64.ルカの失態Ⅱ
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「あっ…。」
ルカは、私の言葉を聞いて、しまったという顔をした。
「すまん…あの時は…どうかしていた。ワインがダメだったな…。いや、言い訳だな。」
ルカは、みたこともないほど赤くなったり青くなったりしながら、最終的にしゅんとして、どんどん口数が多くなる。
最終的には「ふーっ」っと大きなため息を吐くと、「…今まで謝ることができずに悪かった。」と頭を下げた。
「待って、なんで謝るの?」
「酔っ払っていたとはいえ、不快にさせてしまっただろ。俺が…その…今まで女にされてきた事と一緒だ…。」
ルカは頭を下げたまま動かない。
「い、嫌じゃ…なかったわ。」
私は、どう答えたら良いものか迷ったが、今度は頭で考えるより先に、口から言葉がでてきた。
ルカが恐る恐る顔をあげ、私を見る。
「嫌じゃなかったか…?」
「ええ…そう…!カナリアのみんなは家族みたいなものでしょう!だから全然、不快じゃなかったわ。少し驚いたけれど、酔っ払っていたし…ルカの意外な一面が見れたと言うか…。つまり、気にしなくていいわ!!」
私は、偶然にも上目遣いになっているルカに心臓を壊されそうになりながら、自分が何を言っているのかわからなかったが、ルカを立ち直らせようと必死に言葉を探す。
「そうか……家族…。」
ルカは先程までの申し訳なさそうな顔から一転して真顔になり、家族という言葉を反芻した。
「そう!家族!」
「なるほど、家族だな?」
ルカは、いつもの傲岸不敵な顔に戻り、「くっく」と笑う。
「もしかしたらルカの本物の家族とは比べものにならないかもしれないけれど…。」
「俺の家族と呼べるのは一人だけだ。他はいない。」
「そうなの…?」
「それより、見せ物じゃないぞ、じいさん。」
横を見ると、マルクスおじいさんが、お茶を飲みながらじーっとやりとりを見ていた。
「ほっほっほ。お前さん、そんなに多彩な表情ができたのか?生い先短い老人に良いものをみせてくれてありがとう、お嬢さん。」
「ど、どういたしまして…?」
私はこのやりとりを見られていたんだと思うと、急に恥ずかしくなった。
「二人の問題が解決したんじゃったら、早く組合本部に行って来い。いい部屋が埋まってしまうぞ?」
「そうだな。そろそろ行くとしよう。フルーテは借りていく。あと、俺の弟子に一人、ゴーレム使いがいるんだ。また会わせる。」
「なに?ゴーレム使いだと…?お前さん、まだ弟子がおるのか?」
「あぁ、じいさんと同じ硬化ゴーレムを作り出せる。しかも10歳前後だ。」
「なっ…!わしがあの硬化ゴーレムを作り出すのにどれくらいの年月がかかったと思うとる。それを10歳じゃと…?お前さんとこの弟子はどうなっとるんじゃ、まったく…。」
マルクスおじいさんは、今日一番興奮した声をかけて出して、驚いた。
「また会わせるさ。ついでで申し訳ないが、ガルシアのじいさんに手紙を送るなら、俺たちが王都にいることも書いておいて欲しい。」
「わかったよ。」
私とルカは、マルクスおじいさんの店を後にした。
――――――――――――
東の果てのお店から西の果ての本部にいくまで、王都を1時間ほどかけて歩いた。
ようやく組合本部につくと、足がへとへとで、あたりは暗くなっていた。
「これからどうするの?」
「まずはババアへ会いに行こう。」
そう言いながら、本部の門をくぐる。
もう日が沈もうという時だったので、王都の依頼を片付けた魔術師たちが、ロビーにたむろしていた。
皆、ルカがロビーに現れると、ざわざわとする。
「ルカだ。本部に来るのは珍しいな。」
「連れているのは誰だ?こないだの大会での弟子とは違うようだが…。」
「あいつに弟子がいるのか?」
「知らないのか?ガルシア嬢と、すげぇ美人が一人、あとは子供だ。」
「なんだそりゃ?」
「女三人だったもんだから、ルーベルト嬢が怒り狂ってたよ。」
「あのルーベルト嬢が?」
同じような噂話が、そこかしこで聞こえてくる。
だが、私たちはそれらを無視して最上階にある組合長の部屋へと向かった。
「組合長。俺だ。」
「入れ。」
短い返事と共に扉の隙間から風が通り抜け、勝手に開く。
あまり大きくない部屋の中心にデスクが置いてあり、そこに組合長が座っていた。周りは本棚で囲まれ、書斎という感じの部屋だった。どことなく、カナリアの私の部屋に似ている。
「私が呼んだのはレティシア嬢じゃなかったか?」
「すいません、組合長。私、レティシアです。ここに来る前にマルクスお祖父様ところへ寄って少し変装を…。」
「…なるほど。変装しなければならない理由があるのか?」
「魔術師大会でレティシアは目立ちすぎた。」
ルカは表向きの理由を答えてくれる。
「…わかった。エリーも常駐していることだし、そちらの方がいいだろう。」
(あぁ…エリー嬢に会う可能性があるのね。)
私は、一気にめんどくささを感じたが、変装の副次的な効果を得られそうで少し得をした気分になった。だが、会わないように願っておこう。
「では次の質問だ。私が呼んだのはレティシア嬢だけではなかったか?」
組合長がじろりとルカを見る。
「師匠である俺がついてきて、何か問題があるのか?」
「…今回レティシア嬢を呼んだのは当時の誘拐の状況を含めて検証が必要だと判断したからだ。ルカがいても何もできんだろう。」
「そうかな?いてもいなくてもいいなら、いてもいいんじゃないか?」
「……。」
組合長とルカはお互いに睨み合ったまま、言葉を発しない時間が続く。
「…いいだろう。ルカも明日の会議に参加することを認める。参加者は組合幹部と、マルクスだ。」
「あぁ。当然だ。」
「今日はどうするんだ?残念ながら本部の宿舎にはレティシア嬢の部屋しか確保できていない。」
「他の部屋は空いていないのか?」
「いないな。」
「じゃあ俺は宿をとろう。手持ちの金がないが、本部のツケでいいか?」
「…問題ないが、問題はそこじゃない。今、王都の宿はほぼ全て満室だ。」
「ほぼ全て満室??どうしてだ?」
組合長は、腕を組んで天を仰ぎ、少しの間何かを考えたあと、ルカに答えた。
「もうすぐわが国の第一公女の婚約式がある。それにともなって、多くの行商人が入ってきているのだ。」
「婚約式…。」
ルカはそう呟いた後、黙り込んでしまった。
それより私は衝撃的な事実を知ってしまった。
(お父様はまだ私が生きていると確信していて、探しているんだわ…!そして、何がなんでも婚約式に間に合わせようとしている…!)
私は、今までカナリアでのほほんと過ごしてきたが、急に怖くなると同時に、自分の甘さを感じた。
唇を強く噛むと、口の中に血が滲んだ。
(どうしよう。やっぱり大会に参加したのはやりすぎだったかしら。こんな変装の魔術具があるなら早めにルカかジャンマルコに相談しておくべきだった。)
過去の後悔がどっと押し寄せるが、私はまだ城に呼び出されてはいない。今からもう一度逃げることは可能だろうか。
そんなことをぐるぐると考えていて周囲の声が耳に入っていなかったが、ルカが「明日また来る」と言って部屋を出ていこうとしたので、私は慌ててついて行った。
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