51.事件の開幕
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「つまり、決勝戦まで賭けは続くのね。」
私はがっくりと項垂れた。
スカーレットは「なかなかやりますわね。まぁ、わたくしの足元にも及びませんが。」と立ち上がった。
「レティシア、ワインを買いに行きますわよ。」
「ええ。行きましょう。私も売上が気になるわ。」
私とスカーレットは、会場の端にある出店へと向かった。
「すいません、売れ行きは順調ですか?」
「すごいよ!これ!びっくりするくらい売れるね、お嬢ちゃんが作ったのかい?」
ジャンマルコの知り合いだと言う出店の店主は、ワインとねじり鉢巻という似つかわしくない恰好で売っている。
3回戦が始まったので、さっきまであった行列がはけたタイミングだったらしく、すぐにワインを用意してくれた。
「ただ、飲み物に異物は困るよ。」
店長は、はい、とワインを渡しながら苦言を呈す。
「異物?」
「ちょっとこっちを見てくれよ。この樽だ。ガラスが入ってんだ。」
(ガラス…?イエールではあまりガラスは普及していないから、フランツで入った…?誰かが意図的に入れた可能性が高いわね。)
不安に思いながら店の裏手に案内され、ワインの中にキラキラとひかるガラス状の結晶をみて安心する。
「よかった、これは酒石酸ね。寒いと出てしまうけれど、無害なものよ。」
「そうなのか…?じゃあ濾して売ったらいいんだな?ちょっと他の樽も見といてよ。」
「ええ。念のためね。」
「ちょっとあなた、お客様がいらしてよ?」
表からスカーレットの声が聞こえると、店長は店頭に戻って行った。
私は他の樽を確認しようと樽を開けてまわる。
その時、ぐむっと口を塞がれた。
(な、なに?!まさか…)
私は見習い魔術師が誘拐されていることを思い出したを咄嗟にツァーリに手を伸ばすが、口を塞がれると同時にうでを羽交締めにされているため、それも叶わない。
眼だけで周囲を見渡すが、屋台の裏側だ。視界が届く範囲では誰もいない。
(迂闊だった…一人になるなって言われてたのに。私が公女だから狙われてるのかしら…?それとも見習い魔術師だから?)
しばらく力の限り暴れたが、それもだんだん力が入らなくなる。何か毒を嗅がされているようで、だんだんと思考もまとまらなくなっていく。私は静かに目を閉じた。
薄れゆく意識の中、どこかに運ばれて何かに乗せられた気配までは覚えている。それと、何人かの男たちの声…。
「おい、こいつ、貴族じゃないか?」
「髪が短いので平民かと…。」
「この顔立ちみてみろよ?貴族の隠し子か?」
「…。」
私の意識はそこで完全に途絶えた。
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