55.賭けの行方
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「エリーは納得出来ませんわ?!」
「どこがだ?」
対戦が終わると、案の定エリーはルカのところに怒鳴り込んで来た。
「何かイカサマを使ったに違いありませんわ。エリーの優秀な弟子が負けるはずありませんもの!」
「馬鹿馬鹿しい。どんなイカサマを使ったと言うんだ。」
「氷の魔術師がいましたわね?氷なんて、伝説のカエサルの弟子リヴィエールしか聞いた事ございませんわ!何かイカサマをしているに違いありません!」
「どんなイカサマで氷が出てくるんだ?試合をよく見ていたのか?昔から君は思い込みが激しくて、魔術も力押しで一片通りだった。」
「まぁ!ルカ様。昔の事を思い出してくださるなんて、やっぱりエリーのことを大切に思っていただけてたのですね。」
エリー嬢は先ほどの怒りはどこに行ったのかという程の変わりようで、一転して嬉々としてルカのほうへ駆け寄ってしなだれかかる。
その途端、ルカは、ピシッと固まり、同時に、そばにいたジャンマルコが頭を抱えた。
「ねえ、ルカ様。弟子達の賭けは無効にしていただいて、エリーと直接勝負をしませんこと?」
「…。」
「エリーは思い直しましたの。なぜエリーたちの結婚なのに、弟子達が関わってくるのかしらって。もちろん、エリーがガルシア嬢の挑発に乗ってしまったことは反省しますわ。」
「…。」
「ですが、今は冷静です。エリーにもう一度チャンスを下さいませんこと?エリー、実はいっぱい修行しましたの。ルカ様よりきっと強くなっていますわ。あの組合長に毎日しごかれていましたのよ?ですから、エリーと結婚してくださいませ。」
「…。」
ルカはずっと固まったままだ。
ルカ以外のカナリアの住人たちは、こそこそと後ろから行く末を見守っていた。
「ジャンマルコ様。ルカ様が固まっているようですが。」
クロエが固まるルカを指してジャンマルコに耳打ちをする。
「ああ…。最近はようやくマシになってきたが、もともとルカはひどい女嫌いで、一定の距離を詰められるとああなっちまう。」
「だらしがないですわね。」
「それよりスカーレット、さっきの賭けは無効って言われてるわよ?腹が立たないの?」
私は、固まってエリーの言いなりになっているルカを見ながら、いいようのない怒りがふつふつと湧いてきたため、スカーレットに共感を求める。
「あの女の悔しい顔を見ることができましたし…それに、同じようにわたくしを馬鹿にしていた周囲の魔術師たちも、驚愕の表情でした。わたくし、満足ですわ。」
「え?そうなの?」
「確かに、みんなすごかったもんね…。それに本人がああだけどルーベルト家の親戚筋のご令嬢ときたもんだから、下手に手を出せないしな。」
「そうなのね。じゃあ…あー!」
ルカとエリーを見ると、エリー嬢が「では、賭けはエリー達の勝負に持ち越しですわね、ゴンザレスに言って来ますわ!」という宣言と共に、硬直するルカの唇にキスをした。ルカは硬直したままだ。
「もう我慢できない…!」
「え?!ちょっと、レティシアちゃん…?」
「いつまで、固まってるのよ…!この、引きこもりの根暗男ー…!」
私はすぐにツァーリの先に氷の塊を作り出し、ルカの頭の上に向かって投げる。ゴンっと音がしてルカの後頭部に当たったようだ。
そのままルカは倒れ込んだ。
エリー嬢はルカを抱き止めながら風の魔術を発動させる。
「ルカ様になにをなさいますの?!」
「うるさいわね!負けたんなら、負けたでいいでしょう?!」
「まぁ?!なんて下品な…!あなたに関係ありますの?!」
「関係あるもないも……あるのよ!」
私は、そう言い切って、横たわっているルカの頭に水をかけた。
「ルカも、いつまで固まっているの?」
「ゴホッ…。はっ?!何がどうなった?」
水責めにあったルカが、ようやく正気を取り戻した。
咳き込みながら、上半身を起こす。
「ルカ、行くわよ。」
私は、ルカを立たせようと手を伸ばした。
ルカは「なんだ?なにが?」とキョロキョロと周囲を見渡しながらも、私の手を取り立ち上がった。
「いいから、行くわよ。」
「あ、ああ。」
頭にクエスチョンマークをつけたままのルカは、言われるがままに手を引かれる。
「お待ちなさい!ルカ様、賭けはエリーたちの試合で決着をつけることでよろしくって?」
私に手を引かれて退場しようとするルカの反対の腕を、エリー嬢が引っ張り、さしづめルカの取り合いのような形になった。
「え、あ、ああ。」
ルカはわけもわからないまま、うなづくだけうなづくと、エリーは満足したのか「よかったですわ!では、正魔術師部門でお会いしましょう?」と言って去っていった。
遠巻きに見ていたカナリアの住人たちのもとへ、ルカを連れて行くと、ジャンマルコが笑いを堪えながら、口を開いた。
「ふ、ふはっ。あーすまん。それで、引きこもりの、根暗男さんよ?どうなったんだ?」
「どうなったとは?」
「エリー嬢との結婚の話は結局どうなったんだ?」
「結局、ルカとエリーさんの戦いに持ち越すことになったわよ。」
まだ状況を把握できていないルカに変わって、私が説明する。
「え?お前達が勝ったから結婚の話は無くなったんじゃなかったのか?」
「ルカが最後、よくわからずに了承したのがいけないのよ!」
「あれが、そうだったというのか?」
「そうよ。」
「…。」
「あと、ルーベルト嬢に口づけもされていましたわね。」
「抱きつかれてもいたよ。お師匠様は固まっちゃったけど。」
「お嬢様に、氷塊もぶつけられていたようにも見えましたが…。」
「クロエ!」
スカーレットやパウラが状況を口々に伝えると、ルカは苦虫をかみつぶしたような表情になった。
「口づけ…?固まった…?」
その様子をみて、ジャンマルコはますますお腹を抱えて爆笑している。
「ルカ。つまり、お前さんは次の正魔術師部門の大会の方でエリー嬢に勝たなきゃいけないってことだ。」
「それ自体は問題ないが、どうゆう経緯でそうなったと聞いている。」
「ま、想像してみろ。それより、いつまで手を繋いでいるんだ?」
ジャンマルコはにやにやしながら私たちの手元をみた。よく見ると、クロエもパウラも笑っている。スカーレットは何をしていますの?といった表情で見ているかわりに、どうやらフゥがコロコロと転がっている。
「離すわよ。それより、大会はどうなったの?」
「さっき、もう二チームの試合が終わったんだけど、勝った方は棄権したよ。レティシア。」
パウラが教えてくれる。
「え?じゃあ私たち…。」
「優勝ですわ。」
「えー!」
どうやら、先ほどの私たちの戦いっぷりをみて、「もう負けでよい」と申告があったそうだ。
あれよあれよと言う間に、見習い部門の閉会式と表彰式が行われ、パウラが10万レルの賞金を大事そうに抱えた。
続く正魔術師部門では、エリーとルカの賭けをしる人たちが、行く末を見守ったが、案の定、ルカが圧倒的な力を見せつける形で優勝した。
ルカは自分が自然とレティシアの手をとっていた事にびっくりしています。そして、全然不快でなかったことにもびっくりしています。もし…ここのジャンマルコ視点のご要望ありましたら応援お願いします!




