67.精霊の秘密【ガルシア】
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「お祖父様、調べることとは?」
スカーレットがギルバートに問いかける。
「うむ。やはりフェンリールが山を降りてきたことが解せない。だが、夜も遅い。スカーレット達はもう寝るのだ。」
「うん、僕…眠い…。」
パウラはそう言ってガクンと電池が切れたようにくぅくぅ寝てしまった。クロエがすかさず受け止めて、パウラを寝室に運ぶ。
「お祖父様、わたくしもフゥの帰りを待ちますわ。」
「明日にしよう。そうだな…やはりわしも寝ることにするよ。いいね、スカーレット。」
ギルバートにそう言われると、スカーレットは何も言い返せない。一人前として認めてほしいスカーレットにとって、今回の戦いは援護しかできなかった事が悔しかったのだろう。何かを言いたげだったが、最終的には寝室に行くことを同意した。
「じいさん。ちょっといいか?」
「なんだ、ジャンマルコ。」
弟子達がそれぞれ部屋に帰ったあと、ジャンマルコがギルバートを呼び止めた。
「スカーレットちゃんの事なんだが…なぜスカーレットちゃんをカナリアに預けたんだ?今日の戦いを見て改めて思ったが、じいさんのもとで修行した方がいいんじゃないのか?」
「…そうじゃな。」
「どうしてもカナリアでなければならない理由があったのか?」
「…ああ。」
ギルバートは歯切れ悪く、答える。
「じいさん!スカーレットちゃんは悩んでいる。カナリアでも真面目に修行していたし、魔術の腕も上がった。そりゃ最初はちょーっと高慢だったが…今では街の人たちともうまくやっている。だが、スカーレットちゃんが一番達成したいことは、ガルシアの後継者としてじいさんから認められることだ。何か隠しているなら教えてくれ。」
「…そうじゃな。だが、スカーレットが自分で気づかねばならんのじゃ…それに、これは推測がおおいに占める。」
「俺には教えてくれないか?何かこっそり手伝えることがあるかもしれない。もうすぐ正魔術師試験が迫っている中で、最近のスカーレットちゃんは見ていられない。」
「ふぅ…いいだろう。どちらかと言うとルカに期待しておったが。わしの目論見が外れておる。」
「ルカ?」
「ジャンマルコよ、サラマンダーの使役に関する条件を覚えておるか?」
「あぁ、ウラカヌス山で二人で激しく修行する、だろ?」
「そうだ。わしは妻を、先代も妻と共に修行しておる。」
「男女ということが条件なのか?それだとじいさんとスカーレットちゃんでも条件を満たすだろう?」
「そうだな。決定的な違いがある。わしは妻であるマクシミリアンと共に山に修行に行った。昔話になるが…その当時はフゥを使役できなくてもよいと思っていた。父は若かったし、わしにとってはマクシミリアンに負けてばかりの勝負に、どうやったら勝てるかを考えている方が楽しかったからな。」
「ばあさん、強かったもんな…。」
「次期当主としての自覚が薄かったわしを心配して、父はわしとマクシミリアンを山で修行させたんじゃ。当時、山を荒らしていたビーリュを討伐する課題と共にな。」
「ビーリュか…。やっかいな魔獣だな。」
「三日三晩戦った。わしもまだまだ未熟だったからな…。マクシミリアンと共に交代で、背中を守ったもんじゃ…。」
「じいさん、話がそれてないか?」
「いや、逸れておらん。そこでわしはマクシミリアンに恋をした。」
「…?俺は何を聞かされている?」
「最後まで聞け、ジャンマルコ。普段は負けてばかりだったから気が付かなかったが戦うマクシミリアンは美しく、綺麗だと気がついてな。戦いの最中にも関わらず口説き落としたんだ。」
「何やってんだ?じいさん。」
「すると、フゥが異様に喜んでの。キュルキュルと駆け回りながら、わしの魔力を吸収したかと思うと、あの姿になってビーリュを追い払ったんじゃ。」
「…。ウラカヌス山で二人で戦ってるから、条件は満たしている。じいさんのその状況に何かヒントがあるということだな?」
「そうじゃ。わしは、恋をすることが重要なのだと考えとる。」
「恋?!恋って…あの恋?ルカが振り回されているやつか?」
「ルカが振り回されているのは執着と言えなくもないが、まぁ…そうとも言える。つまり、相手を強く想う気持ちが必要なんじゃないかと思うとる。」
「恋か………じいさんもしかして、ルカとスカーレットちゃんに恋をさせようと送り込んできたのか?!」
ジャンマルコはびっくり仰天してギルバートの顔を見る。ギルバートは後味が悪そうに顔を背け、ため息をつく。
「ふぅむ。そのつもりだったんだが…。なかなかうまくいかないもんじゃな。スカーレットは強くて美しく育ったが、少々真面目すぎる…。スカーレットも魔術馬鹿じゃからルカと相性が良いと思ったのと、ルカのことについても、わしは心配しとった。あやつは自分の中身を見てほしいと思っているが、外見がそれを邪魔しとる。スカーレットなら、外見に惑わされずにルカに接することができると踏んだんだがなぁ。」
「……初対面は二人で喧嘩腰だったぞ?」
ジャンマルコは、スカーレットとルカの出会いを思い出して遠い目をした。
「……わしとマクシミリアンも、最初は仲が悪かったからな…。ただ、ルカはレティシア嬢に惚れとるな。」
ギルバートは顎髭をなでながら、困ったような嬉しいような、複雑な表情をしている。
「あのようなルカは初めて見ることは嬉しい。ただ、その対象がわしの孫じゃなかったことは残念だ。」
「まぁ、ルカは変わった。それがレティシアちゃんの影響だというのも否定しない。ただ、出会う順番が違っていたら、結果も違っていたかもな。」
「それもスカーレットの試練だ。スカーレットには幸せになってほしい。ちなみに、ジャンマルコよ。わしは何もルカだけを目当てにカナリアへ行かせたわけじゃないぞ。」
ギルバートはジャンマルコを見てにやりと笑う。
「お、じいさん。それは本気か?」
ジャンマルコは少し目を見開いて、ふむ、と考え込む。
「わしは、ルカと同じようにお前も息子のように思っとる。お前のことも心配している、という事だ。それに、いつまでカナリアにいるつもりだ?」
ギルバートは、声を落として静かに聞く。
「………ルカが離れない限り、あそこにいるつもりだ。今は弟子たちが試験に合格して一人前になるまでは確実にカナリアにいるが…その後はどうするのか聞いていない。ルカが何か行動を起こさない限り、ずっとカナリアにいるさ。」
「そうか。お前たちには幸せになってほしいんだが。」
「何が幸せかなんてわからないさ。俺はあそこにいた時より今の方が楽しいよ。それに…今からはもっと楽しくなるさ。保護者からのお墨付きももらったしな。スカーレットちゃんを口説いていいって言ったな?じいさん?」
ジャンマルコは、にやりと笑う。
「口説いていいとは言っておらん。幸せにしてほしいと言っておる。お前はスカーレットの事が好きなのか?」
「ん〜。俺の複雑な立場とか、相手に背負わせる運命とか、そんなことをぐちゃぐちゃ考えなくていいって言われたら、好きだと伝えたいくらいには、ね。」
「もしスカーレットがお前の事が好きになったのなら、スカーレットはきっと何も気にするまい。あの娘は強い。」
「あぁ。カナリアにきて、もっと強くなったと思う。」
「そうか。」
ギルバートとジャンマルコは目を見合わせて軽く笑う。
「あーあ!もう後戻りできないじゃないか。俺は今のカナリアが好きだったのに。」
ジャンマルコは、観念したように大袈裟に天を仰ぐ。
「ジャンマルコとスカーレットが恋仲になると何が問題があるのか?」
「なんだろうな。ルカと二人で静かに暮らしてて、そこに弟子が三人と、クロエちゃんがやってきて。みんなそれぞれ夢や目標があって、魔術にひたむきで、それに優秀だ。その環境は、ルカが特別扱いされなかった。もちろん師匠としては特別だったが、誰も魔術以外のことでルカを評価しなかったし、誰もルカの魔術を特別だと思っていなかった。むしろ自分にも手の届くレベルだとさえ思っている節がある。そんな事、王都じゃありえなかった…。ルカが他人と交流するようになって、俺もなんとなく肩の力が抜けたんだ。」
「ほう。よい時間だったんじゃな。」
「そうだ。レティシアちゃんは変わっている。きっと、ルカはレティシアちゃんのそこに惹かれたんだろう。本人は気がついているか微妙だけど。」
「気がついてると思うがの。あれも男だ。」
「パウラちゃんも、物静かだが一生懸命だ。レティシアちゃんやスカーレットちゃんを姉のように慕っている。スカーレットちゃんも、最初こそ周囲に敵意を振り撒いていたが…。」
ジャンマルコは来たばかりの頃のスカーレットを思い出して笑ってしまう。ひどい扱いだったものだ。
「師匠として頼りないルカに代わって心配を振り撒いているうちに、壁も溶けていったのさ。正義感が強くて、周囲を放って置けなくて、プライドも高くて、彼女は凛々しいな。」
「そうだろう?自慢の孫娘だ。」
「ああ。スカーレットちゃんが俺と同じ気持ちだったら、本当に俺にチャンスはあるのか?じいさん。」
「もしスカーレットがジャンマルコを想っておったら、わしが許可するしないに関わらず、スカーレットは自分の意思を貫くじゃろう?」
「ははっ!そうだな。ありがとう、じいさん!生まれて初めて自分の気持ちに素直になれた気がするよ。」
「何度でも言うが…わしはルカもスカーレットもお前さんも、子供のように想っとる。わかったな?」
「ああ。」
ジャンマルコ…!いつのまに!
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