54.魔術師大会決勝戦
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「ああ。君をさらった男たちのうち、一人は盗賊集団バローロのメンバーだった。」
「バローロ?」
「あぁ。最近よく耳にする、帝国出身の悪党どもだ。」
「なんでそんな奴らが私たちを狙うの?」
「バローロの真の狙いは今のところわからない。どうやら見習い魔術師だけを選んで誘拐しているように見えるが、その裏にどんな狙いがあるのかはわからない。だが、手がかりは掴んだ。あとは専門の捜索部隊と連携するさ。」
「ばあさんの目的は達成されたんだろ?大会は中止か?」
「いや?もう誘拐は起きない。大会は続けよう。面白い賭けもしているようだしな。」
組合長がルカを見てニヤリと笑う。
「止めてくれ。なんなんだ、いったい。」
ルカはげんなりして額に手を当てて首をふる。
「あれにはほとほと困ったものだが、エリーはお前を手に入れるまで止まらんだろう。相手してやれ、どうせ負けんだろう。弟子を信じるのが師匠だぞ。」
組合長はウインクをする。
「くそばば…」
ルカは何かを言い終わる前に、組合長に殴られた。
組合長は、「明日も頑張れ」と激励を残して去っていった。
「レティシア、大丈夫だった?ゲイリー司祭は何かしなかった?」
パウラはゲイリー司祭を見てから、ガタガタと震えが止まらない。私は、パウラと同じ目線までしゃがみ、話しかける。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」
パウラはほっとした顔をする。
「パウラ。パウラがいなかったらあんなに早くレティシアは見つからなかったはずだ。よくやったな。」
ルカに褒められたパウラは、驚きと恥ずかしさが入り混じったような表情で、頬に血がさした。
「それにしても、連れ去られた他の魔術師が心配ね。」
「自分で身を守る事はできませんでしたの?ツァーリはあったのでしょう?」
スカーレットは魔術師が非魔術師に勝てない事がイメージできていないようだ。魔術師といえども、ツァーリが使えないと効率よく魔力をエネルギーに変換できないし、指向性が落ちる。それに、いくら魔術を使えても、非力な女性は狡猾で純粋な武力には勝てないだろう。
「後ろから何かを嗅がされて、身動きがとれなかったの。縛られてからはなぜかツァーリは盗られていなかったけど、代わりに手枷がはめられてた…。何が狙いだったのかわからないわ。」
「そうですわね…。」
連れ去られた魔術師は心配だが、あとはプロに任せておけばいい。ゲイリー元司祭は、すでに教会を追われている。
「魔術師に復讐できるぞ」という甘言と、金につられただけで、バローロの一員ではないらしい。
「覚えていろ!またお前たちのせいでこんな事に!」
連れて行かれる時は捨て台詞を吐いていたが、もう二度と会わないことを願う。
明日は決勝だ。
――――――
決勝戦がやってきた。昨日の魔獣退治の上位4チームが、決勝トーナメントを行う。
初戦がエリーチームとなので、事実上、これが私たちの決勝だ。
試合リンクにエリーの弟子が三人集まった。フラビオの姿はない。
ニールが一歩前に出て、話しかけてくる。
「勝ったらお師匠様がそっちの師匠と結婚できるのね?」
「賭けはそうらしいけど、あなた達自身には何かメリットがあるの?」
私はふと疑問に思って尋ねてみる。
「正魔術師試験を受けるための依頼としてみなされますわ。王都は依頼の数は多いけれど、幅はそんなに広くないのよ。だから、いろいろな依頼を受けようと思ったら、田舎にも行かなくてはいけないでしょう?それが億劫でしたのよ。」
「とても理解できたわ。」
「そちらは?ガルシア嬢以外にはなさそうに見えるわ?」
スカーレットをチラリと見る。
「わたくしは、ルカの結婚には興味がありませんわ。あなた方に勝って、ルーベルト嬢が悔しがればいいのですわ。あの女の一番のダメージを考えた結果でしてよ?」
おーほっほっほ、とスカーレットの高笑いが響く。
「えー?じゃあ、そこの金髪と黒髪の子はどうなの?」
ルシアが可愛らしくこくんと首を傾けて聞いてくる。
「僕は賞金が欲しいから、負けないよ。」
「あら?たかだか10万レルではなくて?」
高飛車なニールが小馬鹿にしたようにパウラを見る。
「大金だよ。お姉さん、お金の大切さを知らないの?」
私とスカーレットが額に青筋をたてる前に、パウラが臆さずに言い返したことに少し驚いた。
「これだから平民は…。魔術師組合も平民が増えて嫌なものです。あぁ、あなたも短髪だから平民ね?」
ニールが私を見てげんなりとした顔をする。
「そうね。だから何かしら?」
私は説明するのも面倒くさくて、ニールの言葉を否定しない。
「あなたも賞金が目当てなの?手を抜く気はないのね?」
「私は、スカーレットとパウラが勝つ努力をするのに、私だけ勝とうとしないなんてことは絶対にないわ。それに…ルカがエリーさんと結婚するのも…嫌ね。」
ニールが眉をあげて怪訝な顔をしながら、「そう?わかったわ。こちらも手加減はしないわ。せいぜい逃げ回ることね。」と言ってリンクの端に移動した。
「さあ!決勝トーナメント1戦目はエリーチーム対カナリアチームよ!はじめッ♡」
ゴンザレスの開始合図と共に、相手チームが炎の球を連射してくる。スカーレットは大きな炎球を作る事には長けているが、連射を見た事はなかった。私たちは三方に散らばりながら炎の球を避ける。
相手チームは対人戦に慣れているのか、すぐさま誰をターゲットにするか決めたようだ。私とパウラには火の魔術師であるニールとルシア、スカーレットには水の魔術師であるカエラが着いた。私はニールが相手だ。
ニールは炎球を、逃げる私の足元めがけて打ってくる。
反撃の機会は与えてもらえない。不安定な状態で水の試験管を割って魔力制御にひっかけるのもリスクが大きい。
逃げながらどうしようか思案していると、対角線上にパウラがリッキーを量産しているのが見えた。
リッキー達は大部分がルシアに向かったが、何人かはニールとカエラの方へ向かい、背後から足元に可愛らしく蹴りをお見舞いした。
「きゃっ。なに?!」
足元が死角になっていたニールが、慌てて足ぶみをしてリッキーを蹴り飛ばす。ニールの視線は私を外さなかったが、私が魔術を発動させるには十分な隙が生まれる。
「お返しよ。」
私は2本の試験管を割ってツァーリの周りに水を集める。
そして、それを核にして、凝結、そして凝固のイメージを辿る。ピキピキと音が鳴るのと同時に、つらら状になった。
私はそれをニールに投げつける。
「それ!」
「なっ…!まさか、氷の魔術師…?!きゃあ!!!」
ニールが氷に驚愕した事で、回避反応が遅れた。お返しにニールの足元に投げたつもりだったが、少し手前に落ちたようだ。ニールの前の地面に穴が空き、つららが刺さっている。
「本当は広範囲で攻撃をしたいところだけど…。」
私は水をツァーリの先にもう一度集める。
本当はパウラのように小さなつらら氷をいっぱい作って、連続的に投げつけたかったが、私はまだ複数の水球を作れない。とても集中して3本が限界だ。パウラのように魔力の濃淡をつけてコントロールできるのは才能だろう。
土煙が少し落ち着いたところに、業火のような勢いでこちらに向かって一直線に鞭状の炎が飛んできた。私は攻撃しようと思っていた水球を防御に切り替える。ジュッという音がして水が蒸発していく。
「少し驚きましたわ。氷の魔術師ですのね。ですが、まだ洗練された攻撃として昇華できていなくてよ?」
ニールはそう言って私の周囲を炎で覆った。
「ご名答よ。知っているかも知れないけど、見習いで、修行中なの。」
わたしは四方に水を撒き、周囲の炎を消す。
「つらつらとよく喋りますわね。」
ニールはまたしても炎球を作り、こちらを狙う。
私は逃げつつも、水球で自分の周りを多い、防御する。
そして、頃合いを見て立ち止まり、防御球を氷にした。
ニールは炎をぶつけるが、氷なのでなかなか溶けない。
「そこからどうしますの?動けなくなっていてよ?」
「動けなくなっているのは、あなたよ。」
「え、あ!」
そこで初めてニールは、自分の腰から下が氷で覆われている事に気がついた。
「くっ…!動けないわ!」
「そう。私、逃げ回っていたし、水をばら撒いていたでしょう?そして、あなたの足元はつららが溶けて大きな水たまりになってたからね。これはもらうわね。」
わたしは、振り向けないニールの背後に周り、ツァーリを取り上げた。
そして、周囲を見渡すと、ルシアはメタルリッキーに囲まれて土に埋まっていたし、カエラは髪の毛が焦げたと、泣いている。どうやら勝負は決まったようだ。スカーレットの足元でフゥが勝利を喜ぶようにコロコロと転げ回っている。
私は凍傷になってはいけないと思い、ニールの氷魔術を解除した。
「トーナメント一回戦、カナリアチームの勝利ねー!」
ゴンザレスの声が響き、勝負は決まった。
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