60.秘伝書
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私たちはガルシアの城に戻ってきた。
「お祖父様、ガルシアの秘伝書を見せてもよろしいでしょうか?」
スカーレットはお祖父様の部屋を訪問し、ガルシア家に代々伝わると言う秘伝書を見せてもらうように頼んでいた。
「あぁ、準備してある。しかし…ガルシアのものしか読めないと思うぞ。」
「ええ。ですが、レティシアが異国を旅した事があるので、もしかしたらと思いまして…。」
「え?!異国の言葉なんて知らないわ?」
「ワインは異国の飲み物ではなくて?」
「そ、そうね…。」
そういえばワインの説明を異国の飲み物と説明したかもしれない。だらだらと冷や汗がでてくる。見ず知らずの言語が出てきたらどうしよう。
「ふぅむ。まぁよい。これが秘伝書だ。」
「ありがとうございます、お祖父様。」
そう言ってスカーレットが受け取ったのは、重厚に装丁された、古い本だった。
私たちは古い本を取り囲むようにのぞきこむ。
「これが、秘伝書?」
「ええ。秘伝書と言っていますが、実はカエサルの弟子、ヴァーミリオンの日記ですわ。」
そういうと、どこからともなくフゥが現れ、日記を枕にして眠り出した。
「日記?」
「ええ。主にヴァーミリオンがカエサルの元で修行をした日々のことを綴っているのですが、ヴァーミリオンの出自は異国だというふうに言われていて、異国の言葉で書かれています。」
「どれどれ…?」
私はスカーレットから日記をもらって開いてみる。
「こ、これは…。読めるわね…。」
「読めますの?!」
「……。」
(これは、英語だわ…。)
書き出しは、vermillion’s diary と書かれている。
そして、毎日の日記の冒頭は、すべてI love Caesar. から始まっていた。なんだかいろいろと書かれているが、私は英語圏のネイティブではないので、ところどころわからない単語はある。
(けれど…。文法もあっているし、これは確かに英語ね…。)
私の他に、パラレルワールドであるあっちの地球から転生してきた人間がいた、ということだ。
「レティシア?」
どうやらみんなの視線を集中して浴びていたようだ。私が硬直しているのを見て、心配してくれているのが伝わる。
「ごめんなさい。馴染みがある言語で、驚いていたところ。」
私の顔が相当硬直していたのか、クロエやパウラはまだ心配そうな顔だ。その中でスカーレットは、パァと明るい顔になる。
「やはりワインの国の言葉でしたのね?いろいろ国を調べたんですけれど、この日記の言語を使っている国はありませんでしたわ。ワインを見たことがありませんでしたから、もしかしたらと思っておりましたの。」
「お嬢様はどちらでこの言語を…?」
クロエは長年私に仕えているからこその疑問を口にする。
(なんて言い訳すれば…。)
「ワ、ワインのレシピがこの言語で書かれていたのよ。それで興味をもったのだけれど…古い言葉みたい。」
「そうですか…私の知らないうちにお嬢様が勉強なさっていたなんて…。」
クロエは日記の文字を手でなぞりながらうるうると目を潤ませる。ずっと引きこもっていたはずの主人が勉強してたなら感動ものだろう。(騙してごめん、クロエ)と思いながら話を本題へと戻す。
「これは、ヴァーミリオンの日記なのね。スカーレットは読めるの?」
「ええ。ですが、全てが全て伝承されているわけではありませんの。こちらが代々の当主によって翻訳されているものですわ。」
そう言ってスカーレットが取り出したのは、ヴァーミリオンの日記よりも装丁は軽いが、三冊ほど分かれている本だった。
中を開くと、今度は大陸の公用語で書かれている。と言っても、こちらも古代語の類だ。現代語として分かりやすいものは、最近の一番薄い本で、それをみんなで開いてみる。
「これは…山籠りの修行か?」
ルカがパラパラと流し読みながら内容を要約する。
「ええ。歴代の当主は、先ほどのウラカヌス山で修行をするのですわ。」
「それがサラマンダーを使役する秘伝なのか?」
「ええ。ここを見てくださらない?」
スカーレットが指を指した先には、秘伝書の要点が箇条書きでまとめられたページだった。
そこには
1つ ウラカヌス山で修行すること
2つ 激しく修行すること
3つ 二人で修行すること
と書かれている。
「これだけか?」
ルカはその三箇条をじっと見つめながらスカーレットに確認する。
「ええ。ですからわたくしは、ウラカヌス山でお祖父様と毎日魔術の修行をしていたのです。」
「全部満たしているように思えるわね…。」
「ええ。それでもフゥを使役できなかったため、お祖父様にカナリアを紹介されたのですが、カナリアでは少なくとも一つ目と三つ目の要件を満たしませんし、結局のところレティシアやパウラに合わせていたので、激しくもありませんでしたわ。」
「そうよね。お祖父様はどなたと一緒に修行したの?」
私の中でフゥを使役できているとされている人物はスカーレットのお祖父様しか知らない。お祖父様とスカーレットの違いを見つけていくしかなさそうだ。
「お祖母様ですわ。もうずいぶん前に亡くなられたのですけれど、お祖母様はお祖父様より強くて、とても美しかったと聞いています。皆が皆、ヴァーミリオンの生まれ変わりだと…
。」
スカーレットがお祖父様の話をする時よりうっとりとしてお祖母様のことを話す。
「うーん。今のところ、修行の激しさの程度や期間、修行の相手に何か鍵がありそうだけれど、お祖父様と同じ修行をしているのよね?」
「ええ。ですので、一度ヴァーミリオンの日記に立ち返ろうと思いましたの。ガルシア家には異国語の翻訳書があるのですが、それも完璧ではありません。もしかしたらレティシアでしたら完全にわかるかもしれないと思って、今回同行を許したのです。」
「どうりですんなり通ったと思ったわ。」
カナリアでガルシア行きを提案したものの、こんなにすんなりスカーレットを説得できると思っていなかった。
「それと、レティシアは魔術が継承されるかの実験をシノイでしていましたわね?」
「ええ。まだしっかりとしたデータは取れていないけど…。今のところ、魔術は次の世代に継承されているわ。」
「それも知りたかったのです。もしかしたらフゥの使役はそもそもわたくしに資質がないのかとも思っていました。」
「その可能性もなくはないけど、すでに魔術が使えているスカーレットに関して言えばおそらく低いわ。」
私はシノイの交配実験で得た仮説を口にする。発現が弱い個体同士と発現が強い個体同士の交配を進めているが、今のところ魔術は発現している。ただ、もう少し弱い個体を交配して行くと、おそらく魔術の発現が非常に弱くなるはずだ。私は、少なくとも公国の人間は全員魔術の資質があるはずだと推測している。この推測が正しいかはまだ実験を続けてみなければいけない。
「それを聞いて安心しました。」
「じゃあ、私はこの日記を翻訳すればいいのね。」
「ええ。申し訳ないですが、よろしくお願いします。」
「俺も興味がある。一緒にしよう。」
「いいわよ。」
ルカは翻訳書の方を一通り読み終わったようで、今度は日記の原本をパラパラとめくっているが、流石に英語は見たことがないようで眉間に皺を寄せている。
正直なところ、ルカと二人きりになりたくなかったが、ルカの少しワクワクしたような顔をみると、了承するしかなかった。
「では、わたくしとパウラはせっかくですのでお祖父様に修行をお付き合いいただきましょう。いいですわね?パウラ。」
「うん!スカーレットのおじいさん強いんだよね。」
と言いながら三人で連れ立って行く。
「クロエちゃん、ルーカスさんと街に買い出しに行こう。みんなの好みの料理を聞かれているから手伝いたいんだけど、付き合ってくれるかい?」
「ええ、わかりました。お嬢様もお忙しいようですし、街の市場は興味があります。」
私たちはおのおのをガルシアで過ごすことになった。
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