巨人が八体。


 そして、その足元では、紫色のドームが、一際不気味な光を放っていた。

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