69.組合長の真意【王都】
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「魔石はそれぞれ効力を相乗したり、打ち消しあったりしているんです。」
私は組合長に仕切り直されながらも、火照る顔をなんとか平常に保とうと、必死で魔石のことに集中する。
「わしも、長年魔術具を作っておるから、感覚的にそれは感じておる。金剛魔石と青金魔石は相性がよい。真紅魔石と深緑魔石も相性が良いが、逆に金剛魔石と深緑魔石は相性が悪い。そうじゃろう?お嬢さん。」
「ええ。それには理論があります。まず、金剛魔石と青金魔石の能力の正体は、分子間力、わかりやすく言うと結合力です。」
「結合?」
「そう。水分子、つまり小さな水の塊同士を引き合わせる力…と思っていてくれたら。同じように金剛魔石も、小さな砂を引き合わせています。金剛魔石はそれ自体が引き合わさった結果とも言えますが…。」
「では風と炎はどうだ?」
「その二つは、逆に分散する力です。特に炎の真紅魔石は、何かきっかけを与えると、反発するように光が分散し、同時に空気中の分子が振動します。風の深緑魔石も同じです。」
「ほっほっ。なるほどのぉ。結合する力と、分散する力とな?魔石の力をそのように考えたのはお嬢さんが初めてじゃないかな?」
「そうでしょうか…?」
「ふぅむ。結合というイメージから、氷になったのかい?」
「ええ。」
私がそういうと、セレンとジェラルドが「ん?」と言う顔をした。
「まさか…魔術師大会でリヴィエールの生まれ変わりだと言われていたのは君か?」
「リヴィエールの生まれ変わりの見習いは絶世の美少女だと聞いたわ?あなたがそうなの?今のあなたはそんな感じに見えないけれど…それこそどんな魔術を使ったのかしら?気になるわ!」
セレンとジェラルドに詰められ、私は「しまった!」と思った時にはすでに遅かった。ルカをはじめ、マルクスやゴンザレスも「しまった」という顔をしていた。
「話が逸れておる。レティシア嬢、続けて。」
組合長は、話を無理矢理、魔石に戻した。セレンは不服そうだが、この場で面と向かって組合長に逆らう人はいない。
「えぇーっと。はい。つまり、結合する力と分散する力が均等になった時、分子を動かす力は打ち消し合うのでは?と考えてます。」
「レティシアちゃんは、魔力の四つのエレメントが合わさった魔石だと考えているのね♡」
「そうです。」
ゴンザレスが、腕をくんで考え込んだ。
他のメンバーも、何かを考え込んでいる。「本当にそんな魔石があるのか?」と表情は曇っている。
「理屈はそれで間違っていないとしよう。だが、果たしてその全てのエレメントを含んだ魔石がどこで取れるのか?もしくは人工的に作ったのか?と言う事だ。」
組合長が淡々と言う。
「これは各々の宿題にしよう。ここにいる魔術師は幸いな事に、それぞれのエレメントで名を馳せた魔術師で、口の固い魔術師だな?」
組合長が張りのある声と共に、部屋にいる全員をぎろりと睨みつける。
電流のような緊張が背中に走り、皆が口々に「はっ。」と言いながら、組合長の部屋を後にした。
「ルカ、ちょっと残れ。」
ルカだけは組合長に呼び止められた。
「なんだ?」
ルカは扉の前で立ち止まる。
他の人は退出し、部屋には組合長とルカの二人となった。
「ルカ、なぜレティシア嬢についてきた?」
「守れと言ったのはばあさんだろ。」
「…そうだな。だが、それを言い訳にしていないか?。以前にも言ったな?レティシア嬢は第一公女だと。」
「だが、婚約が控えているとは言ってなかったな?相手はどこのどいつだ?」
「……帝国の第二皇子だ。」
「あいつ……!」
突如、ルカの足元に風が吹き始め、組合長室の書類がバタバタと舞い上がる。
「…だからお前には言いたくなかったんだ。」
組合長は、舞い上がる書類を気にすることもなく頭を抱える。
「レティシアはバレンティンと婚約するのか?レティシアが魔術師になろうとしているのはなぜだ?」
「レティシア嬢はもともとエリザベス公女から命を狙われ、婚約式までグンデバルの離宮で過ごす予定だった。だが、途中で何者かに襲われ行方不明となった。オズワルドが言うには、レティシア嬢が自分の意思で逃げ出したのだろうと。」
「理由はわからないが、婚約をする気はないという事だろう。俺もレティシアが帝国に行って幸せになれるとは思えない。」
怒りのピークは過ぎたものの、未だにルカの足元では、小さな竜巻が生じている。
「お前がなんと言おうとも、レティシア嬢の婚約式は執り行われる。これは外交なのだ。一介の魔術師がどうにかできる問題ではない。お前も我が国の逼迫した情勢くらい知っているだろう?」
「外交問題というのはわかる。だが、レティシアが自ら婚約の解消に向けて動くことは組合長の介入できる問題じゃないだろう?」
「…その通りだな。たが、一筋縄ではいくまい。公王陛下はレティシア嬢をなんとしても帝国との交渉材料にするつもりだ。組合は表立ってそれに反抗はできない。お前もわかっているな?」
組合長は、ルカに対して、案に「お前は動くな」と釘をさす。
「……わかっている。」
「レティシア嬢に惚れているようだが、どういう心境の変化だ?レティシア嬢を王都に連れ帰らなかったのは、エリザベス嬢の目から逃れられる場所であることが重要であったからだ。妙齢の男女が同じ塔で暮らしている関してはルカにとって問題になるはずもないと陛下には進言させてもらった。陛下には言っていないが、ジャンマルコもいた事だしな。」
「あぁ。昔の俺ならそうだっただろう。レティシアは今まで俺が出会った女たちと違う。……レティシアは、魔術や庶民の生活に対して疑問に思うと、周囲を頼ったり助けたりすることを通して、自分なりの解釈を積み上げていった。その結果が、あの氷の魔術だ。俺は、魔術に関する自分の解釈が理解されないと、駄々をこねてカナリアに引きこもっていただけだったと反省した…。」
「……お前がそこまで執着するものが、なぜ、よりにもよってレティシア嬢なんだ?と思っているよ。ただ、お前がレティシア嬢に惚れていようがいまいが、彼女は婚約する。」
「阻止するさ。レティシアは渡さない。」
「ルカ。今回、レティシア嬢を王都に呼び戻したのは公王陛下だ。魔術師大会でルカとレティシア嬢の関係値が深まっていることに気がついたオズワルドが、陛下に進言した。お前の油断がこの件を招いたんだ。」
「…そうだな。」
「守る方法を間違えるな。レティシア嬢は帝国に嫁ぐ。お前はカナリアに帰れ。」
「嫌だね。俺は俺の好きにするさ。組合には迷惑をかけない。それは約束しよう。」
「…ルカ。私はお前が不幸になればいいとは思っていない。お前は嫌がるかもしれないが、これでも親代わりのつもりだ。だから…公国の情勢も考えて行動しろ。組合には迷惑をかけるな。これは絶対だ。」
「あぁ。」
そういうと、ルカは組合長の部屋を出た。
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