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カナリアの弟子〜1年後の婚約式が嫌なので逃げ出します〜  作者: 佐藤純
第四章:魔術師大会

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57.レティシアの知らぬ間に

Twitter(X)リンク:https://twitter.com/jun_satoh_novel

「まだ見つからなくて?我が愛しのお姉さまは。」


レティシアと同じ、豪奢な金の髪、サファイアのような澄んだライトブルーの瞳、陶器のような肌。侍女に髪を結い上げられながら、その人形のような少女は、鏡越しの侍女長に気だるげに尋ねる。


「半年前に王城から二人の女性を乗せたという御者を見つけました。その二人はオビの街に行ったようです。そここらは御者を変えており、まだ足取りはつかめません。ですが、最近、王城に出入りしている商人が、レティシア様に似た人をフランツで見たと。」


ライトブラウンの髪をオールバックに結い上げた侍女長は、これ以上ないくらい伸びた背筋を揺らさずに、手元の資料をみながら答える。


「フランツ?」

少女の整った顔立ちが怪訝に歪められる。結われている最中だったが、振り返った。


「ええ。エリザベス様、その商人から何か買い付けますか?直接お聞きになってもよろしいかと。」

「そうね、手配してちょうだい。ちょうど魔石が欲しかったところよ。」


(なぜお姉さまはフランツなんかにいるのかしら?)


エリザベスは考える。


(フランツ…フランツ…貿易の要所ね…そして今年は、確か魔術師大会の案内が…)


エリザベスはそこまで思い至って、はっとなった。


「フランソワ。フランツでは今年、魔術師大会が開かれているわね?」

「ええ。確か、オズワルド様が公王陛下の代理で行かれているはずです。」

「ふーん。ちょっと調べてくれるかしら?お姉さまが魔術師組合に所属しているかを。」

「レティシア様は魔術師になられた、ということでしょうか?」

「確信があるわけではないけれど…。お姉さまが息を吹き返した直後、人が変わったようになったわ。それが、魔力発現がきっかけだったのなら、話が通じるかしら?」

「魔力が発現したことによって、自信がついた、ということでしょうか?」

「そうね、逃げる算段がついた、かもしれないけれど。とにかく、調べてちょうだい。」

「は、かしこまりました。先の商人と合わせて調査を開始します。」

「ええ、お願いね。」


――――――――――――――――――――――――


「オズワルド、レティシアはどうであった?」

「はい。公王陛下。レティシア様はお変わりなく…と言いたいところですが、どうやら変装のつもりなのか、髪を短く切っておりました。」

「なに?髪を切ったのか?」

「ええ。平民のようではありますが、そもそものお顔立ちの気品は隠せるものではございません。気がついていない輩もおりましたが、多くの貴族出身の魔術師はどこの令嬢かと噂しておりました。」

「婚約式前に髪を切るとは…。いや、いい。レティシアと同じ髪質の髪を準備させよう。あとは侍女がなんとかするだろう。とにかく、イエールから逃げる素振りはなかったな?」

「そちらについては心配いらないでしょう。いささか居心地が良すぎるようです。」

「ふむ…。」

「その…私は幼少期のレティシア様しか存じませんが…レティシア様があのように表情豊かに話される方でしたでしょうか。引きこもりなどと、はばかられるような噂がのぼっておりましたが、フランツでのレティシア様からはそんな噂は想像もできないでしょう。さらに…。」

「まだあるのか?」

「魔術の腕については、目を見張るものがございます。」

「なに…?そんなにもか?王族はカエサルを祖とする一族だが、一族の中でも魔力の発現は偶発的であった。ここ最近は王族から魔術師は産まれていなかったが…。」

「ええ。レティシア様は水の魔術師なのですが、カエサルの弟子リヴィエールと同じくする氷の魔術師でありました。水の魔術師は本来あまり使い勝手のよい魔術系統ではなく、氷の魔術師も伝説の中だけのものでしたが…。レティシア様が氷の魔術を発動させたとたん、会場がレティシア様を注目なさいました。」

「もともと顔が知られていたわけではないが…目立たせるのは得策ではなかったな。」

「おっしゃるとおりかと。そして、一番お耳に入れたいことは、別にございます。」

「申してみよ。」

「レティシア様の師である魔術師がいるのですが…。」

「確か、何やら難のある男だと言っていたな?」

「ええ、どうやらレティシア様とその男に師弟関係以上の信頼関係ができている…と感じております。」

「なに…?すでにレティシアはその男の手にかかっている、ということか?オズワルド、お前の話では女嫌いという事ではなかったか?どうしてくれる!傷物になった娘など…」

「お待ちください!まだそういった温度感ではございません。おそらく、レティシア様もその男も、そういったことに疎いのでしょう。婚約式までにレティシア様が傷物にされることはなかろうかと存じます。しかしながら、レティシア様が変わられているように、その男も以前とは全く異なる様子なのです。それがお互いの存在の下に成り立っている変化であれば、時間と共に何が起きるかわかりません。」

「組合長に伝えろ。レティシアを王都に呼び戻せと。」

「は。」


公王は、静かになった玉座で考える。


公王の後継者には、公子エリオット、第一公女レティシア、第二公女エリザベスの3人がいるが、誰も彼も問題を抱えている。


エリオットは放浪癖があり、頭はいいが、後継者教育も中途半端に終わり、楽観的だ。今どこで何をしているのかもわかないし、もはや探す気も失せた。

エリザベスは一見まともに育っているが、あれは自分の目的のためであれば手段を選ばない。それが国民のためであれば歴史上に名を残す賢王にもなれただろう。今は、さしづめ害といっていいのかわからない害意がレティシアに向いているが、対象がいなくなるとどこへ向かうのか。

レティシアは国民でさえ知る引きこもりだ。


だが、今日のオズワルドの話をきいて、しかし、と思い直す。レティシアに魔術師としての才能があったのか、と。


パルティス公国は、魔術の国。

その昔、カエサルが興した国だ。

たが、魔術を扱える人間が、必ずしも政治の能力があったかといえば、歴史を振り返ってもそうではなかった。それがわかってきてからは徐々に政治と魔術を分離させた。

そして、今はその魔術と政治を切り離して久しい時がたった。


優秀な魔術師であったならば、国内に残しておくのもやぶさかではないが…帝国に逆らってまで意を唱える必要があろうか…。


公王は悩み続ける。


第四章が終わりです!

ここから完結まで怒涛の展開が続きます!

この画面広告の下にある★マークを押してくださると、頑張れます…!


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