62.王都
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ガルシアから王都は近く、ルカと共に1時間ほど上空を滑ったところで、城が見えて来た。
「着いたぞ。」
私たちは王都のはずれにある組合本部の近くの原っぱに降り立った。
「空の移動は慣れないわ…。」
私は恐怖と打ち勝っていた緊張がほどけて、ずるずるとしゃがみ込む。ルカにしがみついていた腕は、ぱんぱんに張っていて、明日は筋肉痛が確定した。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。」
ルカが差し出す手をとって、まだふらふらする足をしゃんと立たせる。さっきまでしがみついていたことは棚に上げて、手に触れると急に心臓がうるさい。
エリー嬢が現れてからもうとっくに自覚しているが、私はルカが気になっているらしい。
らしい、というのは、こんな感情が生まれて初めてだからだ。レティシアに転生する前は、科学大好き人間だったから、実験や研究しかしてこなかった。もちろん、人並みに恋愛話に花を咲かせたり、恋愛漫画を読んだりして、羨ましいな、と思ったことはあるが、実験の話や科学の話をする方が楽しかった。
そんな自分が誰かを好きになることなんてなくて、この感情が定義できない。
(困った…私はルカとどうなりたいのかしら…。)
最初こそ、人の表面しか見な横柄な人だと思ったが、弟子が増えて行くにつれて変わっていったのは分かっていた。
ジャンマルコがときおりあごが外れそうなほど爆笑したり、驚いたりしているからだ。この間なんか、パウラがルカを泥まみれにしても、「気をつけろ」と一言だけ言って、お風呂に行っただけで、ジャンマルコが「丸くなった」と言っていた。難しい魔術はできるようになるまで理路整然と導いてくれるし、当初では考えられないが、パウラにもわかるように一段落としたような説明もできるようになっている。
魔術に対してはとても真摯に向き合っているのだ。
(でも、まずはやるべき事をやらなきゃね。)
私は、このまま婚約式まで逃げ隠れて、手に職をつけなければならない。万が一捕まって、あの粘着質王子と結婚する事になったり、妹に殺されそうになったとしても、いざという時に悪いようにはならないはずだ。
そう。私はルカとどうこうなる前に、身の安全を確保しなければならないのである。
「ルカ、ここから王都に行くの?」
私たちが降り立ったのは、王都の端の原っぱだ。ここから組合本部まで歩いていくと、少し時間がかかる。
「ああ、少し寄りたいところがある。」
ルカはそう言うと、街の方へ向かって歩き出した。
――――――――――
ルカに案内されて到着したのは、王都の東の端にあった、古びたお店だ。
ギシギシと音を立てて鳴る大きな木の扉を開けて店内に入ると、埃が被ったガラクタが並んでいる、雑貨屋といったところだろうか。
「じいさん、いるか?」
店の奥に向かってルカが声をかける。すると、店の奥からのつそりと腰の曲がったおじいさんが現れた。
「誰じゃ?」
おじいさんは、背の高い商品が立ち並んでいるため、あまり前が見えていない。
「俺だ。ルカだよ。じいさん、久しぶりだ。」
ルカがその場を動かずに声をかけると、とたんにおじいさんの声がはずんだ。
「ルカか?!」
おじいさんが目の前まで早足でやってくると、「おお、ルカじゃ!」と言ったとたん、どこからともなく大量のゴーレムが現れた。
パウラのリッキーと同じくらいの大きさだが、形が違う。パウラのリッキーは、四角いフォルムに手足が生えているヒト形だが、おじいさんのゴーレムは手が長く、四足歩行をしている。これはさしづめ小さいゴリラだ。
「ちょ、ちょっと?」
私は、ゴリラゴーレムにスカートの裾を引かれ、店の奥にある椅子に座らされた。
ルカも同じようにゴーレムの指示に従っている。他のゴーレムは、かちゃかちゃとお茶の準備をし始めた。
私とルカとおじいさんは、店の商談スペースらしき一角に、三人で座ってお茶をいただくことになった。
「元気だったかのう?ルカよ。」
「あぁ、俺は変わりない。」
「そちらのお嬢さんははじめましてじゃな?私はマルクスじゃ。もう店はたたんでしまったんじゃが、昔はここど魔術具店をやっていたんじゃ。」
「はじめまして、レティシアです。カナリアで魔術を修行しています。」
「ほっほっほ。ヘレナからちょいと聞いておる。ルカが弟子をとったとな。弟子の育成にはむいとらん、と思っていたんじゃが、うまく行っているようでなによりだ。それにしても、こんなに可愛らしいお嬢さんだったなんて、ヘレナは言っていなかったぞ。」
おじいさんは、「ほっほっほっ」と笑いながら私を見る。
「ばあさん、わざわざカナリアにやって来たし、魔術大会でもややこしい事をしやがって…。」
「ほっほっほっ。そういえば魔術師大会があったな。ヘレナはずっと、ルカが出なくなってから大会がつまらんと、言っていたが、こないだうちに来た時には、ルカが簡単に優勝してしまったからつまらん、と言っておったわ。ほっほっほっ。魔術師の育成はヘレナの仕事だというのにな。」
「まったくその通りだ。」
ヘレナというのは組合長だ。おじいさんは組合長と仲が良いのだろう。組合長との光景を思い出して目を細めていた。
「ヘレナから今年の魔術大会は見習い部門の方が見応えがあったと聞いておるが、お嬢さんがリヴィエールの生まれ変わりかな?」
「私にそんなあだ名がついているんですか…?」
リヴィエールは氷の魔術師だったようだから、おそらくそのあだ名は私の事で間違いないだろう。リヴィエールの事をお伽噺の本でしか読んだ事がないから、それが光栄なあだ名なのか、不名誉なあだ名なのかはわからない。
「ほっほっほ。喜んでよいあだ名じゃよ。長年リヴィエールしか使い手がいなかった魔術が復活したんじゃ、しかも、理論をともなって、じゃ。ルカはもちろん、ヘレナも興奮しただろう。長年、水の魔術師たちの魔力効率の悪さをどうにかしてやりたいと思っておったが、いかんせんルカもヘレナも風の魔術師だからなぁ。」
「じいさん、その話はレティシアにしなくていい。本題に入りたい。」
「おお?なんじゃ?」
「しばらく王都に滞在することになった。その間、レティシアを変装させて欲しい。」
「変装…?ルカとジャンマルコが、よく使っていたあれか?」
「あぁ、あれを貸して欲しい。」
「それは構わんが…その美しい顔を隠すのかい?ルカもそうだが、もったいないのぉ…。」
おじいさんは、そういいながらゴソゴソと、店の奥に何かを取りに行った。大量にいたゴーレムは、おじいさんと共に奥の部屋へ向かい、商談スペースにはルカと二人になった。
「ルカ、変装ってどうゆうこと?」
当事者である私を置いてきぼりで話がどんどん進んでいくことに不安を感じだした。
「髪を切ったのはそのつもりじゃなかったのか?」
ルカはこちらを見ずに、ぶっきらぼうに答える。
「あ、私のため?」
「師匠を探していた時も、王都から遠い拠点を探していたな。理由は言いたくなければいいが、不安ならできることはやっておけ。王都に来ない選択肢はできなかったが…。」
「あ、ありがとう…。」
(今まで私のバックグラウンドに関心がないと思っていたけど、ルカはルカなりに気を使ってくれていたのね。)
素直にお礼を言うと、「ふん。」とそっぽをむいてしまった。
(ふふ…なんで今まで気がつかなかったのかしら、耳が真っ赤だわ。)
ガチャ、と扉が開いて、おじいさんが戻ってきた。
ここからようやく?恋愛要素強めになります!
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