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カナリアの弟子〜1年後の婚約式が嫌なので逃げ出します〜  作者: 佐藤純
第五章:ガルシア領

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68.魔石研究会【王都】

Twitter(X)リンク:https://twitter.com/jun_satoh_novel

黒い魔石の会議は、組合本部のホールで行われた。

会議に出席する面々は、組合長、ゴンザレス、マルクスおじいさん、ルカ、私、そして、初めて会う魔術師が、二人いる。一人が若い男性魔術師で、一人が小柄な女性魔術師だ。


「これが、レティシア嬢につけられた黒い魔石だ。」

そういって組合長が言うと、ゴンザレスが箱を持って来た。ゴンザレスがみんなに見えるように小箱をあけると、手錠から石だけ外された二つの魔石が入っている。


「これは、バローロという盗賊団が持っていた。魔力を吸い取る魔石だ。」

組合長がこの魔石の説明を始める。

「ふむ。本当に魔力を吸い取るのかい?」

「バローロというのは帝国から来たのでしょうか?この魔石が流通すれば、我が国の防衛力が弱くなります。」

「なぜ大会では見習い魔術師が狙われていたの?そういえば、今日はオズワルドは?」


魔石の現物が出てくると同時に、皆が好き勝手に話し出した。

魔石にしか興味がないマルクスおじいさんがおかしいだけで、他の人は魔石を持ち込んだ集団に興味をむける。

小柄な女性魔術師は、国防にかかわるとして宮廷魔術師であるオズワルトの席を探したが、オズワルトは来ていなかった。


「オズワルドは別件で王城が立て込んでおる。」

「あぁ、あの引きこもり公女様の婚約式だったかしら?」

「セレン。我が国の公女だ。お前も貴族なら、立場をわきまえろ。」

組合長にたしなめられた、セレンと呼ばれた小柄な女性魔術師は、悪気はなかったようで「それ必要?」と返していた。


(組合長、セレンさん、レティシアの評価はそれでだいたいあっています…!)

イエールというど田舎では、まったくもって公家の話題なんて出なかったのに、王都では公家のゴシップや状況が、市井にも広がっている。

レティシアが引きこもり公女という揶揄を久しぶりに聞いたが、やはりぐうの根も出ずに正論である


(やっぱり王都だと、私のことに興味を持つ人が多いのね。しっかり変装の魔術具で顔を変えていてよかったわ。ルカに感謝ね。)

私は、新しい顔が変ではないか、ほほを触って確かめる。


「それで?バローロと、さらわれた見習い魔術師たちについては、何かわかっているでしょうか?」

壮年の男性魔術師が少し青ざめたように繰

「捜索範囲を帝国にも広げ、秘密裏に調べているが…難航している。帝国領土は向こうの庭だからな。ねぐらの痕跡を見つけただけだ。」

「そうか…それではもう…無事ではおらんかもな…。」

マルクスおじいさんが、悲しそうに首を振った。


「そうとも限らないわよ♡」

ゴンザレスが、黒い魔石を見ながらつぶやく。

「どういうことだ?」

「まずは、この会の目的を達成しましょう♡この魔石はなんなのかしら?♡」

「何って…。」


ジェラルドとセレン、マルクスがじっと魔石を見つめる。

「触ってみてもよいかの?」

そういってマルクスが魔石を引き上げて、魔力を流してみる。

「ほう…?吸われていく。ツァーリと同じ感覚があるが、引っ掛かりがないのお?」

「そうだ。ツァーリの場合は、どこかでツァーリの魔力飽和を覚えるが、この魔石はそれがない。」

「限界はどこかにあるはずよ。貸してみて。」

セレンがマルクスから魔石を受け取り、魔力を流す。

しばらく無言で魔力を流していたが、セレンは「ふーっ」とため息をついて魔石を小箱においた。

「……この魔石の大きさならここまでなのに、って感じるところはとっくの昔に超えたわ。」


どうやら魔石は、もともと魔石が持っている魔力もあるし、魔術師が魔力を流して容量を増やすことができる、ということなのだろう。

そして結界石のように、大きければ大きい程、性能が高く、容量が大きくなる。


「私もやってみたが、魔力飽和の抵抗がない。そしてまだ魔石の能力がわかっていない。」

「水の魔石である青金魔石は、水の操作や冷却ができるわ。火の魔石である真紅魔石は炎の生成と操作、そして加熱ね。」

「そうですね。そして、深緑魔石は風の生成と操作、金剛魔石は土の操作…。これはなんでしょう。」

「魔力を溜め込むだけ溜め込むのが能力かの?」


全員が「うーん」と唸っている。

私はそわそわしてきた。


(私って発言していいのかしら?この場に呼ばれたんだからいいわよね?)


「あの…」

私はおそるおそる、手を挙げる。


「なんだ?いいぞ。」

組合長が発言を促してくれる。


「魔石はそれぞれ、効果を打ち消します。」

「なんだと?!」

ジェラルドが大きく声を上げ、こちらを睨みつける。

彼の声と表情から、私は歓迎されていないと感じた。


「そもそも君は、この場にいるのは相応しくないだろう?先ほど捕まった時の状況は聞いた。邪魔だから退出した方が良いのでは?」

「ジェラルド。最後まで話を聞いてみろ。」

「…ルカ。貴様は貴様で、呼ばれてもいないのにのこのことやってきたのか?そこの弟子を連れて帰って行ったらどうだ?」

「組合長に言ってくれ。」

ルカは気だるそうに、ジェラルドからの視線を受け流す。

セレンはそれを見てケラケラと笑った。

「ジェラルド、エリーを取られたからってルカにあたるのやめてよ。」

「なっ…!あたってなどいない!それにルーベルト嬢は関係ないだろう!」

「気にしなくていいわよ、ルカ。ジェラルドはエリーがルカに取られたことも、エリーが袖にされていることも気に食わないんだから。それに、エリーを差し置いて、そこの弟子にぞっこんなのも気に食わないのよ。」

「セレン!」

ジェラルドは声を荒げるが、私はそれよりセレンの言葉に驚愕する。


(ちょっと待って、ぞっこんって何?!)

そして、私は思わずルカを見る。


「あら?彼女のその反応だと、まだエリーに勝ち目はあるのかしら?」

セレンは首を傾げながら私をじーっと凝視する。


「セレン、それはない。」

ルカは私の視線は無視して、セレンに向かって答える。

「そうよね、それにしても、あのルカが選んだ子が、こんなに冴えない子で驚きだわ。ジェラルドじゃなくても不満に思う子が大量にいるわよ。」

セレンはルカと会話しながらも私から目を離さない。私はそんなに凝視されるとは思わず、たじたじしてしまう。


「ほっほっほ。そうじゃろ、そうじゃろ。」

「なんでマルクスおじいちゃんが、自慢げなの?」

マルクスが自慢に思った部分は、魔術具の性能に関してだろう。


「あの、ルカは私にぞっこんではないし、ルカと私はただの師匠と弟子で、そんな関係ではないんです。」

私は、王都に来てから起きている様々な誤解を今こそ解く時だ、と思って声をあげる。

半分は自分に言い聞かせるように、半分は事実として私が認識していることを淡々と告げる。

ルカが私にぞっこんだったことがあるだろうか?スカーレットやパウラ、クロエ、はたまた街の女性達と比べてもルカが、特定の誰かにぞっこんだった気配はない。

毎日、弟子三人のいささか過激な修行をして、ジャンマルコとクロエが作るご飯を食べて、午後は自室にこもったり街へ行ったりして、またご飯を食べる日々だ。どこにぞっこんの欠片があったのだろうか。


私はそんなことを考えながら、今までの話が誤解であることを告げると、組合長以外の人間がぎょっとした後に、ルカを見て不憫そうな顔をする。


「うーん、セレンが代表して言うけど、ルカは女性と二人きりには絶対ならないわ。」

「……弟子だからと言って先ほどのように庇うこともない。」

「そうね〜♡そんな優しそうな声なんて聞いたことないし〜♡いつも不機嫌なのよ?」

「ルカが誰かのためにわしに頼みこむことなど…うぉほん。」

ジェラルド、ゴンザレス、マルクスが口々にルカについて意見を述べる。


ルカは、どんどん眉間に皺が寄っていき、最終的には「ふん」と言って部屋の端にある応接スペースにある椅子にどかっと座り、そっぽを向いてしまった。


私はそんな状況の中で、どんどん顔がほてってくるのを感じた。

(ちょっと待って…!ルカは私の事が…好きなのかしら?!なんで?!)


「何やら進展があったようだが、話を元に戻してもいいだろうか?ルカ、不貞腐れていないでお前も参加しろ。」

組合長がとうとう口を開き、ルカと私の公開処刑が幕を閉じた。

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